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槍ヶ岳へ

2023 夏
13年越しの、2度目の槍ヶ岳へ

<行程>
1日目:新穂高温泉→槍平小屋
2日目:槍平小屋→南岳→中岳→大喰岳→槍ヶ岳
3日目:槍ヶ岳→(飛騨沢)→新穂高温泉


活動データ・行程 YAMAPより


1日目 新穂高温泉〜槍平小屋

7:30 新穂高温泉ロープウェイ駅 出発

7月28日 晴れ

水と食糧を詰め、日焼け止めをよく塗って、歩き始める。

ロープウェイ駅の駐車場を出て、小一時間ほど林道を進む。

林道の途中で、看板に釣られるままに「近道」を選んだ。林を突っ切る近道のルートはそこそこ険しく、足元が少しぬかるんでいる。結局ショートカットせずに前を歩いて行った人と全く同じ時間で穂高平小屋に着いた。

穂高平「近道」
近道の途中
抜戸岳

8:30 穂高平小屋 休憩

槍平小屋までトイレはないので済ませ、荷物を背負い直す。

穂高平小屋からさらに舗装された道を歩くと、ほどなくして山道がはじまった。白出沢、チビ谷、滝谷を横切りながら、谷づたいに歩く。

チビ谷手前、直前の大雨で新しく出来たブドウ沢も通過。沢の途中で立ち止まるのは危険なので、素早く通り過ぎる。

白出沢から望む笠ヶ岳

10:30 チビ谷 休憩  

沢の岩は白く、照り返しが眩しい。
山の上に雲がかかってきた。

10:50 滝谷 通過

滝谷出合 電波ありますの看板

滝谷を過ぎて、槍平に入る。モレーンと呼ばれる、氷河に岩や石が運ばれてできた平らな地形が続き。低木の植物が茂っている。湿度と日差しで体感気温は高いが、川に近づくと風が気持ち良い。南沢の水でアームカバーを濡らして涼んだ。

木陰の中、木道をすいすい進んでいくと、いつの間にか赤い屋根が見えた。

12:15 槍平小屋 到着

到着!

標高1990m
休憩込み 4時間45分
本日の高低差 ↗︎942m ↘︎70m

暑かったけれど、地図で見るほどの高低差は感じずに程よいペースで1日目の宿に到着。

槍平小屋 玄関
小屋前の植物
1日目 おつかれ!

小屋の前には広いウッドデッキもあって、到着した人や休憩に立ち寄った人たちが、ベンチに座ったり、デッキ上に腰掛けたり(日差しで熱されてあつあつだけど)、思い思いに休んでいた。

わたしたちは汗だくの服をすぐに着替え、物干し竿で乾かしながら到着の乾杯。

印度カリー子さんのザクザクスパイスふりかけをかけて食べる焼きそば

自販機には一番搾りとスーパードライがあった。川沿いなだけあって、自炊場や洗面所の水の出も良く、水も豊富にある。

13:30 夕立到来

ウッドデッキでお疲れの宴会をしていると、たちまち空が暗くなり雨がぽつぽつし出したので、急いで天日干しされている服を回収。あっという間に叩きつけるような豪雨と激しい雷が始まった。

雨宿りに漫画を読んで、くたびれたので小一時間ほど寝る。(明日のために、この間も水分補給はしっかり)

17:45 夕食

槍平小屋名物のスパイスカレー
ご飯を3杯食べる

夕飯のあと、近くにあるという神社までサンダルのままお散歩した。テント場の向こう、川を渡って1分ほど歩くと茂みの中に小さな祠があった。山行の無事を祈ってお参り。4人中3人、靴下を濡らす。

19時頃、雲が晴れて夕焼けのジャンダルムが
お目見え

2日目 槍平小屋〜南岳~槍ヶ岳

7月29日 晴れ

3:30 起床

休憩室でおにぎりとお味噌汁の朝食を済ませ、2日目歩き支度をする。

5:30 槍平小屋 出発

宿の人に聞いて、南沢まではポールを携えて行く。
前日の熊の目撃情報を聞きびくびくしながら、
なるべく大きな声で話し歩く。

日もまだ差さず鬱蒼としている

30分ほどで南沢に着いた。ここからはポールを仕舞って歩く。薄暗い朝の沢はいかにも熊が出てきそうで、足早に通り過ぎる。

6:40 奥丸山の向こうに朝日を受けた抜戸岳、
笠ヶ岳が顔を出す

南岳新道の急登がはじまった。南岳山頂直下の南岳小屋までは移動距離2km、標高差900mを上がる。

だいぶ登ってきた

南岳の上りは、急な上に足元の石も滑りやすい。
だが西側の尾根は朝日が遮られていてさほど暑さを感じないし、何より槍に向かっている高揚感で足取りは軽い。時々立ち止まって、背後の山々やあとにした山小屋を振り返りながら進む。

槍平小屋の赤い屋根が遥か下に見える

2時間ほど歩くと視界が開けた。ハイマツが姿を見せ、右手にジャンダルムが現れる。その堂々と厳めしい姿はおそろしく、また標高が上がった実感がうれしい。樹林帯はやがて完全に終わり、切れ落ちた谷に向かって岩が剥き出しになっている。四角い岩に手足を掛けしがみつくと、背後には何もない。手を離したら、ということは考えずに登りきると、やがて下り、鞍部に差し掛かった。
少し歩き疲れてきた。

8:00 「西尾根のコル」と地図に書かれている鞍部で、最初の大休憩。

槍平から南岳山頂まで距離にして真ん中のあたりまで来た。山小屋のヘリコプターが、荷物をつけて頭の上を行き来する。

ジャンダルムが見えた!
手か足が滑ったら、終わり
潰れたパンケーキ

ハイマツと岩の急斜面をよじ登ると、ついに稜線が見えた。空がぐっと近づき、尾根の両側は切れ落ちて道が細くなる。いよいよはじまる高山帯に心躍りスキップしたくなるけど、そういうわけにもいかないので、ところどころある木道を躓かないよう気をつけながら歩く。

鞍部からまた急斜面が始まる
休憩直後の体が重い
遠く穂高連峰の稜線も進むごとに鮮明になる
歩いている間に、笠ヶ岳に雲がつき始めた
稜線へ歩を進める
通ってきた道を振り返りその心許なさに驚く

9:00 岩の連なる尾根を外れ、左にトラバースを始める。まだまだ体は軽い。

カール状の広い谷をジグザグに突っ切り、最初のピークである南岳に迫ってゆく。足元にミヤマダイコンソウの黄色い花が咲いていた。

10:00 南岳小屋

標高2975m

南岳小屋で水を補充、お湯を沸かして早めのお昼休憩をとる。ここから先は稜線歩きと、いくらか安心して清々しい気持ちでいた。岩稜帯を上り下りすることをこの時はまだ知らない。

槍ヶ岳方面へは南岳山頂を通り、北へ向かう。一方小屋の南側は、三大キレットの1つである大キレットを通って北穂高岳へ向かう道が続く。南岳小屋は槍ヶ岳と、北穂高岳それぞれに向かう分岐点になる。

進行方向とは反対の、大キレットへの入り口を覗いて見て、その高低差に啞然とした。北穂へ行く時は、涸沢から登ろうと思った。

南岳小屋から大キレットへ続くルート
北穂は雲の中

南岳小屋まで来くると、今回の目的地、槍ヶ岳が初めて姿を見せた。ゴールが見えるというのはとても嬉しい。どんなに遠くからでも見分けのつく、その鋭い峰を見ながら、雷が鳴る前に着けますように、と心の内で願った。

槍ヶ岳が遠くに顔を出す

11:17 小屋をあとにし、ほどなくしてなだらかな南岳の山頂を通過。

標高3033m、ライチョウに出会う。

夏毛のすっきりとした立ち姿
眼前に槍ヶ岳を捉えながら進む
あっ
オンタデの陰にライチョウの親子
ライチョウの赤ちゃん

12:20 中岳

標高3084m

足場の狭い岩壁や平たい石のガレ場を緩やかに下った後、再び一気に登り中岳頂上へ。思いがけない急登に息が上がり、頂上で休憩。

二段続きのはしごを降りる

中岳を過ぎ、最後のピークの大喰岳へ向かう。
梯子の出現に、また下るなんて、という文句を通り越して笑ってしまった。下りきると道の両脇にたくさんの高山植物が花を咲かせていて、お花畑が広がっていた。

お花畑はずっと下まで続いている
ヒュッテ大槍の建物、そこに続く急な道が見える

13:15 大喰岳

標高 3101m

大喰岳に着くといよいよ遮るものはなくなる。
研いだように鋭利な穂先、赤い槍ヶ岳山荘の建物、槍沢のハイマツの緑やそこに落ちる雲の影、見渡す限り続く山々の稜線、視界に入る全ては信じられないほど美しい。厳しい自然の作る悠々とした景色に畏れを抱く。もう一度来ることができてよかった。かつて自分を連れてきてくれた祖父は、ここにいるような気がした。

13年前は、ここから見下ろす槍沢を登って来た。
樹林帯を過ぎると、槍沢カールにハイマツの緑と雪渓の白が広がっていて、見上げると槍ヶ岳が待ち構えていた。初めて大地讃頌を聞いた時、その景色が思い浮かんだことを思い出す。

いつの間にか頭上の雲が切れ日が差していて、天気が傾くことなくここまで来れたことにほっとした。

槍ヶ岳が眼前に迫る
槍沢の登山道と殺生ヒュッテ、
右の奥にヒュッテ大槍を見下ろす
2010年8月 槍沢から望む槍ヶ岳

大喰岳を出ると、飛騨沢乗越を過ぎて間もなく槍ヶ岳山荘のテント場に入る。初夏の連休、下の方までテントが連なっている。最後の登り、一気に疲れが出てくる。下を向いて一生懸命歩く。

14:00 槍ヶ岳山荘 到着

標高3070m

休憩込み 8時間30分
本日の高低差 ↗︎1347m ↘︎256m

山荘の前は人で溢れていた。空いているベンチを見つけて荷物を置く。次々に登山者が到着し人が増えてゆく。大所帯の外国のツアーも来ていて、ハイシーズンの観光地そのものだ。小屋の脇から山頂へ向かうルートは団体の登山者で混雑していたので、登頂は明朝にしようということになった。

わたしたちも観光地の画の一部として、槍沢カールに面したカウンターに腰を下ろし、無事に生ビールで乾杯。

新穂高温泉から計13時間半、おつかれさま!
正面に常念岳、蝶ヶ岳
右手に歩いてきた道が見えている
槍ヶ岳山荘のプリンと、大雪渓カップ

17:00 夕食

この日は宿泊客が多く、夕食の時間は早い時間から何部にも分かれていた。一日中歩いたあとの白いご飯は、本当に美味しい。

槍ヶ岳山荘の夕食
かわいい
岩陰に色とりどりのテントが立っている


日没まで時間があるので、外のベンチでコーヒーを淹れて待つことにした。西側には立ち上る雲海が一面に広がり、夕日に照らされて、雲には山の、山には雲の影を映している。風が吹くたびに雲が動き、景色を変えてゆく。時折、風に乗って辺りに薄い靄がかかるがたちまち晴れ、この日天気が崩れることはなかった。

18:59 日の入り

雲が切れると西鎌尾根が現れた
続々と外に人が出てくる
小屋の裏手で日の入りを待つ
険しい岩の壁が赤く染まる
太陽が沈み、上空の雲だけが照らされていた
日の入りの後
残照の槍ヶ岳
日が沈んだ槍沢
テント場に明かりが灯りはじめている

日が沈んだ後も、夜に向かって変わる空の色や暗く静かになる山々から目を離せずにいたが、途端に気温が下がり冷えてくるので、明日の朝を楽しみにしながら、名残り惜しく小屋に入ることにした。

3日目 槍ヶ岳~新穂高温泉

7月30日 晴れ

3:30 起床

山頂で日の出を見るため、ヘルメットとヘッドライトを着け外に出る。足元も山もまだ暗い。空は深い紺色で、東の水平線だけが真っ赤に光っていた。槍ヶ岳の黒いシルエットに、登って行く人たちのヘッドライトの列が動いている。遠く常念岳や蝶ヶ岳にも、人が活動していることがわかる光がチラチラしていた。

4:15 山頂へ向けて出発

足元が見えるくらい明るくなってきた。山頂へは梯子や鎖が続き、岩や杭に手足を掛け登っていく。空は刻一刻と色を変え、どこを向いても息をのむほどきれいで時々後ろを振り返ってみるが、足を滑らせてはひとたまりもない。後ろからはどんどん人が来るので、止まって景色を眺めるわけには行かない。慎重に、列を止めないように進む。

手前の稜線にも奥の稜線にも明かりが見えている

4:35 槍ヶ岳 登頂

狭い山頂には人が大勢いて、もうすぐで満員という感じだった。バランスを崩して転ばないよう足元の安定した場所を探し、日の出を待つ。じっと立っていると少し風が冷たい。

眼下には山脈と雲がどこまでも続いている。
西の空がピンクや紫に染まり、東の地平線の赤い線がみるみる伸びてゆく。

4:50 日の出

昨日歩いてきた大喰岳方面と、穂高連峰
槍ヶ岳山荘が真下に見える
日が上ると、遠くの雲に槍の影が映った

下に降りると、太陽が昇って槍沢に日が差していた。足元の花の色がはっきり見えてくると、槍沢カールは楽園のようだった。

お昼のお弁当を受け取り、焼き立てのクロワッサンを朝ごはんに食べる。小屋の外まで焼き立てパンの匂いがしている。

槍ヶ岳山荘のおこわ弁当

6:50 槍ヶ岳山荘 出発

山荘西側から西鎌尾根を下って、千丈沢乗越から飛騨沢に下りるルートを歩く。最終日は快晴。日が高くなるにつれ稜線の影はみるみる縮み、一面の緑色が眩しかった。

西鎌尾根に続く谷
なだらかな裏銀座の山々


標高が下がり、急激に気温が上がる。飛騨沢ルートは思ったより急斜面で、足元の石がガラガラと滑りやすい。休憩を挟んで1時間半ほど下ると樹林帯に入った。下り道の変化のなさと暑さに全員押し黙りながら、さらに1時間半ほどひたすら下る。

瞬く間に稜線が遠くなる

9:50 槍平小屋

下り道に足もくたびれ、汗だくで1日目の宿泊地まで戻ってきた。休憩をたっぷり取る。沢を渡って、1日目に来た道を戻る。

滝谷出合、ジャンダルムの怪物のような姿がこちらに迫っていた。

滝谷ドームを見上げる

14:30 新穂高温泉ロープウェイ駅 到着

休憩込み 7時間40分
本日の高低差 ↗︎89m ↘︎2060m

完歩!素晴らしい槍ヶ岳山行も終わり。最後の舗装された道がどこよりも長く感じた。

本当に楽しかった。また、違うルートで来れますように。

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