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ラクス・クライン有能説について語る

最初に

 今日YouTubeをみていたらこの動画がサジェストされたのでみてました。

 この動画を見ていたらラクス・クラインという人物について色々と考えが湧いてきたので彼女について今回触れていこうと思います。

ラクス・クラインという人物について

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 そもそもラクスについて知らずにこの記事に辿り着く人もそう多くはないと思いますが、軽くラクスについて触れておこうと思います。
 彼女はガンダムSEED、及びその続編であるDestinyに登場するヒロインであり、彼女の父は宇宙コロニー自治組織プラントの元最高評議会議長であり穏健派政治家の中心であるシーゲル・クラインです。そんな立場の彼女はプラントの大人気アイドルであり、父と同様に穏健派の言動が目立つ女性でした(SEED序盤)。
 しかし主人公キラ・ヤマトと出会い、そしてキラが乗機であるストライクを撃墜され重傷を負った際に彼を救出、その後のキラの代名詞ともなり、Z.A.F.Tの最新鋭モビルスーツであるフリーダムガンダムを彼に授け、ラクス自身も軍艦に座乗して戦争を集結させるための第三勢力、「三隻同盟」として戦争を集結を早めました(SEED中盤から終盤)。
 戦争終結を経てラクスはキラとともにオーブで隠居、戦災孤児とともに暮らしていましたが新たな戦争の勃発を受けキラとともに蜂起、またも戦争終結に向け活動したのでありました(Destiny)。

 ラクスの行動原理は作品の中でもあまり語られておらず、彼女自身が謎めいた言動や具体的な説明をしないことにより理解に苦しむ部分が多いのです。惨劇を防ぐと言いながら自らもその力を用いて敵を封じている、ここは矛盾なのではないかと子供の頃の僕は感じていました。これについてある程度の確証を得、そしてその結果彼女はその見た目と印象とは裏腹にかなり有能な政治家・戦略家として見ることができるのではないかと思ったのであります。

ラクス・クライン有能説

・フリーダムを急にキラに授けるという奇行
 ストライクを喪失したキラは乗機を失いましたが、そんなキラを敵国の国民であるラクスは保護し、あろうことか最高軍事機密かつ最新技術により核エンジンを搭載した新型機、フリーダムを彼に授けました。しかしこの行為は当然プラントによって発覚し、父シーゲル・クラインは当時の最高評議会議長であり政敵・タカ派のパトリック・ザラによって国家反逆罪とされ殺害されます。結果として彼女は父が殺される理由を自分で作ってしまったことになります。そこまでしてなぜキラを救う必要があったのか。
 そもそもラクスとシーゲルは政治的に穏健派であるということに共通点はあるものの二人の考えは微妙に異なっているというところがあると思われるのです。シーゲルは穏健派であり即時講和、連合との宥和を求めていたのに対し、ラクスは対等な立場での交渉と最終的なプラントの独立、そしてその先の平和を求めているということです。対等な交渉のためには力が必要で、力の最も大きな要素は軍事力です。そしてプラントの軍隊であるZ.A.F.TはSEEDの段階ではパトリック・ザラの影響が大きくそれをラクスが乗っ取ることは困難です。よって彼女が目指したのは少数精鋭の軍事勢力によるクーデタであり、その結果としてプラントの最高評議会議長になるということであったろうと思われます。
 つまり、「ラクスの私兵」創設の上でその柱となるのがフリーダムとキラの組み合わせであり、これは劇中でも圧倒的な戦力として機能しました。しかしあくまでキラはオーブ出身の元地球連合兵士であり、プラントの軍人ではありません。これもなりふり構わず戦える戦力を整えるための選択であり、Z.A.F.Tからのアスランの引き抜き、地球連合軍脱走兵集団のアークエンジェルの引き抜き、地球連合の侵攻により崩壊したオーブ軍残党旗艦のクサナギの合流などにより少数精鋭ながらも戦局を左右するだけの戦力を短期間で整備することに成功しています。そしてZ.A.F.T、連合、オーブ三勢力の集合体をまとめあげるだけの求心力がラクスにはあり、そこが彼女の指揮官としての有能さでもあると言えるわけです。その上三勢力の有志連合であるが故に目的が戦争終結のためという点で一致していたというのも強みだったと言えるでしょう。

・カガリを取り込むという戦略
 オーブ連合首長国は中立国であり「オーブは他国を侵略しない、他国の侵略を許さない、他国の争いに介入しない」をモットーにしていましたが戦争中に連合との同盟締結を迫られ地球連合に侵攻され、フリーダムの努力も虚しく戦局は必ずしも好転せず、オーブ代表であったウズミ氏は軍事技術の流出阻止などを目的に自爆、自決しました。そしてウズミ氏の養子であり、後継者と目されていたカガリはオーブから脱出、そのカガリを囲い込むことによって三隻同盟に引き込むことに成功しています。さらにこのカガリを囲い込んだことが後々生きることになります。

・三隻同盟
 ラクスはフリーダム・ジャスティスの母艦として建造されていたエターナルもZ.A.F.Tより強奪、これを合流させ、結果として作り上げた私兵集団・有志連合である三隻同盟はどこの軍にも所属しないただの武装集団であり、法に照らして考えた場合に正規軍ではなく、劇中において行っていることはただの暴力であると言わざるを得ません。しかしこの三隻同盟の力は一つの艦隊としてみればその質は他国の艦隊を凌駕していました。その上でラクスはその戦力を集中させ、地球連合へのプラントへの核攻撃の阻止、そして大量破壊兵器であるジェネシスの破壊に全戦力を投入することで虐殺の阻止と戦争の早期終結を実現させました。
 しかしあくまでこれはただの武装組織であり、軍閥と言え、違法行為です。ここでカガリを囲い込んだことにより終戦後に三隻同盟の主要戦力はオーブに亡命するという形をとり、その上でオーブ国防軍に編入するという選択ができました。SEEDの時には国家の後ろ盾がないため戦術としては全戦力を最も重要なポイントに対して迅速に投入する遊撃戦しかできなかったものが、オーブの支援が入ったことによりその戦闘能力を大幅に向上させ、しかもただの軍閥であるという謗りを回避することに成功しました。さらにアークエンジェルもオーブの地下で密かに保管、整備されているようにオーブ軍と三隻同盟の関係はズブズブです。
 軍人、政治家として特に目立ったところがあるわけではないカガリを囲い込んだ意味はここにあったと言えます。

・秘密組織「ターミナル」
 ラクスが創設した秘密組織「ターミナル」はプラント内部に於いて独自の情報網、諜報網を持ち、ドムトルーパーなどといったモビルスーツの設計図、ストライクフリーダムやインフィニットジャスティスなどといった新型機の開発すらも行い、情報収集と根回し、支持の取り付けなどの工作を行っていたと思われ、そしてその基盤は父シーゲル・クラインのものを引き継いだのであろうと思われます。穏健派最大の政治家を失った状況でヤキン・ドゥーエ戦役を戦い戦争を早期終結させたラクスに穏健派の支持が集まったのは想像ができます。つまり「ラクス帰還待望論」です。しかしその状況でラクスが戻ってもデュランダル議長の前では厳しい状況と言わざるを得ません。なんとしてもデュランダルを排除した上でラクスが帰還するしかないのです。

・キラ・ヤマト『准将』
 オーブ軍に加入したあとのキラ・ヤマトの階級はまさかの『准将』です。准将というのは指揮官であり、部隊を率いねばならない立場ですがキラに直属の部下がいるようにはとても思えません。
 しかし、最初に紹介したDestinyの動画を見ていただくとキラがラクスたちに向けて「命令」を発しているシーンが確認できます。准将というのは戦隊指揮官程度の階級であり、具体的には同種の軍艦3〜4隻程度を率いる階級です。ここまで説明すればもうお分かりでしょうが、あの三隻同盟の指揮官を務めているのはあのキラ・ヤマト准将なわけです。例えばあのアスランなんかもオーブ軍では二佐であり、キラの方が階級が上です。
 そして三隻同盟はオーブ宇宙軍第二艦隊の所属であり、第二艦隊のなかの一つの戦隊としてこの三隻同盟があり、その指揮官がキラであったわけです。しかしキラは基本的にモビルスーツに乗って前線で戦うことが多いのでその指揮官としての役割を代わりに務めていたのがラクスでありました。しかしラクスはプラント国籍を捨てておらず、当然オーブ軍の軍人でもありません。よってエターナルにはプラントからオーブに亡命したオーブ軍人であるアンドリュー・バルトフェルドを起用し、あくまでバルトフェルドに「助言」をするという立場として実質的に指揮を取っていたものと思われます。
 つまり、キラの下にはエターナル艦長バルトフェルド、アークエンジェル艦長ラミアス、クサナギ艦長ソガ一佐の3人がいるという形になっていると想像ができます。

・花嫁カガリ誘拐事件
 SEEDでオーブ首脳部が自決した後オーブの代表となったカガリは許婚でありオーブの宰相であるユウナ・ロマ・セイランとの結婚式を執り行うこととされます(この辺、アスランについて言いたいことがちょっとあったりなかったりしますが割愛します)。しかしこの結婚式の最中にキラのフリーダムが乱入し、カガリは誘拐されます。そしてその花嫁を誘拐したフリーダムをオーブ軍は迎撃しませんでした。
 これについてもですがこの頃はまだキラはオーブ軍の軍人ではありませんが、上に書いたようにすでにオーブ軍との関係がズブズブであるためこのキラの乱入は事前に軍部には伝えられていたのではないかとすら考えられます。
 そしてカガリがいなくなったことによりオーブでは地球連合との同盟に肯定的なユウナの力が強まり、これによってオーブは中立を破棄して地球連合と同盟し、プラントとの交戦にまで踏み切ります。これによりオーブは戦争ができる国に作り替えられたこととなります。三隻同盟がオーブ軍に編入されるなどしたこともラクスが実質的にオーブ軍を指揮下に置いたと言え、この中立破棄はあまりにもラクスにとって都合が良すぎます。
 これもカガリが為政者として理想と現実の間で悩み、状況が芳しくなかったことから一度政治の舞台から引き下がらせ、オーブをラクスにとって都合の良い方向へと導いたということもできます。そしてオーブは実際にプラントと開戦するわけですがユウナは軍部からの支持が得られておりません。そして軍部からの支持を得ているのはキラたちであり、結果としてユウナのオーブ軍はZ.A.F.Tの前に劣勢、そんな最高のタイミングで軍部からの支持が厚いカガリというカードを切り軍部の支持を得ると政権を奪取、オーブを戦える国に作り替えた上でラクスがコントロール可能な人間に首を挿げ替えるという最高の状況を作り出すことに成功しています。

・Z.A.F.T.軍部とのパイプ
 あくまでラクスが目指しているのはプラントを作り替え、自分が統治することであります。その理想を目指すためにはオーブの協力が必要であるが故にこのような根回しと政治的工作をしてきたわけですが、プラントでの発言力を得るためにZ.A.F.T.軍部とのパイプ、特にヤキン・ドゥーエ戦役を生き延び、戦後に迫害され日陰にいたイザーク、ディアッカたちとのパイプを作っていたと思われます。彼らは戦況が佳境に至る中で「エターナルを援護する」「あれはもともとこっちの船だ」などと発言しています。ここからもエターナルは船籍を失ってはおらず、すでに裏でラクスとの交渉が済んでおり、エターナル援護を名目としてこのクーデタに参加したと言えるでしょう。ラクスもこのためにあえてエターナルにZ.A.F.T.の船籍を残しておいた、もしくは情報を操作してZ.A.F.T.艦であるということにしたのだと思われます。そしてこのクーデタにより戦局が傾き、当時のプラントでNo.1の立場であったデュランダル議長が敗北する結果となりました。

・ラクス、プラントへ凱旋
 そもそもラクスはヤキン・ドゥーエ戦後にキラと共にオーブに移住していますが、彼女はプラント国籍を捨てておらず、亡命もしていません。その目的はただ一つで、彼女が目指しているのは自分がプラントを統治するということです。
 そしてその後の映像でラクスがプラントへと凱旋する様子が描かれていますが、そこにはイザークも共にいます。今回のクーデタ成功によりイザークの階級が上がったことは明白で、クーデタ参加勢力が軍部の中で発言権を強くしたことは容易に想像ができます。そしてその中心にいるのがイザークであり、キラも戦後にオーブ軍籍を維持したままZ.A.F.T.白服となっています。こうして軍部主流派すらも味方につけたラクスはある意味パトリックすらも上回る力を持ってプラントに帰還、最高評議会議長となります。
 地球連合は今回の戦役により疲弊、結果として地球連合入りしていたオーブはその力を示し地球連合内部において主導的な立場を手にいてました。そしてそのオーブのトップはラクスの友人であるカガリです。つまり地球連合のトップがカガリ、プラントのトップがラクスという、ラクスにとっては理想とも言える世界を構築し、SEEDの物語は終わりとなります。

最後に

 ここまで長々と書いてきて、このラクスという人物はかなりのやり手というか、やはり政治家戦略家としてはかなり有能な人物なのであろうなという結論に至りました。彼女は平和を求めているというイメージがあり、アイドルとしての清純な印象も相まってその支持を取り付け、一方でその自分が理想とする世界を作るためには流血は防ぎつつも根回しやあの手この手でその理想を実現しようとする、そういった人物であったのだろうと。そしてその彼女を支援しようという人間が多く集まるのも彼女の人望と印象が為せる技なのであろうと。SEEDやDestinyではこの辺の裏工作はあまり描かれませんのでパッと見ただけではラクスがなぜあんな立場にいるのかよくわからないのですが、ここまでのことを考えればラクスがあの立場にいるのは当然ですし、ラクスじゃないとおそらくこういった結果にはならなかったのだろうと思います。

 一方で彼女が平和な世界を作った後どうするのか、どういった世界を理想とするのかについてはよくわかりません、戦争を止める、惨劇を防ぐという功績は彼女に与えられるべきものですが、為政者として有能かどうかはよくわかりません。特に彼女は政治力と発言力が莫大ですから。その辺がどうなったのか、考えてみるのも面白いかもしれませんね。

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