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【銀英伝】ロイエンタールを描いてみた

田中芳樹さんの描く不朽のスペースオペラ『銀河英雄伝説』。忘れている所が結構あったので、このたび読み返しました。やっぱり銀英伝っておもしろいなあ!
──黒と青の瞳、ヘテロクロミア。それは理性と感情という性格の異なる物が同居する男を描く上で、必要欠くべからざる表現なのかも知れない……
(CV屋良有作)

※この記事は、作品の紹介中に色々なネタバレが含まれます。主観やオリジナル要素も多いので、お気をつけください。


◆オスカー・フォン・ロイエンタール

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ロイエンタールは艦隊司令官として実務に詳しいだけでなく、補給面で後方と交渉したり、遠征軍の人選も含め政治的な考え方ができる理性の人です。

しかしその一方、暗い家庭環境から生じたゆがんだ性格を持ち合せている人物でもあります。

父は豪商で、母は斜陽の貴族。父方は肩書を求め、母方は資産を求めた打算の結婚でした。それゆえか母は後に浮気をし、本来ありえない黒と青の瞳の赤子ロイエンタールが生まれました。
狼狽した母は背信の証拠を消すべく、我が子の左目をナイフでえぐろうとするも成し得ず自殺。父は酒に溺れふさぎ込み、息子の成長にともない疎ましく思うだけでなく、冷たく扱いました。そのためロイエンタールは、「自分は生まれるべきではなかった」と自己否定の心を育ててしまいます。

しかしミッターマイヤーと出会い、その爽やかな人柄に触れて理性と感情のバランスが取れるようになりました。ただし彼は、「自分の人生にどんな意味があるか」と、冷めた知性と鬱屈した感情で疑心を捨てきれずにいます。

彼を見ていると、「家族愛を教わらなかった人は、幸せをつかめないのか」という気持ちになります。DV、ネグレクト、育児放棄。親の背信が家庭に蓄積し、与え合うのではなく奪い合う環境が築かれた。家族の分裂や虐待が、児童にとっていかに恐ろしいかを考えさせられます。

私は最初、ロイエンタールのことを野心家と思っていたのですが、次第に印象が変わっていきました。
彼は家族愛の代わりとして、ラインハルトに対する敬意で心を満たそうとしたのではないか。忠誠心と愛情がないまぜになっているんじゃないだろうか。主・ラインハルトは信頼を、従・ロイエンタールは忠義を与え合う関係。これは実際うまくいっていたと思います。
ところが、ラインハルトは純粋な軍事で収拾できない問題に際し、謀略を用いる参謀オーベルシュタインを重用するようになります。ロイエンタールは主の愛情が陰ったように錯覚し、以降、彼はラインハルトに忠誠を尽くしながらも、いつか信頼が霧散するのではと漠たる不安を覚えるようになった、と私は推察しています。

後に謀反を働く彼だけど、そこに向かう複雑な状況を例えれば、親の愛を試すような子供心が発端だったかも知れません。不幸にも、というか主従関係として当然、ラインハルトはロイエンタールに対して無償の愛情を抱いてはいません。そうして二人は与え合う間柄から、奪い合う関係に陥ってしまった。

分裂した家庭が、結局は分裂をもたらした因縁であることが残念でなりません。せめて私は彼らの離別を教訓として、内乱がいかに愚かなことか、総合力を高める協力とはなんであるかを学びたいと思っています。


◆ロイエンタールの立ち絵と軌跡

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黄色い字と線がロイエンタールの仕事を現わしています。
統帥本部総長は、宇宙艦隊をいかなる目的でどこに派遣するとか、そのために必要な武器食料などを軍務省に要請するとか、作戦全体を考える人です。

特にロイエンタールは皇帝の堂々たる言動に惚れ込んでいるので、大規模な遠征や正面切っての戦いを立案する傾向があります。
すると問題になるのが遠征軍の補給線を司る兵站部署。それが紫色で示した軍務尚書オーベルシュタインの仕事です。大規模遠征は補給線が伸びロスが出やすいため、後方はこれを嫌います。そのためかオーベルシュタインは、謀略や暗殺を遠征同様に戦法の一つとして考えています。
しかし皇帝ラインハルトは陰謀によって宇宙を盗みたいと考えておらず、その意向に沿ったロイエンタールは「陰険な謀略を用いるくらいなら、犠牲を払ってでも戦勝すべし」の姿勢を崩しません。

作戦の元締めとして軍需物資を要求する統帥本部総長側と、兵站の元締めとして無駄をなくそうと指摘する軍務尚書側の攻防。
そんな感じで、ロイエンタールとオーベルシュタインはいつも議論の種が尽きない関係だと思います。粘り強い交渉と調整、作戦意図や動員規模において交わされる提案と激論。二人のタフな舌戦を想像するだけで、興奮冷めやらぬ今日この頃です。

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あっ、ミッターマイヤーとの親友関係を書こうと思っていたのに、オーベルシュタインとの確執を書いてしまった……。ロイエンタールとミッターマイヤーの気持ちのいい間柄は、次回書きたいと思います。

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※この記事は、田中芳樹さんの作品の版権管理会社「らいとすたっふ」の二次利用規約に則した創作をしています。規約をよく読んで、大丈夫だと思う表現をしたのですが、もしお気づきの点があればフィードバックしていただけると幸いです。

ここまで読んでいただいて、ありがとうございました。


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