「今が一番いい」。戴冠から10年、佐久間一行が語る「R-1」の意義
「R-1ぐらんぷり2011」で優勝した佐久間一行さん(43)。6月29日に東京・ルミネtheよしもとの20周年企画として行われるイベント「ピン芸チャンピオン寄席」にも出演しますが、今年で戴冠から丸10年が経ちました。「M-1グランプリ」王者と比べ、ブレークの度合いが「R-1」王者は地味と言われる風潮もありますが、佐久間さんが語る「R-1」の意義とは。
固執からの脱却
やっぱり僕にとっては「R-1」優勝は大きな転機でしたし、もし優勝してなかったら、今の自分はなかったと思います。
優勝した2011年は芸歴14年目で、正直、仕事もなくなりかけていた時期でもありました。でも、ネタとしては良いのが仕上がっていて。周りのみんなからの評判も良いという状況だったんです。
優勝するなら、このタイミングしかないという思いもあったんですけど、本当の話でいうと「R-1」に固執したわけではないんです。こだわらなくなったことで、優勝できたといいますか(笑)。
というのは、ずっと「R-1」とは相性が良くなかったんです。メインで出してもらっていた劇場・ルミネtheよしもとではすごくウケているのに「R-1」になると2回戦で落ちたり。そんなことが続いていたんです。
「R-1」では落ちるけど、ルミネではウケる。単独ライブをルミネでやれば、常に満席になる。待ってくださっているお客さんはいる。でも「R-1」では結果が出ない。
ウケてるのに受からない。
そのジレンマがあったから、なんとか結果を出そうと思いましたし、何というのか「R-1」に向けたネタを作ったりもしていました。
ただ、よくよく考えたら、自分が本当にやりたいことである「楽しませたい」ということは、劇場出番や単独ライブでお客さんが喜んでくださっている時点で成立しているはずだと。
ルミネの舞台に立ち続けたことで、そこの確認ができましたし、こうやって喜んでくれるお客さんがいてくださる時点で、もういい。そう思って、吹っ切れたんです。「R-1」に寄せようと思ってネタを作っていたところもあったけど、それももうやめよう。
「R-1」に落ちても、変わらずお客さんは来てくださるんだから、少なくともその方たちは自分の笑いが好きだと思って来てくださっている。じゃ、もう、そちらを信じて、「R-1」云々は関係なく好き勝手やろうとなったのが2011年だったんです。そうなると、不思議と優勝することができました。
一つ言えるとすると、ルミネという舞台に立ち続けたからこそできた優勝だと思いますし、うまくいかなくてもその舞台に立てば、確認ができる。自信ももらえる。その場があったことは、本当にありがたいことだったと思っています。
「R-1」と「M-1」
ただ「R-1」と「M-1グランプリ」でいうと、正直「M-1」の方がドーンと売れている度合いが強いと言われたりもしています。
いろいろ考えたんですけど、結局「M-1」も「R-1」もお笑いの賞レースだし、大会名も似ているし、何かと比べられがちなんですけど、これはね、完全に別ものなんです。
最近、特に感じるんですけど、お笑いは“陸上競技”だと思っているんです。
陸上の中には100メートル走もあれば、走り幅跳びもあれば、砲丸投げもある。お笑いの中にも、ネタ、トーク、リアクション、ひな壇、ギャグとかいろいろな競技があるんです。
そういった分類のさらに細かい部分に「M-1」と「R-1」の違いもあるんです。ネタを競うということは同じだし、名前も似ているし、どうしても比べられがちなんですけど、実は全然違う競技なんですよね。
まず、当たり前ですけど「M-1」は漫才ですから、優勝した人が二人いるわけです。となると、主にはツッコミの人がボケの人の“取扱説明書”として常に横にいるところからスタートすることになります。
そうなると、優勝したのはネタという競技なんですけど、バラエティーとか、ロケとか、他の競技に行っても、かなり使い勝手が良いということにもなります。
一方「R-1」はこれも当然ながらピン芸人なので、常に一人が前提なので、もうその時点であらゆる居方が違うわけなんですよね。
もちろん、同じ「R-1」のチャンピオンでも、また、それぞれにファイトスタイルが違うので、そういうあらゆることに対応できる“十種競技”向きみたいな人もいますけど、本来、名前が似ているだけで「M-1」と「R-1」は全く違う競技なので、そこを並べて比較するのは実は違う話なんじゃないかなと思うんです。
その中でも、何でもできる。基本的な身体能力やセンスがずば抜けている人がトップに上がっていくんだとも思うんですけど、本来は、比べるのは違うのかなと。
「今が一番いい」
それでいうと、決して僕は器用な方ではないですし、いきなり「砲丸を投げて」と言われても戸惑う方の幅跳び選手みたいな感じなのかもしれません。
ただ、今はお笑いがすごく細分化されてきていることも感じていて、それぞれが得意にしているものを突き詰められる時代になったのかなと思っています。
それをやろうとした時に、やっぱり「R-1」というのはすごく大きなことだし、そこで優勝しているということが、一つの証明書みたいなことにもなってくれる。この流れの中で、さらに「R-1」優勝ということが有効になっていくのかなと。
例えば、YouTubeもありますし、自分が得意とするもの、やりたいことを自分で当たり前のように発信できるようになりました。より広く、より多くの方に自分のやりたいことを見てもらえる配信ライブという形もできるようになった。
この流れは、実は、僕にとってはすごく喜ばしいことで、どっしりと自分が得意なこと、やりたいことを発信して、それで喜んでもらえる人には喜んでもらえる時代になったなと。
これまで25年近く芸人をやってきて、正直、今が一番いい具合だと思います。
あと、細分化の理由の一つとして、今は芸人の絶対数も増えてますし、チャンピオンの数も毎年増えてますしね。
「M-1」「R-1」「キングオブコント」、そこに「THE W」もあるし、あらゆるチャンピオンが毎年生まれ、10年経ったら、そういうチャンピオンだけで数十組が生まれていることにもなります。
トップのイスの数は限られているので、その中で生き残るとなると、自ずと得意なものを打ち出していく細分化になるのかなと。
去年からの新型コロナ禍で時間ができたこともあり、動画の編集も覚えました。なので、もういよいよ、自分がやりたいことを自分でできるようになった感じがあります。
あんまりいうと、自画自賛みたいになっちゃいますけど(笑)、本当に、今が一番いい状況だと思います。
(撮影・中西正男)
■佐久間一行(さくま・かずゆき)
1977年9月3日生まれ。茨城県出身。東京NSC東京校2期生。一人コント、フリップネタ、歌ネタ、小道具を使ったネタなど幅広いピンネタを持つ。「R-1ぐらんぷり2011」優勝。ザリガニや川魚のタナゴ好きとしても知られ、岡山・渋川マリン水族館の特任ディレクターにも就任。YouTubeチャンネル「佐久間一行チャンネル」を展開中。なだぎ武、三浦マイルド、野田クリスタル、ゆりやんレトリィバァら「R-1」王者が集うイベント「ピン芸チャンピオン寄席」(6月29日、東京・ルミネtheよしもと)に出演する。