男前豆腐

UFO(うざい・不愉快・男前豆腐店)の暑苦しい物語『風に吹かれて豆腐屋ジョニー』#67

スーパーの豆腐売り場で、ひときわ目立つ、暑苦しいパッケージの豆腐をご覧になったことはありますか? わたしが初めて見たのはたぶん「男前豆腐」でした。

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(男前豆腐店株式会社HPより)

なんじゃこりゃ?という印象だったのですが、食べたことがあるという友人に聞くと、「おいしい!」と言うので買って食べてみました。

おいしい! 濃厚!!!

そんな出会いがあって以降、「男前豆腐店」のシリーズは見つけると買うようにしています。ちょっと高いですが、他のお豆腐には感じられない「豆の香り」が好きだったんですよね。

そんな「男前豆腐」が、どうやって生まれたのか。その背景を綴ったのが伊藤信吾さんの本『風に吹かれて豆腐屋ジョニー』です。

開発の裏側よりも、「3個100円の安い豆腐に対抗して生き残っていくためには?」「ツルンとした食感が豆腐だと思っている人に濃厚さを感じてもらうためには?」というマーケティングの話が多めです。

著者であり、男前豆腐社長の伊藤さんの経歴がおもしろいんです。

建設業と豆腐工場の息子として育ちますが、家業を継ぐ気はなし。レーシング・ドライバーの浮谷東次郎や矢沢永吉に心酔し、「自分の世界観を突き詰めるんだ!」と鼻息を荒くしていたそう。将来自営業をやることも視野に入れて、簿記の1級を取得(意外とちゃんと考えてる)。税理士になるか悩んでいたところで、貿易会社に誘われシンガポールに赴任します。

食産業のおもしろさに目覚め、会社を辞めて築地でアルバイト。そうして、24歳のとき、お父さんの豆腐屋さんに入社することになります。

日々、営業現場でスーパーや消費者の声を聞いている分、「安くて、それなり」の大量生産豆腐をつくることに耐えられない。そして、「豆の濃厚さ」を活かした豆腐を開発することを決めます。

ウザイくらいにこだわりが強いけれど、マニアックすぎる世界にはまらないようには気を付けたとのこと。

こだわりの職人が時間をかけてていねいに作るから一日200丁しかできない。だから高いんだというタイプの高級豆腐なら、以前からありました。でも、マニアックすぎる世界は好きじゃない。いいものを庶民に売りたいと考えていました。

社内で「UFO(うざい・不愉快・男前豆腐店)」と呼ばれるほど、ひたむきに研究に取り組んできた伊藤さんですが、決してひとりよがりにならなかったのは、経営者の視点も持っていたからかもしれません。

本には「社外秘資料」として、「人物相関図」や「Don家 家系図」といった商品同士の関係性を示すストーリーも紹介されています。表には出ない、というか、豆腐には関係がない(笑)ところまでガッツリ作りこんで、あえて「ダサさ」を残した戦略で販売しているそうです。

業界への危機意識や、人気商品を躊躇なくアップデートしていく姿勢など、開発者としても経営者としてもおもしろい人物です。

ちなみに、会社のキャッチコピーは、これ。

「本物の男前は あなたを裏切ったりしない」

(ホントに暑苦しいな…笑)


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