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【迫田さおりさんコラム】迫田さおり人生初の手術告白「忘れずに覚えておこう」どん底から見えた「新しい景色」

 ◆バレーボール女子元日本代表・迫田さおりさんコラム「心の旅」

 好きな言葉は「心(こころ)」だという。バレーボール女子元日本代表のアタッカー、迫田さおりさんは華麗なバックアタックを武器に2012年ロンドン五輪で銅メダル獲得に貢献した。現役引退後は解説者などで活躍の場を広げる一方、コロナ禍が続く中、スポーツの魅力を発信しようと自身の思いつづっている。

◇  ◇  ◇

 34年の人生で初めて手術を受けました。今夏の仕事中にスパイクを実演した際、左膝の靱帯(じんたい)を損傷したのです。松葉づえなしでは歩けません。仕事もキャンセルになり、多くの方に迷惑をかけてしまいました。私事を公にすることにためらいはあります。それでも新たな自分探しのきっかけになるような思いがして…コラムのタイトルでもある「心の旅」の途中に、今の素直な気持ちをつづらせてもらいます。

 今まで膝を故障したことはありませんでした。両親から丈夫に産んでもらい、東レ時代に肩を痛めた時も周りのサポートのおかげで手術を経験することなく選手を続けることができました。幸い“元気な体”でユニホームを脱げたのに、どうして手術が必要になるほどのけがをしてしまったのか、頭を整理できませんでした。

 足を着く角度が…と自分を責めるのならまだしも「なぜこのタイミングでけがを? 理由を教えてください!」と“神様”に悪態をつきました。鹿児島の家族にもなかなか打ち明けられませんでした。「大丈夫です」と、周囲に対して平静を装っていたストレスに耐えきれず、ある先輩に電話しました。限界でした。

 泣きながら、感情をぶつけました。黙って聞いてくれた先輩は、穏やかな口調でこう言ってくれました。

 「つらいときこそ、その時間を大切にしないとね。見えないところでも頑張っている人は輝いているし、笑えないのに笑って、我慢している人が一番格好いいじゃない。そんな人にならないとね。なりたいね」

 ささくれ立っていた心を先輩の優しい声が静めてくれました。「今の私は試されているのかな」と冷静になれたと同時に、数え切れないスパイクを支えてくれた左脚から問われた気がしました。現在の自分を過信していたのではないか。バレーボールに限らず、感謝の気持ちも足りなかったのではないか。神様が「けが」という形で気付かせてくれたのかもしれません。

 後輩の狩野舞子さんも食料品の差し入れなどで助けてくれました。1学年下の彼女は両アキレス腱(けん)を断裂したほか、膝も手術しています。自身の経験を踏まえて、気を使ってくれました。けがをしたアスリートはメンタルも含め、どれだけ分厚く高い壁を乗り越えてきたのか、と考えさせられました。現役選手に限らず、一般の方でも大けがをした後は足を着くにしても、前に踏み出すにしても怖さはあるはずです。それに打ち勝ってきた強さを尊敬します。私はけがをした多くの人と接してきながら、ただ分かっていたつもりだったのでしょう。

 どん底まで落ち込んだ私は、心の奥まで全てさらけ出せる人たちに救われました。「けがをした今の場所から見える景色を大切にしようね。忘れずに覚えておこうね」-。これも先輩の言葉です。痛みと引き換えに自分を顧みる時間をいただきました。いつか「けがをして良かった」と思える日が来たら…。大切な想(おも)い出として心のアルバムに残せる気がします。(バレーボール女子元日本代表)

 ◆迫田(さこだ)さおり 1987年12月18日生まれ。鹿児島市出身。小学3年で競技を始め、鹿児島西高(現明桜館高)から2006年に東レアローズ入団。10年日本代表入り。バックアタックを武器に12年ロンドン、16年リオデジャネイロ五輪出場。17年現役引退。身長176センチ。スポーツビズ所属。

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