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宝石の国 11巻

人類滅亡後の世界で紡がれる神話。
遅ればせながら最新刊読了。

10巻は、フォスが祈りを金剛に強要して(※本来、祈りは人に無理強いするものではない)襲いかかったところで終了しましたが、金剛はお祈り機能を起動するもやはり故障しており、やはり実行できず。

待ち望んだ終焉の兆しを見て、月人のみなさんは「最後の20分をどう過ごすか」奔走して「家に帰る」。その辺りの描写は、なんか好きだった。

しかし、金剛が祈れなくてよかったというべきかなんというべきか、実は月人以外の宝石とアドミラビリスもまとめて祈りによって消失するという事実が発覚。だから、月人にいくら請われても金剛は祈らず、故障してしまったのだという。えー、そんな話聞いてませんけど!

いやいや、エクメア。お前はいいかもしれんけどさ。散々事実伏せて自分の思い通りにゲームメイクして、冥土の土産とばかりにカンゴームからの愛も獲得してズルくない?

しかし、このシーンは市川春子ならではの光が透けた描写、幾何学的で無機質な月都市の表面、詩的なセリフ回し、などの要素が詰まっていて、好きなシーンではある。

一方、フォスフォフィライトさん。
200年同胞に砕かれた状態で埋められて、すっかり宝石たちへの憎悪と金剛への執着が育ってしまったようです。邪悪。

それにしても、何巻か前には金剛のことを「命じゃないから、守る必要はない」「あれがいるせいで宝石は脅威に晒され続ける」と結論付け、お前が月から戻ってきて嬉しいと金剛に言われた時も「バカにしてるの?」と疑心暗鬼になっていたフォスが、現在は金剛の祈りだけを唯一の心の拠り所にしているあたり、悲しく滑稽である。

私は、女性作者は主人公(特に男主人公)を甘やかしてしまう傾向があると思っているのですが、ここまで、主人公をけちょんけちょんにする作品は珍しい!と思って感心しました。

(※解説 幼少期における親との関係など本人にはどうしようもなかった問題があって、苦悩はむしろ進んでさせるけど、なんだかんだ甘やかす。才能があるなど、初期パラメータが異様に高かったりするパターンか多い気がする。例)三月のライオンの零くん。あいつ、なんだかんだで全然将棋負けないんだもん......。)

11巻終盤、またもや新事実発覚。
フォスフォフィライトの一連の変化は、すべてエクメアの計画通だった。

たしかに、粉から宝石を元に戻せそうだという話になったときに、仲間を取り戻せるかもという安堵よりはむしろ「やっぱりぼくは正しかった!」という方向性で笑っていた辺りで、人間らしいともいえるようなフォスの心の歪みは感じていたけれど。

そりゃないぜ、エクメア。

フォスフォフィライトは数奇な運命に翻弄されながらも自らの意思で行動し、今に至ったと思っていたのに、すべてお前の思惑の範疇でしかなかったというのか。

しかも、金剛がフォスフォフィライトに従ってしまうのは情によるものではなく、ましてや愛なんかでもなく、フォスフォフィライトを『人間』として認識しているが故の行動であるとわかり、ますます救いがない。

金剛が10巻でフォスを「あなた」と呼び、助けてくれたことは、自らを犠牲にして停滞した状況を打開したフォスに対する敬意のようなものだったのかなと楽観的な考えを持っていた私は、少なからずショックを受けました。

ルチルには、パパラチアがいる。

シンシャは、彼女本来の知性や思慮深さ、優しい心根や強さがみんなに認められた。

ベニトには、ネプがいる。見下されてるみたいで嫌いだと思っていたけど、やっぱり助けたい相棒。(ていうか、この大きいリボンがついたブカブカの服かわいすぎる)

フォスの粉になった宝石の仲間を戻すという、かつての目的は失ったが(アドミラビリスを殺して殻を全部剥がなくてはいけないということで挫折)、その研究には、図らずもエーティが情熱を傾ける。

それに対し、フォスは宝石を粉から戻る必要はないと断じる。彼の胸中から、当初の目的は既に失われている。彼は、ほかの誰よりも孤独だからである。粉になった仲間は自分を責めると思い込んでいるし、地上の仲間には敵とみなされているし、月の仲間は各々自分勝手に居場所を獲得しているからである。

次巻、エクメアは地上に降りる予定らしい。金剛とどのような遣り取りをするのか楽しみだ。エクメアは、なんとなく人間だった頃の記憶をいまだに持っているような気がしているのだけれど、その辺りのことも明らかになるのかもしれない。

そして、邪悪なバケモノと化してしまったフォスフォフィライトと、仲間を得て夜から抜け出したシンシャがどんな風に対峙するのかを楽しみにしながら、続きを待ちます。

なんでもいいけど、カンゴームのデート服が可愛すぎた。

私は、市川春子先生の絵は芸術的すぎて上手いのかどうかよくわからないんだけど、構図のセンスと銅版画みたいな雰囲気が大好きです。


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