Yahoo!ニュース

まだまだ謎だらけ「ティラノサウルス・レックス」はどこでどう進化したのか

石田雅彦科学ジャーナリスト、編集者
(提供:イメージマート)

 ティラノサウルスの仲間に関する研究が格段に進化しつつある。その起源と進化について、新たな論文が発表された。ティラノサウルス・レックスはなぜ出現し、急速に巨大化したのだろうか。

新たな論文が続々と

 恐竜は子どもから大人まで大人気の古代生物だが、その中で最も人気を集めているのはやはりティラノサウルス・レックスだろう。2023年から2024年にかけ、ティラノサウルス・レックスとその仲間に関するいくつかの新研究が発表された。

 例えば、ティラノサウルス・レックスは走る速度が遅い代わり、水辺の浅瀬で捕食行動をしていたのではないかという説の検証(※1)、ティラノサウルス・レックスはゴルゴサウルス(同じティラノサウルスの仲間とされ、ティラノサウルス・レックスより前の地質年代に生息していた)などよりも強大な咬合力を持ち、捕食行動に特化する方向へ進化していたという説(※2)、ゴルゴサウルスの幼体の捕食行動についての新たな提案(※3)、これまでティラノサウルス・レックスの幼体と考えられていた化石に対する疑義(※4)などだ。

 他にもティラノサウルス・レックスが実際は3種だったのではないかという説もあり、また巨体に比べて小さな前足がどんな役割をしていたのか、あるいはその生態や捕食行動、成長などについても謎が多い。これだけ有名な恐竜なのに、まだ謎だらけというわけだが、その進化について新たな論文が出た。

 ティラノサウルス・レックスの直接の祖先は、白亜紀後期のカンパニアン(8360万年前〜7210万年前)に現在の北米大陸の南西部にあたるララミディアという地域に出現したとされる。

 その後、現在のアジアへ拡散した系統は白亜紀末期のマーストリヒチアン(7210万年前~6600万年前)にタルボサウルス・バタールやズケンティラヌス・マグヌスへ至り、ララミディアに残った系統が北方へ移動するなどしてティラノサウルス・レックスになったと考えられている。

 ララミディアというのは、現在の北米大陸のアラスカからメキシコにかけて位置していた大陸だ。1億年前から6600万年前に存在していたとされ、他の大陸とは海で隔てられていたと考えられている。

ティラノサウルス・レックス進化の謎

 ただ、ティラノサウルス・レックスの進化仮説にも議論がある。北米大陸起源ではなく、アジア起源とする説もあり、両大陸を往き来しつつ進化したという説もある。ティラノサウルスは、どこで誕生し、どうやって巨大化したのだろうか。

 米国と英国の研究グループが発表した論文(※5)によれば、約40年前に米国のニューメキシコ州西部で発掘されたティラノサウルス類の頭蓋骨を調べたところ、ティラノサウルス・マクライエンシスという新種であり、ティラノサウルス・レックスより約500万年前から約700万年前に生息していたと考えられることにより、ティラノサウルスの北米大陸起源説を補強できたという。

 同研究グループは、ティラノサウルスの仲間がカンパニアンの終わり頃にはすでに巨大化を終えていたと述べている。なぜなら、このティラノサウルス・マクライエンシスの体長は約12メートルと推定され、ティラノサウルス・レックスと遜色ない大きさだったからだ。

 ただ、前述したティラノサウルス・レックスの強大な咬合力は持っておらず、ハドロサウルス類やトライセラトプス類などの被捕食者の巨大化につられるようにして頭部の巨大化と強大な咬合力を進化させたのではないかと述べている。また、海面の下降による陸地の拡大といった地理的な要因がティラノサウルス類の多様化に関連しているものの、巨大化には関連していないのではないかと考えている。

 同研究グループは、ティラノサウルス類が捕食していた草食恐竜がなぜ大型化したのかはまだわかっておらず、ララミディアの他大陸との結合、ティラノサウルス・レックスの進化が局地的なものなのか、それともアジアのタルボサウルス・バタールなどと共通する何かの要因があるのか、これからの研究が必要と述べている。

 ティラノサウルスの仲間については、まだまだ謎が多い。これからも新たな仮説や論文が出てくることだろう。

※1:R Ernesto Blanco, "Tyrannosaurus rex runs again: a theoretical analysis of the hypothesis that full-grown large theropods had a locomotory advantage to hunt in a shallow-water environment" ZOOLOGICAL Journal, Vol.198, Issue1, May, 2023
※2:Evan Johnson-Ransom, et al., "Comparative cranial biomechanics reveal that Late Cretaceous tyrannosaurids exerted relatively greater bite force than in early-diverging tyrannosauroids" The Anatomical Record, doi.org/10.1002/ar.25326, 29, September, 2023
※3:Fanqois Therrien, et al., "Exceptionally preserved stomach contents of a young tyrannosaurid reveal an ontogenetic dietary shift in an iconic extinct predator" ScienceAdvances, Vol.9, Issue49, 8, December, 2023
※4:Nicholas R. Longrich, Evan T. Saitta, "Taxonomic Status of Nanotyrannus lancensis (Dinosauria: Tyarannosauroidea) - A Distinct Taxon of Small-Bodied Tyrannosaur" fossil studies, Vol.2(1), 1-65, 3, January, 2024
※5:Sebastian G. Dalman, et al., "A giant tyrannosaur from the Campanian-Maastrichitian of southern North America and the evolution of tyrannosaurid gigantism" scientific reports, 13, Article number: 22124, 11, January, 2024

科学ジャーナリスト、編集者

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

石田雅彦の最近の記事