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カナダひとり旅 正月のケベック

2024年の元旦は、カナダのケベックで過ごした。

初めて一人で過ごす元旦。昨日はしっぽりと自分の一年を振り返る予定が、なんと疲れすぎて寝落ちしちゃって、年越しの10分前に目覚めた。それも一興ということで、今日はずっと楽しみにしていたケベック日帰り旅。Men I Trustというバンドがすごく好きなんだけど、彼らの出身地がケベックということで、ずっと行ってみたいと思っていたの(後から、彼らはモントリオールの出身と分かったけど、すごく素敵だったのでこれはこれでありです)。

ケベックはマイナス五度。噂によると、フランス人入植者が最初に入ってきた場所だけど、寒過ぎてどうしようもなくて、アメリカのニューオリンズまで降りていったらしい。手袋なしでは手が動かなくなるような寒さでも、厚いダウンコートは人々の心まで覆い隠すことはないみたい。たった5時間の滞在で、幾つもの素敵な出会いがあった。

朝6時半、ケベックへの列車を逃すところからスタート。2時間後の電車に変えてもらい、それまで電話したり駅を探索したりして過ごす。半透明の扉の向こうで、地震で揺れる日本の映像がテレビに流れた時には、恐怖で心臓が止まるかと思った。「帰ることができる場所」としての故郷の大切さを思い知る。電話越しに「あんまり(地震の映像を)見すぎるのやめときな〜」と言われても、どうしても見てしまう不思議。傷つく、不安になると分かっていても見てしまう、一種の自傷行為なのか。

心臓が止まるかと思った、日本の地震のニュース。

8時半、列車に乗って北へ向かう。「北へゆくのね ここも北なのに」と歌うあまちゃんの挿入歌「潮騒のメモリー」にインスパイアされて、仙台に日帰りで向かった去年の三月を思い出した。

受付に並ぶ人混みの中から日本語が聞こえたので、近くにいた日本人らしき人に話しかけてみた。ワーホリで日本きてからモントリオールに移住したお母さんと、その娘さん。コロナの時期に移動が難しくて、カナダに残ることに決めたそう。お母さんはモントリオールのダウンタウンにある日本ラーメン屋で働いていて、娘さんは現地の学校で英語・フランス語で勉強しているらしい。「日本語、英語、フランス語も話せるんだ、トリリンガルだね〜」と思わず感嘆してしまった。日本はとても大事だけど、別の国の方が心地がいい気がするという共感ポイントや、日本の大学のこと、交換留学のこと、いろんな話をした10分くらい。あの二人がケベックをたくさん楽しめますように。

車窓から広がる銀世界には、Men I Trustの”Sugar”が似合う。向かい合った席の前に座った女の子は、家族とパーティーに行くためにケベックに行くみたい。おすすめの観光スポットある?と聞いてみると、調べながら幾つも教えてくれた。実は列車のチケットだけ取って、現地のことは全く調べていなかった。チェックリストをクリアしていくような観光の、あのミチミチ感が苦手なの。その場で見つけて、繋がって、巡り合う偶発性を大事にしたい。

列車の中では、昨日出会った素敵な人たちのことや、元旦に感じること、列車からの風景をかいていた。

車窓からの銀世界を楽しみながら、絵を描いたり日記つけたり、友達のお父さんからもらった本を読んだり

ケベックに降り立って、とりあえず市街地へと歩く。駅のそばは閑散としているけど、旧市街の方はホリデームード満載で、たくさんの観光客とお店で賑わっていた。

チョコレートをつけて食べるチュロスに惹かれ、偶然見つけたアイリッシュパブへ。は懐かしいメロディを弾き語るギター演奏と、お店のあったかい雰囲気。

コーヒーを飲みながらギターを弾く人をスケッチブックに描いていたら、隣に座っていたフランス人夫婦がそれを見て、私たちを描いてくれない?とフランス語で言ってくれた。「でも飛行機に乗らなきゃいけなくて、10分しかないけど」と言うので、「5分で描けるよ」と強気で返答。ペンとクレヨンで全集中して、男性の朗らかさと、女性の落ち着きを色で表現してみた。二人に見せたら気に入ってくれたようで、一緒に写真を撮ってくれた。

私のフランス語はだめだめなんだけど、私もフランスに住んでたんだよ〜とか、Laurenceは私が住むアマーストの近くのスプリングフィールドに仕事で行ったことがあるとか、いろんなことが不思議と伝わってエキサイティング。行きの列車の中で、同じ大学に通う友達の弟に、即席フランス語講座を頼んで練習していた言葉が少しだけ出てきた。

言語習得が趣味な友達の弟。イカしてます。ケベック行くんだけどフランス語教えて!と連絡した。


そしてなんと、Laurenceは私のコーヒーの代金を支払ってくれていたの!なんてかっけー人なんだ。お金を稼げるようになったら、生きるのに必要な分以外はこんな感じで人に使いたい、そう思って瞬間でした。

この距離感がうれしい、パブで出会ったフランス人夫婦のLaurenceとNath

出会いはこれにとどまらず、その後また絵を描いていたら、その後に隣に座ったおじさん・Billyは、なんとマサチューセッツに住んでいることが判明。世界狭いね〜って驚きながら、旅をしながら自分を見つけていくことや、人とちゃんと向き合うこと、失ったことよりも今持っていることに目を向けることなどなど、わたし的旅名物「初対面の人とのディープな話」を堪能した。「アメリカ滞在中に、映画に出てくるみたいな古いダイナーに行きたいんだ」って話したら、いくつか知ってるそうなので、今度連れてってもらうことに。Billy、若い世代の友達が何人かいるみたいで、なんとスナップチャット持っててました。大学生やん、私より若いやんけ。

こうしてジェンダー関係なく打ち解けて仲良くなっても、やっぱり時々「ん?」という方向に進みそうになることもあるので、そこは様子見かも。そういうとき自分はやっぱり「若いアジア人女性」なんだと思い知ることもある。同じ大学の友達の家の地主がアマーストのダウンタウンでカフェをやっているんだけど、その人にこの間、冬休み寮で暇なら一緒に犬の散歩でもしようと誘ってもらって、地元で友達ができたことを嬉しく思っていたの。でもその人のなんだか視線がぬるっとしていたので(うまく言えないんだけど、ぬるっと)「うっ」となって、ちょっといいやとなったところだった。
交換留学生って車がないとか情報が少ないとか制限が多くて、必要な時は現地の人に頼らないといけないんだけど、その頼る行為や、新しいことを経験したいという思いからの行動が、相手から「恋愛的な好意」と結びつけられてしまうとそれは困ってしまう。留学は、人との距離感を上手く見極めることも学ぶ機会みたいだ。

店を出る前に、密かに描いていたギター演奏者のポートレートを本人に渡してみた。渡した時はびっくりしていたけど、その後その人は嬉しそうにじっと絵を見つめていて、こっちが嬉しくなった。そのあと演奏をまた始めた時、目があったらウィンクしてくれたり、帰り際声をかけたら、すごく丁寧にありがとうと言ってくれたり。フランス語わからないけど、思いがすごく伝わって胸がいっぱいになった。パブでの演奏はあくまでBGMになることが多くて、お客さんは会話に夢中だから曲が終わっても拍手もなくて。きっと演奏する側からしたらすごく寂しいだろうなと思って、「大丈夫、ちゃんとあなたを見ている人はいるよ」というメッセージを込めて描いた。

今日の学び:一人で行ったら、パブではカウンター席に座るべし!運が良ければいろんな出会いに恵まれる。

パブの外に出て、また歩き出す。気温は寒いけど心はほかほかで、不思議と全然寒さを感じなかった…しばらくは。街並みを楽しみながら、東の港の方へと向かう。雪景色がすごく綺麗で、見惚れながら歩いてら見事にずっこけた。いろんな人と目が合いながら、やれやれと思って起き上がって雪を払っていたら、唯一「大丈夫?」と声をかけてくれたのはすごく優しそうなお兄さん。ありがて〜と思いながらまた歩いていたら、そのお兄さんのグループが集合写真を撮ろうとしていたので、かわりに撮ってあげた。それがきっかけで出身や諸々を話し始めたら、彼らはユタ州から来たモルモン系の宣教師らしい。いろんな場所に派遣されて、そこで人助けをしながら宣教をするらしい。(なのでさっきコケた私に声をかけたのもその一環だったみたいだ。優しさは優しさなのに、宣教の一環と知ってどこかがっかりしてしまったのはなぜだろう。)彼らのポッケには聖書、よく見たらジャケットの中にはネクタイがのぞいていた。小中高大と、キリスト教系の学校に通っていだ自分だけど、「電話番号をくれれば近くの教会に紹介するよ」とまっすぐな目で言われたときには、ちょっとビビってしまった。今度近くの教会覗いてみるよ〜と言ってその場をしのぎ、お別れした。

ほかにも、アメリカで宣教師に何人か会った。宗教との関わりは、まだ探り探りなところが多い。コミュニティとしての、居場所としての宗教。でもどこかで、カルト団体への偏見と見分けがつかなくなってしまうことがある。日本は初詣とかお葬式とかクリスマスとか、宗教的な慣習はあるけどそれを宗教と言わないところがると思う。だからこそ、(自分の触れてこなかった)宗教を「心から信じてます!」と言われると、そしてそれの勧誘を積極的にされると、少し身構えてしまう。

宣教師のお兄さん、写真撮るのめっちゃうまかった

丘を降りたら、世界遺産のホテルがあって覗いたけど、資本主義ギラギラすぎて全然好きじゃなかった。Humans of Capitalismっていうインスタのアカウントがあるんだけど、それを思い出した。豪華なツリーの前で写真を撮るカップル。みんなが誰かに見せるために写真を撮り、その度に通行は妨げられる。その外でソリのために1時間並ぶ大人たちの列を見る方がよっぽど楽しかった。スケートリンクも大人子供関わらず賑わっていて、ここの人たちは、寒さを楽しむ方法を知っている気がした。

だんだん夜が近づいてくる。有名な街並みをいくつか見たり、偶然通りかかった合唱団を聴いたり、名物のPutine(ポテトフライとグレイビーソースとチーズ)を食べたりして、帰りの駅へと向かった。

ようやくぼったくりとそうじゃないのの違いがわかってきた。メインの観光ストリートは、とんでもない質の商品を、えらい金額で売ってくる。ちょっと離れたところの、ニッチなお店がいい。駅への帰り道で見つけたアメリカン雑貨屋さんで、ようやく納得のいくケベックのポストカードが手に入った。微妙なの買わなくてよかった〜。

帰りの電車に乗る。予約した席がエマージェンシー・シートだったらしく、係の人が緊急時の対応の説明をフランス語の早口でしてくれた。あんぐりしている私を見て、「フランス語と英語どっち喋る?」と聞いてきて、私は「英語です…」と答える。正直英語の説明もよくわからなかったけど、説明書き読んだらなんとなくイメージはできたので、緊急事態が起こらないことを願おう。

寒い場所を観光するときの学び:

  1. 寒すぎてスマホのバッテリーの減りが異様に早くなることがある。ポッケにカイロ入れておいて、外を歩く時はそこにしまっておくといい。

  2. 保温機能ある水筒にあったかい飲み物入れとくと、カフェで必要以上にお金使わずに済む。

  3. 人よく歩く道の雪は異様に滑るので、歩いてなさそうなところを選んで歩くか、つま先立ちで歩くといい。

  4. 守るべきは耳と鼻と首と手と足首。地図を見ながら歩く時に手が若干凍傷気味になったので、スマホも反応する手袋がいいかも。帽子は大事。カナダやアメリカの人たちは、耳が隠れるようなピタッとしたニット帽をよく付けてる。日本では若干恥ずかしいと思ってたけど、寒さなめたらあかん。

  5. 寒すぎると異様に鼻水出るので、リッチな施設でティッシュをちゃっかりいただいとくといい。資本主義ギラギラのホテルで、泊まってる人の顔してエレベーターで二階に上り、廊下の展示を楽しんだ後にトイレでナプキンをいくつか拝借した。個人事業主だと罪悪感も残るが、億万長者の家族が所有してるホテルなら、ナプキンの数枚よかろう。

そしてなにより、絵を通して人と繋がれると確信する旅でもあった。「わたしアーティストですけど何か?」という依然たる態度で、ノートとクレヨンを広げて絵を描いてたらいい。興味を持ってくれる人はきっといるし、面白い出会いはどこからともなくやってくる。

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