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マスメディアが伝えないサンマ漁獲枠の問題点: EUもサンマ漁業に参戦か?

勝川俊雄東京海洋大学 准教授、 海の幸を未来に残す会 理事
サンマの未来はどうなってしまうのか?(写真:アフロ)

サンマなどの漁獲規制について話し合う北太平洋漁業委員会(NPFC)が日本で開催され、サンマの漁獲枠を55万トンに設定することで合意されました。「資源回復に前進」、「踏み込んだ措置が初めて実現」などと、概ね好意的に報道されているのですが、とても喜べる内容ではありません。

サンマ漁獲枠導入で初合意 55万トン、資源回復へ前進

昨年まで2年連続で中国などが反対し決裂していたが、3年目の協議でようやく中国も歩み寄り、資源枯渇の回避へ前進。踏み込んだ措置が初めて実現した。

2019/7/19 01:13 (JST)7/19 07:26 (JST)updated

出典:一般社団法人共同通信社

資源減少に繋がる過剰な漁獲枠設定

私には、55万トンという漁獲枠が資源回復に寄与するとは、到底思えません。下の図は、全ての国のサンマの漁獲実績を足したものです。過去に長い歴史をもつサンマ漁業ですが、水揚げ総量が55万トンを超えた年は2年しかありません。過去3年の漁獲量の平均値は35万トンですから、最近の漁獲量の1.5倍にも相当するのです。このような過剰な漁獲枠を設定することで、乱獲を促進しているようなものです。

2017年のサンマ来遊量は81万トンでした。漁獲枠一杯までサンマを獲ると漁獲率はほぼ7割になります。55万トンという過剰な枠を予め決めてしまったので、来遊量が更に減れば、それだけ高い漁獲割合を許容することになります。これでは漁獲にブレーキをかける効果は期待できません。

サンマの漁獲量と漁獲枠の関係(NPFC資料より著者作成)
サンマの漁獲量と漁獲枠の関係(NPFC資料より著者作成)

EUがサンマ漁業に参入する?

過剰な漁獲枠は、他国の新規参入を促すという別の問題も引き起こします。昨年10月に、EUがNPFCへの加入を申請してきました。北太平洋でサンマを漁獲することを検討しているのです。

EUが北太平洋漁参入に意欲

 欧州連合(EU)が北太平洋漁業委員会(NPFC)への加盟と、対象海域での漁業参入を目指している。対象魚種はサバやイワシ、サンマなどが候補。

出典:みなと新聞

EUは漁獲規制を年々強化しており、稼働できない漁船が増えています。そういった船を、規制が緩い北太平洋へ送り込もうというのです。EU周辺海域の水産資源を回復させるために、日本周辺海域を草刈場にするつもりです。

新規参入を防ぐには資源管理をすることが重要です。「すでに、資源の生産力ギリギリまで漁獲をしているので、新規参入を許す余裕はない」と言えば、新規参入希望者を門前払いできます。実際に、サンマ資源は減っているのだから、妥当な漁獲枠を設定すれば、新規参入を許す余裕はないはずです。

しかしながら、過剰な漁獲枠を設定したことで、漁獲枠が余るのはほぼ確実です。「漁獲枠が余っているのだから、俺たちにも獲らせろ」とEUが主張するのは目に見ていています。

百害あって一利無しの過剰な漁獲枠

以上、見てきたように55万という過剰な漁獲枠で合意をしたことで、サンマの漁獲削減に逆行するばかりか、EUという強力なプレイヤーの新規参入を招きかねない状況をつくってしまいました。

今回の会議で、日本政府は45万トンという枠を提案していました。去年の漁獲実績よりも少し多い水準を提案して、他国の合意を取り付けつつも、漁獲枠と漁獲量を乖離させたくないという意図が見えます。悪くない提案でしたが、それを通すだけの政治力が足りなかったようです。漁獲枠が45万トンに収まっていれば、まだ何とかなったかもしれませんが、55万トンではどうにもならないでしょう。サンマ漁業の今後の見通しは暗いと言わざるを得ません。

サンマに関する情報は、こちらの動画にまとめてみました。20分と少し長くなっていますが、漁業の背景から、今回の交渉の結果まで一通り整理しましたので、興味がある方はご視聴ください。

東京海洋大学 准教授、 海の幸を未来に残す会 理事

昭和47年、東京都出身。東京大学農学部水産学科卒業後、東京大学海洋研究所の修士課程に進学し、水産資源管理の研究を始める。東京大学海洋研究所に助手・助教、三重大学准教授を経て、現職。専門は水産資源学。主な著作は、漁業という日本の問題(NTT出版)、日本の魚は大丈夫か(NHK出版)など。

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