戦後の沖縄の「食文化」のひとつともいえる大衆食堂。
物価高や働き手の高齢化が理由で、先日、45年の歴史に幕を下ろした那覇市首里の老舗「あやぐ食堂」の最後の1日を取材しました。
1979年から店をかまえる「あやぐ食堂」。
物価高や従業員の高齢化などを理由に、2023年10月末で店を閉めることに決めました。
あやぐ食堂店主・平良喜和子さん(74)
(Qきょう最終日。どんなお気持ちですか?)
「そうだね、もう今日、頑張らんとーと。みんなが安全で、笑顔で、ハッピーな1日でありますようにって、お願いします」
最後の営業日は、開店1時間前から20人あまりが入店待ち。いつもより30分早く店をあけて、常連さんをむかえます。
店の魅力のひとつが、豊富なメニュー。創業当初は、ポーク卵と野菜炒め、ちゃんぽんくらいだったそうですが、客のリクエストに応えるうちに、沖縄の家庭料理の定番はほぼ網羅。さらには、コンビーフをのせたライスなど、名もなき料理も加わって、幅広い年代の胃袋をつかんできました。
ひとりで2食頼む人もいるほどに、名残り惜しい「あやぐの味」。
みなさん、最後に何を頼んだのでしょうか。
客
「めっちゃうまいっす」
20代30代の男性に人気だったのは、チキンやソーキのケチャップ煮。濃いめのたれがからんだ、やわらかな肉。ごはんが止まらない青春の味です。
高校時代から通う男性
「みんなで部活の後とかに来て、毎回チキンケチャップ煮をみんなで食べてたなと思って、それちょっと思い出しながら食べたいなと思って、来ました」
中学生の頃から通っている男性は、好物の沖縄風すき焼きに舌鼓。
中学時代から通う男性
「中学校とか高校のときは、向かいにこの店があったときに、(店内が)広かったんですけど、食べたあとに敷で昼寝してました」
そして一番人気は…
あやぐ歴40年の女性
「そば定食です」(Qどうしてそば定食?)「もう定番で、大好きなんで、最後に食べようと思ってきました」
とんかつと刺身がついた、そば定食でした。
あやぐ歴40年の女性
「あやぐ食堂のおかげで、食べて大きくなった感じになっているので、本当に感謝したいです」
あやぐ歴25年の客
「もうあやぐの味が食べられなくなるっていうのが、さびしくて、悲しい」
宮古島出身の店主・平良喜和子さんが45年前、20代の終わりに開いた「あやぐ食堂」。病に倒れた夫に代わって、3人の子どもを養うための決断でした。
あやぐ食堂店主・平良喜和子さん(74)
「仕事が難儀って、あんまり思っていなかったから、自分の親が頑張り屋さんだったから、人にやさしく自分には厳しくっていってから。また、機械にみたいに体動かしてから頑張ったら、何事もできるよーっていう教えもあったし」
店名の「あやぐ」は、宮古島の言葉で歌のこと。この言葉…実は、喜和子さんの仕事の指針でもあります。
あやぐ食堂店主・平良喜和子さん(74)
「名前も大好きで『あやぐ』って名前のように、自分も歌のごとく優しく接しようと思っていたけど、仕事がいっぱいあってそんな接し方はなかなかできなかったけど『お店閉める』って言ったら、みんなが、こんな沢山の人が愛情もってきて。メッセージも一杯きているし、本当に自分ほど幸せな人はいないなって、ありがたく感謝しています」
開店から3時間がすぎました。
店員
「持ち帰り?どうぞ。1時間くらいかかりますよ。ひとり?こっちのテーブルでお願いします」
店内は、ひとりでも多くの人が食べられるようにと、みな相席。それぞれが、しみじみと最後の味をかみしめます。
お礼を伝えるためにわざわざ訪れる人も後を絶ちません。
子どもの頃から通う人
「体大事にしてもらって」
平良さん
「すごく元気だよ。2倍ぐらい3倍ぐらい働いている」
子どもの頃から通う人
「顔出したら声かけて『また来ます』っていう会話を、もうできなくなるのかなっていう話をさせていただきましたけど」
花束を届けた男性。26年前、大学浪人中は毎日のように通い詰めていたそうです。
あやぐ歴26年の男性
「おばさんたちが優しいんですよね。こそっとごはん大盛にしてくれたりとか、一品、なんかポークが1枚多いとか。どうしても内地にいたときには、帰ってきたら、空港からすぐそのままあやぐまでって感じで。実家帰る前に、まずはあやぐでした」
勤続40年の店員
「首里高校の野球部とかね、今だったら20~30代になっているんじゃない。みんなが来て、おばさんおばさんして、大盛してねーってからね、大盛してあげたら喜んでね」「従業員みんなね、本当にひとつになって助け合い。みんながニコニコして、笑顔で。向かいの店舗にいるときから。とっても楽しいから、(従業員は)ほとんど20年来働いていると思います」
「気をつけてよー、気をつけて頑張ってらっしゃい」
沖縄の大衆食堂の魅力を、県内外に伝えてきたあやぐ食堂。45年の歴史に幕をおろしました。
あやぐ食堂店主・平良喜和子さん(74)
「何事もなく、本当におかげさまで無事終了しましたので、ありがとうございます。こんな沢山の人に愛されていたんだねーって、本当に幸せです。ありがとうございます。みなさんがこれからもハッピーで、健康で幸せになりますように。お祈りしております」
【記者MEMO】
あやぐ食堂の店主・平良喜和子さんは、閉店後ゆっくり休むかと思いきや、もうすでに親族が営むほかの食堂の手伝いをしている、ということです。