税収増を国民に還元へー 岸田総理「所得税含めた減税」を与党に検討指示

10月20日午後、自民党と公明党の政調会長と税調会長が相次ぎ総理官邸へと呼ばれた。
そこで岸田総理から指示されたのは「所得税の減税」の検討だった。

事の発端は9月25日に遡る。岸田総理は経済対策についての会見を開き、ここで「税収増の国民への還元」を打ち出すと共に「減税」に言及すると、与党幹部に経済対策の策定に向け提言するよう指示した。岸田総理の「減税」発言を受け、与党内からは「所得税の減税」を求める声が相次ぐこととなる。

だが、現下の物価高への対応として減税が適切なのか疑問を呈す声は多い。その理由としては以下のような点があげられる。

▼法改正が必要で、実施には時間がかかること
▼物価高の影響を強く受ける、低所得者や赤字企業の中には税金を納めていない人も多く、減税の対象とならないこと

さらに専門家は幾つもの問題点を指摘する。

明治安田総合研究所 小玉祐一フェローチーフエコノミスト
「所得税の減税は需要を増やすための政策であって、逆に物価高を加速させるリスクがあります。それに加え、日本は去年の一般会計の決算で50兆円の国債を発行し借金は増え続けています。これからも防衛費や少子化対策で歳出が増える流れは決まっていて、こうした中で減税の話が先行して出てくることには違和感を禁じ得ません」

小玉氏は「低所得者などに限定した現金給付が有効な政策」だと話した上で、財政規律を守る必要があると強調する。

「税収が増えたら還元する、税収が減ったら景気対策を打つのでは、財政再建の機会は永遠に訪れません。本当に経済対策が必要なのは税収が減る不況の時であり、岸田総理の税収増を国民に還元するというのは意味不明なレトリック(巧みな言い回し)だと思います」

国の財務を預かる財務省の幹部もこう話す。

財務省幹部①
「税収増を還元っていうけど、概算要求も過去最大だよ。国債で賄っている部分だって多いのに、どこに国民に還元できる税収があるっていうのか本当に教えて欲しいよね」

財務省幹部②
「バラマキはもう止めた方が良いですよ。だから全然海外からの投資も入ってこなくて日本を投資立国にとか言っているけど、むしろ日本のお金が海外に出ていくんですよ」

では何故、岸田総理は減税にこだわるのか。自民党の閣僚経験者は「岸田総理がSNS上を中心に『増税メガネ』と揶揄されていることにショックを受けているのだろう」と解説する。
岸田総理と近い、自民党の遠藤前総務会長も「(岸田総理は)増税メガネということに少し過剰に反応している」と指摘し、「物価高騰に対する支援であれば、まずは減税よりも給付がより公平ではないか」と所得税の減税論に慎重な姿勢を示した。

岸田総理から所得税の減税を検討するよう指示された自民党の萩生田政調会長は「減税」と「現金給付」を組み合わせて行うことになるとの認識を示しているが、過去、橋本龍太郎政権は減税をめぐる発言の迷走で参院選に敗北、退陣に迫られているだけに、政府・与党は今後、減税議論に神経を尖らせることになりそうだ。

岸田政権の中間評価 衆参2つの補欠選挙 結果次第で政局に

衆議院・長崎4区と参議院・徳島高知選挙区の補欠選挙が10月22日に投開票される。
事実上の与野党対決となる2つの補選は、4年の衆議院の任期が折り返しに迫る中、岸田政権の「中間評価」と位置づけられ、互いに負けられない戦いとなっている。

特に衆院・長崎4区は、岸田派に所属していた議員の死去に伴うもので、自民党内からは「長崎は岸田派の選挙だ。敗れることがあれば岸田総理の求心力に直撃する」との声が上がる。

与党内からは「2勝すれば、岸田総理はその勢いのまま、年内の衆議院解散に踏み切る可能性もある」との見方が出る一方、「2敗すれば、岸田総理では総選挙を戦えないという空気も出てくる」との声もある。
2つの補選は、岸田総理の解散戦略、そして政権の行方を左右しかねず、その結果が注目されている。

「衆参補選」「臨時国会」「減税議論」と続くヤマ場をどう乗り越えていけるのか、岸田総理の手腕が問われている。

TBSテレビ政治部
与党担当キャップ
中島哲平