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ロン・ミュエクとスーパーリアリズム彫刻

ロン・ミュエクとスーパーリアリズム彫刻

ロン・ミュエク(Ron Mueck, 1958- /オーストラリア出身でイギリスで活躍- スーパーリアリズムの彫刻家)
その彫刻は人間の肉体を微細に再現してはいるが、大きさについては工夫をしている。それは、その異様なサイズから、不安で不調和な視覚的イメージを生み出すためだ。


Beyond the bounds of human limitation: Ron Mueck’s Mask II at the British Museum

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by Ron Mueck

プロップ(小道具)でベースを得る

ロン・ミュエクは、当初、子ども向けテレビ・映画のためのモデルやパペット(puppet/操り人形)を作っていた。知られる作品としては「ラビリンス/魔王の迷宮」(1986年に制作されたアメリカ映画)主人公、魔王以外はほとんど全てがマペット(Muppets/パペットの造語) で演じられている。
その世界観にマウリッツ・エッシャー(Maurits Cornelis Escher  1898-1972/オランダの画家・版画家)また、マグリットの影響を受けている。ミュエクは声優としても参加している。

その後、ロンドンで自分の会社と作り、広告用の写実的なプロップ(小道具)やアニマトロニクス(animatronics/生物を模したロボット)を制作した。所謂、プロップ(Prop/小道具)は非常に精密であるが、反対側のごちゃごちゃした裏の構造を隠すアングルから撮られるようにデザインされていた。しかし、ミュエクのプロップは、どのアングルから見ても完璧なリアルな彫刻の制作に挑んだ。

ポーラ・レゴの影響

1996年、義母のポーラ・レゴの協力を得て、ロン・ミュエクは美術界に転身した。この母であるポーラ・レゴの影響は実に大きい。
そして、ヘイワード・ギャラリー(Hayward Gallery/London)でのポーラ・レゴのタブローの一部として、小さなフィギュアを制作した。レゴは、ロン・ミュエクをチャールズ・サーチ(Charles Saatchiコレクター/Saatchi Gallery/)に紹介した。

そして、ロン・ミュエクの名を一躍世間に知らしめた「Dead dad」(デッド・ダッド:亡くなった父)で、これは翌1997年、ロイヤル・アカデミーのセンセーション展(Sensation - exhibition)に出品された。「Dead dad」はシリコン製のミクスドメディア彫刻で、ミュエクの父親(Victor Willing)の死体を2/3スケールで、スーパーリアリズムにて、再現したものだ。この作品の仕上げにミュエクは自分の髪の毛を使った。

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Dead dad

ロン・ミュエクの彫刻は人間の肉体を微細に再現してはいるが、大きさについては工夫をしている。
それは、そのサイズから、不安で不調和な視覚的イメージを生み出すためだろう。
(註)例えば、絵画でも、そのコンテンツ(内容)により、作品のサイズは、自ずと決まってくるものだ。(その逆効果も真なり・・)

ミレニアム・ドーム(Millennium Dome-The O2/ロンドン南東部グリニッジ半島にある世界最大のドーム)で、後にヴェネツィア・ビエンナーレでも展示された「Boy」(1999年)は高さは、5mだ。

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Boy

アートワーク抜粋

・Dead Dad(死んだ父、1996年 - 1997年) - シリコン、アクリル絵具、人毛。裸で仰向けに横たわるミュエクの父親の2/3スケールの彫刻。サーチ・ギャラリー所蔵。サーチ・ギャラリー(Saatchi Gallery/ロンドンにある現代美術のミュージアム)
・Boy(少年、2000年)ファイバーグラス、樹脂、シリコン。高さ5mのかがんだ少年の彫刻。最初の展示はミレニアム・ドームで、現在はデンマーク、オーフスにあるオーフス現代美術館がトレードマーク作品として所蔵している。
・Pregnant Woman(妊婦、2002年)ファイバーグラス、樹脂、シリコン。高さ2.5mの裸の妊婦像で、両手を頭の上に、曲げている。オーストラリア・ナショナル・ギャラリー

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Pregnant Woman

New Works by Ron Mueck

ロン・ミュエクの彫刻の文脈は、人間という不可思議な生物を追っている、そして、生と死というテーマに極があるのだろう・・・

#学術 #現代アート #ロン・ミュエク

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