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麒麟がくるレビュー・2軍       その15「道三わが父に非ず」って言っちゃったよ。

私の単なる思いつきで、今年82歳になるじーちゃん(日本人。日本在住)と12歳になる息子・エル(日本人とスペイン人のハーフ。スペイン在住)にNHK大河ドラマ『麒麟がくる』のレビューをお願いしている。これは、それぞれが記憶力と日本史の知識に限界を持つ2人にドラマを見せ、その反応を見るという、たぶんレビュー史上初の実験的な試みなのだ。

すんません。前座に一つやらせてください

肖像画クイズ画像

『麒麟がくる』を15話見続けたエル。ドラマの主要人物の外見はもちろん、性格も立場もわかってきた。
ところで、彼はドラマの登場人物たちの現存する(本物の)肖像画を見たら、正しく誰かを言い当てることができるだろうか。

これ、やってみたかった。
エルの日本史知識がある程度貯まるのを待っていたのだ。
ドラマは熱心に視聴しているエルだが、彼は日本の小中学生のように日本史を勉強していないので、日本史常識はほとんどない。
さあ、私はエルのために数人分の肖像画を用意して、それが誰なのかを当てさせる準備をした。早速やってみよう。

ウィキペディア画像の肖像画でクイズ

問い:以下の4人に該当する肖像画を1~6の中から見つけてください。
(豊臣秀吉、斎藤道三、竹千代、明智光秀)

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【数え年12歳のエルの回答】
1.竹千代(大人になったらこんなもんだよ)
2.明智光秀(見たことあるんだよ。つるんとしてマメみたいな顔だね) 
3.X(へんな古い人) 
4.X(全然強くない感じ) 
5.豊臣秀吉(だってサルみたいじゃん) 
6.斎藤道三(厳しそうなかんじだから)
【正解】1.武田信玄 2.明智光秀 3.斎藤道三 4.徳川家康(竹千代)5.豊臣秀吉 6.源頼朝(平重盛とも)

ご覧の通り、エルの回答結果は2勝2敗だった。
織田信長の肖像画は入れないのか、という意見もあろうかと思うが、実はエルはもう信長の肖像画を知っているっぽかったので、外した次第。

彼のコメントによると、光秀の肖像画は既にどこかで見ていたらしい。
一体どこで・・・? ったって、私が見せる以外は考えられない。
「つるんとしたマメみたい」な顔であるという講評には、私も同意。
光秀は信長に金柑のように広い前頭部、もしくは薄い髪をからかわれて「きんか頭」と呼ばれていたとも聞く。
肖像画はそのあたりの特徴を今に伝えているということか?

エル曰く秀吉の肖像画に関しては、なんと「秀吉はサルと呼ばれていた」ことだけを頼りにして探したという。
肖像画の中で一番サルっぽいのが5番だった、というわけ。お見事!

竹千代、つまり徳川家康の肖像の正解を聞いたエルは驚愕した。
あまりにもドラマとイメージが違うからね。
「そっか。ドラマだからね。やっぱりフィクションなんだね」
まあね。
実際の徳川家康も子供の時は肖像画みたいな狸オヤジではなかっただろう。
また、道三については、剃髪後の絵が肖像画になっていると思っていなかったらしい。
とはいえ、秀吉をキーワードの「サル」一つで見つけたサル、もといエルを褒めてつかわす。

実は、じいちゃんにも同じ問題を出してある。
今回、回答をお願いしたが、彼は問題を誤解しており、しかも電話口では数字と人名がこんがらがってしまって、わけがわからなくなったので、結果発表は次回にいたしまーす。

で、エルの感想

エルによれば、第15話の注目ポイントは6箇所あったとのこと。
それぞれについて感想を述べてもらった。

【道三が頭が丸くなったこと】
全然イメージが変わったね。こっちの方がWise(ワイズ/賢い)な感じ。丸い頭のこっちのほうが僕は好き。カッコイイ。
*ちなみに私がうっかり「道三が頭を丸めた」と言ったら、エルは「ああ、やっぱり丸めるの? 手で?」と返答した。一体何をどう考えていたのだろうか。

【帰蝶が織田信光に「殺せよぅ」と心の中で言ったこと】
帰蝶は強いね。賢いし、とても好き。うまいこと言って、心の中で「殺せよぅ・・・」って年上の叔父さんに命令したんだよね。

【織田信光が織田彦五郎を殺したところ】
この人、刀の使い方下手。すぐに殺せないし、相手のおじさんのお城なんだから、さっさとやらないとすぐに城のガードの人とか来るんだから。捕まらなかったのはラッキーだよね。

【斎藤高政(義龍)が弟たちを殺すところ】
孫四郎や喜平次は、ボディガードもつけずに高政のところに来るなんて、ダメだよ。敵でしょ、敵。高政は頭いいね。自分は寝ているだけで、弟が殺されたあと、grin(グリン/ニヤリと笑うこと)したね。好きじゃない。

【秀吉が出てきたところ】
秀吉、可愛い。喋るの早いね。武士ってなりたかったら、簡単になれる? 秀吉がなるって言ってるけど。僕もなりたい。

【孫四郎と喜平次の死に道三が悲しみ、怒りまくる場面】
これは、もしかしてちょっとは本当に怒ってるかもしれないくらい、すごいいい演技だね。でも、こんなに怒ったり、悲しむくらいなら、なんでもっと前から孫四郎や喜平次を大事にしてあげなかったの? 
もっとテレビに出さないと。みんなが応援できないから。
僕、知らなかったよ、こんな兄弟いたの。
大体、道三が高政にお城もお金も全部あげたのはどうして? 
何考えてたの?

オレ、帰蝶が好き

今回のエピソードで、エルは「すごい好きな人」と「すごい嫌いな人」ができたらしい。
すごい嫌いな人は、斎藤高政である。
そりゃそうだろうね。私も嫌いだ。
では、すごい好きな人は?
「道三やろ?」
私はエルの顔を見る。彼は好戦的な強い人が好きなのだ。
すると、彼が言った。
「オレ、帰蝶が好き」
え。女の人じゃん。
「なんで? 美人だから?」
慌てて尋ねる私。
エルはドラマや映画で、まず女性キャラクターを好きになった試しがない。
ついにエルも帰蝶の魅力にやられたか。
すると彼は憮然として答えた。
「違うよ。僕は強い人が好きなの。帰蝶は強いから好き。僕は、帰蝶が美濃のトップになってもいいくらいだと思う

なるほどー。エルの判断基準は全然ぶれていなかった。
そうか、斎藤家の中で道三を凌ぐ者は、今や帰蝶ぐらいしかいないのかもしれない。

ドラマがちょっとわかって嬉しいじーちゃん

今回のじーちゃんは、頭痛に悩まされることもなく、明るく電話口にやって来た。
ドラマの前半のあらすじを、ああだった、こうだった、といつになく饒舌。なんせ、固有名詞がスラスラと出てくるのだ。
「えー、光秀が道三の次男の孫四郎の要請で稲葉山城へ行ったんじゃ。孫四郎と弟の喜平次もいてな・・・。まあ、高政に家督を譲られたのが不満でのう。帰蝶も孫四郎の味方で・・・」
じーちゃんがひと呼吸するところで、私は急いで口を挟む。
「すごいやん。今回はスラスラ人名も出てくるねぇ」
じーちゃんが高らかに笑った。
「はっはっは。メモを取ったんじゃ。いつも人名が出て来んから話しにならんやろう? 登場人物を線でつないで関係を書いたメモを見ながら今話しをしとる」
と嬉しそう。

今エピソードの名場面の一つ、帰蝶と義理の叔父・織田信光との団子を食べながらの会談のシーン、帰蝶による「お打ち(討ち)なさい。碁(織田彦五郎)を」の掛詞で二重の意味を持ったセリフについても自信たっぷりに説明するじーちゃん。
どうやら、自分でもドラマのわけがわかって嬉しいらしい。
努力が実ったね、じーちゃん。

メモを取る最中にもストーリーが進んで困る

ドラマの最初のあたりの描写についてはやたら詳しかったじーちゃんだが、別の注目場面、
・信光が織田彦五郎を暗殺するシーン
・斎藤高政が家臣を使って、弟の孫四郎と喜平次を殺すシーン
などについて言及しようとしない。
その点について尋ねると、急にじーちゃんの声のトーンが落ちた。
「いやぁ。困ったことに頑張ってわしがメモを取っている最中にも、ストーリーがどんどん進むんで困るんじゃ。そしたら、その間に話しが分からんようになってしまって・・・」
弱々しい彼の喋り方がいくらか芝居がかっているような気もするが、確かにじーちゃんの能力でメモを取りながらストーリーを追うのは難しかったのかも。
そこで、私が話しを振ってあげることにした。

道三はかぶっておったじゃろう?

「じゃ、出家した道三についてどう思う?」
剃髪したあともすごくカッコいい道三について、私はじーちゃんにひと言感想を聞きたかった。
すると、この82歳は実に妙なことを口走るのである。
「ああ、道三はかぶっておったじゃろう?
「は?」
意味が分からない。
するとじーちゃんが勝ち誇ったように喋り始めた。
「最初はわしも道三(正しくは演者のモックン)が、本当に頭を剃ったと思ったんじゃ。でも違う。あれはかぶっておったんじゃ」
じーちゃんは、つまり道三がハゲのカツラを被っていたと言っているんである。
「耳の後ろから首にかけてシワが寄っていたんじゃが、あれは被っておるからじゃ。カツラとその下の筋肉の動き方が違うからシワになる」
「ああ、そうなん・・・?」
「間違いない。上手く出来ているが、あれはカツラじゃ」
そういってじーちゃんはカツラの見破り方についてもっと詳細に説明すると(とはいっても「ハゲのカツラの頭頂部を見ても継ぎ目はないから、耳の後ろ辺りを見ろ」とかそういうハナシだ)、静かになった。

「えー、何か他に言い残したことある?」
私が尋ねると、じーちゃんは
いんや、もうおません
と、明るくおっしゃるので、今回の電話インタビューは終了となった。

おわりに

最近、エルが2軍レビューにおけるじーちゃんの発言について気にしている。ライバル心というよりは、笑えるネタを探している様子。
今回のクイズについても、じーちゃんの結果が知りたいらしい。
それは来週のお楽しみだ。

一方、じーちゃんは、エルに完敗していることは自覚済みである。
この夏にエルが日本帰国し、2人一緒にドラマを観てエルの感想を聞くのを楽しみにしていたけれど、今年はコロナの影響で帰国は出来ないかな。
エル曰く「おのれ。コロナめ、叩っ斬ってやる」。
いやいやエル、それは『麒麟がくる』のセリフじゃないよ。
好きなのわかるけど、それは新選組のマンガだろ。