【加藤未央×青木真也】目的を見据えた、こだわり過ぎない食事法

2016/11/12
アスリートが、日常や試合当日に何を並べているのかを取材する企画「一流の勝負メシ」。昨年好評を博した企画の続編をお届けする。
目の前にいたのは、思いのほか華奢な体をした色白の大柄な男性だった。職業に対する勝手なイメージを持ってインタビューに向かったために、はじめそれが誰だかわからなかった。この日に取材させてもらった、格闘家・青木真也さんのことだ。
今回の「一流の勝負メシ」では、現在33歳の青木さんに、食事の遍歴や、食事に対する意識を伺ってみた。体が資本となる職業の格闘家は、一体どんな食事を摂っているのだろうか。
――はじめに、格闘家を目指したきっかけから教えて下さい。
青木 僕は元々小学校3年くらいから柔道をやっていました。でも体が小さかったんです。
柔道って体の大きさが重要なスポーツだから、とにかく大きくしなきゃいけません。その頃は学校の先生の間でも、食事に対する知識が広まっていなかったので、とにかく量を食べることを強いられていました。吐くか吐かないか、もしくは吐いてもまた食べる、みたいな。
――その時期は、一日に何食を摂っていたんですか。
青木 一日三食をベースに、補食という名の食事です。特に米などの炭水化物をとにかくたくさん食べて体を大きくする感じでした。本当に苦しかったですね。
格闘技に転向してようやくそんなに食べなくてよくなり、今は楽です。僕はあんまり食べるのが好きじゃないんですよ(笑)。昔のトラウマが強すぎて、量を食べる動作が苦手になりました。
僕が食事について学ぶようになったのは、食べるのが苦しすぎたから。当時はインターネットもなかったから、「何とかたくさん食べずに済まないものか」と自分で勉強したんです(笑)。
青木真也(あおき・しんや)
1983年生まれ。静岡県出身。小学生の頃から柔道を始め、2002年に全日本ジュニア強化選手に選抜される。早稲田大学在学中に、総合格闘技に転身。「修斗」ミドル級世界王座を獲得。大学卒業後に静岡県警に就職するが、二カ月で退職して再び総合格闘家へ。「DREAM」「ONE FC」の2団体で世界ライト級王者に輝く 
――柔道から格闘家に転向した理由は?
青木 元々、格闘技をやりたかったんです。格闘技を始めた時はいまの階級よりも一個上の階級だったので、減量はほとんど要りませんでした。今の階級の70kgまで体重を落とすことになって、ようやく減量を始めたぐらいです。
――今までは体重を増やして体を大きくすることを強いられていたのに、今度は逆に減らすというギャップをご自身でどう感じられました?
青木 抜群に減量をする方が楽です。
――そうなんですね(笑)。
青木 ずーっと食べ続けていたので、食べなくなる方が体は楽ですよね。消化にエネルギーを使わなくなるので。
――青木さんの今の食事の摂り方って4つに分けられるんじゃないかと思っています。1つは試合前、2つ目は試合当日、3つ目は試合直後、そして試合のないオフの期間の4つ。
青木 僕は、試合のオン、オフをそんなに作らないんです。それはまずお酒を飲まないことが大きいですね。体質的に飲めないんですよ。
格闘家って、普通は試合前になると10kg減量とかは当たり前なんですが、僕は5kgくらいで済みます。普段から試合体重に近い体重をキープしているんです。
だから、試合が決まったからといって「炭水化物をあまり摂りません」なんて、したことがない。だって、結局は体重をみんな一様に揃えるんだから、落とす体重が多いだけ無駄じゃない?って僕は思っているので(笑)。
もちろん、試合一週間前になると細かい食事の調整はありますが、一番大事なのは試合前に「食べ慣れない物を食べない」ということです。あとは加熱していないもの。特に海外に行くと香辛料の強いものや、生ものは食べません。
30年以上も生きていれば「これを食べたら危ない」っていうのは自分でわかりますよね。
――試合前にこれだけは必ず口にするというものはありますか?
加藤未央(かとう・みお)
1984年神奈川県生まれ。東京農業大学応用生物科学部バイオサイエンス学科卒。2001年に『ミスマガジン』のグランプリに選ばれて芸能界デビュー。2007年、TBSの『スーパーサッカー』のアシスタントになり、Jリーグを精力的に取材。2009年からスカパー!の『UEFAチャンピオンズリーグ・ハイライト』のアシスタントになり、欧州でも取材を重ねた。これまでに日本代表選手だけでなく、ウェイン・ルーニーやクリスティアーノ・ロナウドにインタビューをした経験がある。
青木 羊羹です。僕は海外もよく行くので簡単に持っていけますし。糖質でエネルギー源になります。カットしてある羊羹を持っていって、試合前にかじる。あとは、体重が減らないように海外には必ずプロテインを持っていきます。
僕、本当に食べるのが苦手だからプロテインみたいなものに逃げちゃうんだよね。だって、楽でしょ(笑)。
だからこそ、僕の場合はあまりサプリメントに逃げないように意識しています。例えばプロテインなら1日1~2回までにしよう、とか。そうじゃないと全部プロテインにしちゃう(笑)。
――ある意味、サプリは近未来的な食事なのかもしれません。
青木 それだけ飲んでいればエネルギーが充分摂れるサプリとかもありますからね。これからそういう人たちも出てくるんじゃないかな。
――それでも、サプリだけにしない理由は?
青木 食べる能力が下がるから。食べないと消化する能力も下がって弱くなる。やっぱり、食えるヤツって強いんですよ。
――30歳を過ぎてからの青木さんの食事について教えてください。
青木 実は、あんまり気にしなくなったんです。今までは、たんぱく質や炭水化物は何グラムで、この時間にこれを摂るとか、細かいことを意識していた時期もありました。でも、結果的にカロリー収支と三大栄養素のバランスくらいまでで、あとの細かいことは考えなくなりましたね。
僕は結構凝り性なので、食事に関しては色々やってきたんです。ローフード(加熱しない調理法)とか、肉を食べないとか。
――お肉ってアスリートにとって一番摂らなきゃいけなさそうですが……
青木 僕、お肉を食べられないんですよ。
――あれ、職業なんでしたっけ(笑)。
青木 格闘家(笑)!
特に牛肉が苦手で、口に入れた時の肉の脂が嫌ですね。豚肉や鶏肉も「食べろ」と言われたら食べますが、好んで自分からは食べないですね。
――格闘家という職業と、なんだかミスマッチな感じですね。
青木 実際、珍しいと思います。だからその分を他で摂らなきゃいけないから、苦労します。好んで食べるのは焼いた魚くらい。
本音を言えば、ちょっと買ってきた駄菓子を食べて、お茶を飲んでお昼を終わりにしちゃいたいくらいですから(笑)。ご飯に対する執着が本当にないですね。
――今まで食事にこだわってきて失敗したことはありますか?
青木 失敗はあまりないですけど、「結局、変わらないじゃん!」というのはありました。
例えば、先ほどもお話ししたローフードもやりましたし、プロテインばかりを大量に摂った時期もありますし、乳製品までは摂取するベジタリアンもやってみました。色々やってみましたが、格闘家として強くなるという点では、結果的に意味がなかったです。
ただ、無駄だったわけではありません。一回自分の中に取り入れてみたうえで「意味がない」ことがわかったので、その点は良かったですね。
食事にこだわる格闘家もいますが、本当の目的は体を作ることじゃなくて、試合に勝つことです。自分の中で何が目的なのかを明確にすれば、おのずとやることがわかってくると思うんですよね。
よく80kgくらいの人が70kgまで体重を落として翌日に77kgくらいまで戻して試合に臨むことがあります。そうすると、体重で有利になりますから。僕もそれを一回やってみましたが、あれは体に良くないですね。僕の場合は1ラウンドくらいで腰が肉離れをしそうになりました。体にそれだけ負担をかけていれば、そうなりますよ。
だからそれ以来、計量から翌日までに体重を変えても3kg増くらいに留めています。
若い頃と違うので、練習量も調整しなくちゃいけないし、睡眠も浅くなってきてしまいました。これ、悩んでいる人多いんじゃないかな。僕としても肉体的なピークはもう過ぎてしまっているから、知識を入れて技術を磨いています。あとは経験値。
ただ気持ちはこれからピークがくると思っていますよ。だから、まだまだこれからです。
※続きは明日掲載予定です。
(撮影:是枝右恭)
プロピッカー・青木真也さんの哲学が凝縮された近著『空気を読んではいけない』(幻冬舎)もぜひご一読ください。