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 1988年ソウル五輪のシンクロナイズドスイミング(現アーティスティックスイミング=AS)のソロ、デュエットで銅メダルを獲得した小谷実可子さん(56)が、8月に鹿児島市で開催される世界マスターズ選手権のASに出場する。2人の子どもを育てながら国内外のスポーツ団体で多くの仕事に励む中での〝現役復帰〟。挑戦に込めた思いに迫った。

 アスリートとして競技と向き合う意思の強さは、日本中を沸かせたソウル五輪の頃と変わらない。小谷さんはソロ、デュエット、チームの3種目で出場する世界マスターズへ準備を進めている。

 「ソウル五輪で銅メダルを二つ取ったので、色でも数でも超えたい。自分でできることをすべてやった状態で大会に臨みたい。そこだけは20代の五輪に向かう思いと同じ」

1988年ソウル五輪で銅メダルを獲得した小谷さん

 2人の子どもを育てながら、日本オリンピック委員会(JOC)や国際オリンピック委員会(IOC)など国内外のスポーツ団体の要職を兼任してきた。自身が持つ肩書は10個以上に及ぶ。

 そんな中でも〝現役復帰〟を決めたのは、東京五輪・パラリンピック組織委のスポーツディレクターを務め、多忙を極めた時期。「本当に身も心も100パーセントで、必死の日々。終わったら絶対、抜け殻になる。終わった後の目標というか、次に頑張ることを見つけておかないといけない」。次の目標として思い付いたのが、自国開催のマスターズ出場だった。

 小谷さんの日常はハードだ。午前6時に起床し、家族の弁当を準備。前夜のうちに洗濯機にかけた洗濯物を取り出して片付け、掃除、夕飯の支度を済ませる。空いた時間にストレッチを行い、その後、仕事や練習へ。買い物の前後で車からリモート会議に臨む。夜中に参加する国際会議もある。

 マスターズに向けた練習は週に3日程度。ASの練習が可能な深いプールを探すのにも苦心している。デュエットでコンビを組むのは2004年アテネ五輪銀メダリストの藤丸真世さん。藤丸さんも仕事と家事を抱えており、日程調整に悩んだ。

 逃げ出す〝言い訳〟はいくらでもある。当初は「楽しくやれたら…」と思っていた。昨年末、現役時代の恩師、市橋晴江さんにその姿勢を一喝された。「楽しむためだけにやっている小谷実可子は誰も見たくない。競技者としての覚悟を持ってやりなさい」。胸の中に宿る闘争心に火がつき、練習や競技に向き合う心境は変わった。

 周囲の仲間の存在も大きい。マスターズを目指すのは、小谷さんのような元トップ選手ばかりではない。社会人になって競技を始めた愛好家もおり、80歳の選手もいる。「小谷さんのソウル五輪を見て、私もシンクロを始めた。一緒に泳げて夢のようだ」と言ってくれる人もいた。現役選手を教えるバリバリの若手コーチも、「シンクロ界のレジェンドである実可子さんのお手伝いができてうれしい」と練習を見てくれるように。1カ月前に「無理だ」と思っていた動きも、次第にできるようになってくる。

 「この年でこんなに自分が成長できると思っていなかった。できなかったことができるのは『こんなに楽しいんだ』と感じる。スポーツの力を今まで散々、いろんな人に言ってきたけど、わが身が一番実感している」

 7月に福岡で世界選手権の解説を行った後、鹿児島でのマスターズに挑む。「藤丸さんと2人、ASの現場に観客を呼び込みたいという使命感にかられている。マスターズではあるけど競技の魅力を伝えたい」。ソウルの激闘から35年後の夏、九州で再び小谷さんが舞う。(伊藤瀬里加)

華々しい小谷さんのキャリア

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伊藤 瀬里加

伊藤 瀬里加

記者

福岡県宗像市出身。 2008年入社、同年夏から運動部。一般スポーツ担当。 過去にはソフトバンク、東京五輪などを取材。 小学1年から取り組んだ剣道は5段の腕前。 趣味はジョギングでフルマラソン完走2回も、万年、口癖は「ダイエット」。 走ってもそれ以上に食べて痩せないのが悩み。

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