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『イチケイのカラス』事務官役の水谷果穂。役と違うおっとりタイプで「普段も1.5倍のテンポにしました」

斉藤貴志芸能ライター/編集者
撮影/松下茜

高視聴率が続く月9ドラマ『イチケイのカラス』(フジテレビ系)。奔放な裁判官・入間みちお(竹野内豊)が事件を丹念に調べ上げて真実に迫るストーリーで、コミカルな味わいも含みながら琴線に触れる。このドラマで、東京地裁のイチケイ(第一刑事部)の新人事務官・一ノ瀬糸子を演じていて、美女ぶりも評判なのが水谷果穂。上司にも物怖じせず、思ったことを口にするキャラだが、本人は穏やかな佇まいの23歳だ。

思ったことがポロッと口に出るイメージで

――『イチケイのカラス』の一ノ瀬糸子はズバズバものを言う役で、演じていて楽しかったですか?

水谷 だんだんそういう台詞が増えていって、言い甲斐はすごくありました(笑)。

――中村梅雀さんが演じる主任書記官の川添さんが定時で帰ろうとしたら、「誰も待ってませんよね?」と言ったりして、「空気を読むのを学ぼうよ」と嘆かれたり(笑)。

水谷 そういうやり取りのシーンがある日は、楽しみでした(笑)。

――果穂さん自身は、ああいうタイプではないですよね?

水谷 そうですね。どちらかというと遠回しに言っています。というか、遠回しのつもりもなくて、ツッコミ気質ではないんです。ツッコむこと自体が、あまりありません。

――話し方も普段の果穂さんはおっとりした感じで。

水谷 『イチケイのカラス』の撮影が始まった頃は、「1.5倍のテンポで」と言われました。その1.5倍という感覚がわからなかったので、日常生活から家では速くしゃべるようにしてました。

――「あっけらかんとした感じを意識して演じている」とのコメントもされてました。

水谷 私は毒のある言葉は笑顔で言いたくなるんですけど、糸子ちゃんのキャラクターではそうでないほうがいいと、監督が指示してくださって。思ったことがポロッと出ているだけ、みたいなイメージでした。

ヒールは1シーンごとに脱いでました(笑)

――一方、4話で糸子は、理不尽な目に遭って現金強奪をした少年の裁判のあとで、「真実を明かしたことであの3人がさらに不幸になる」と話していました。

水谷 そこは「糸子なりの正義はあっていい」ということだったので、軽くポロッと言うより、自分なりに考えていることが出ればいいなと思いました。私も「この人は良い、悪い」と決めるのは得意でなくて、裁判官というのはすごく難しいお仕事ですよね。みちおさんのように徹底的に調べて、ちょうどいいくらいに感じました。

――5話で、裁判官の坂間(黒木華)に好意を抱く書記官の石倉(新田真剣佑)を冷やかしたりしたときは、普通の女子っぽさが出ていて。

水谷 あれはイチケイの女子トークというか、面白がってキャッキャしている感じを出せればいいなと思いました。

――撮影はもう全部終わったそうですが、特に覚えていることはありますか?

水谷 たまにおそば屋さんでロケがあったりすると、スタジオとはまた雰囲気が変わって、楽しかったですね。あと、最初の頃は、私は普段ヒールを全然履かないので、長時間立っていられなくて。1シーンごとに脱がないと疲れてしまったんですけど、最後のほうはずっと履いていられるようになりました。

地元ではユルく生きてきました(笑)

水谷果穂は2013年にデビューし、朝ドラ『なつぞら』で広瀬すずが演じたヒロインのルームメイト、『義母と娘のブルース』で上白石萌歌が演じた“娘”のクラスメイトなど、ドラマや映画に幅広く出演してきた。東京ディズニーリゾートを紹介するミニ番組『夢の通り道』のナビゲーターも2015年から務めている。

――果穂さんは浜松出身で、高1でデビューしました。地元ではどんな学校生活を送っていたんですか?

水谷 今以上にユルく生きてました(笑)。中学ではいちおうバレーボール部に入っていて、みんなで筋トレとかしたのが青春っぽい思い出ですけど、そこまで自分を追い込んでなくて。練習より友だちと行動することがメインで、帰り道のみんなが分かれる場所で解散できなくて、固まって何時間もしゃべっていました。

――試合では活躍したんですか?

水谷 活躍してないです(笑)。だいたいベンチで応援していて、ブロックだけは得意だったので、たまに試合に出させていただくくらいでした。

――でも、学校でこんな美少女がいたら、普通に目立ってましたよね?

水谷 そんなチヤホヤされるタイプではなかったです。みんなからよくイジられるキャラでした(笑)。

――おばあさんが事務所のオーディションに書類を送って芸能界に入ったそうですが、自分でもやりたい気持ちはあったんですか?

水谷 ずっと背が高いほうだったので、同じくらいの身長の子と「モデルになりたいね」みたいな話はしてました。でも、普通に興味があった程度で、本気でなりたいとは一切思ってなかったですね。

なかなか不良っぽく見えなくて(笑)

――デビューして8年になりますが、自分でこれまでの代表作だと思う作品は?

水谷 『イチケイのカラス』の黒木さんとは、以前『凪のお暇』でも共演させていただいて、皆さんに「あのエリィだったんだ」と言ってもらいました。ドラマが終わったあとも役について言われ続けることはなかったので、役名をちゃんと思い出してくださる人がいるのはうれしかったです。

――あのエリィはクラブイベントで踊るパフォーマーでヤンキーっぽくて、糸子以上に果穂さん自身とかけ離れた感じでした。

水谷 衣装合わせのときから、どうしても私が不良っぽい感じに見えなくて(笑)。何か健康的になってしまうということで、メイクや髪型を工夫していただきました。役作りのためにクラブに行かせてもらったりもしたんですけど、まったく知らない世界だったので、馴染むまで大変だった記憶があります。

――家で不良っぽいしゃべり方を練習したりも?

水谷 手探り状態でどうしたらいいかわからなくて、YouTubeで“クラブ女子”とかのワードで検索したり、ああいうテイストの曲を好きなのはどんな人たちなのか考えたり。最初は難しかったんですけど、途中から「見た目よりゴンちゃん(中村倫也)への気持ちを大事に演じてほしい」と言われて、ちょっと気持ちが楽になりました。

――朝ドラにも『とと姉ちゃん』に『なつぞら』と出演しました。

水谷 言葉づかいや役衣装が現代とちょっと違うレトロな感じで、役も現代劇ではないようなキャラクターなのが独特だと思いました。

――個人的には、遡ると『ナポレオンの村』での村役場の新人職員の役で、目を引かれました。

水谷 あの当時は高校生で、今の私の年齢くらいの役を演じました。『とと姉ちゃん』でも30代のお母さん役で、実年齢より上の役が多かったんです。

楽観的なので幸せに生きられてます

――浜松時代の「ユルい」という話がありましたが、女優としては努力を重ねているんですよね?

水谷 努力しようとしてできた試しがないから、結果的に努力になることをしようと思うタイプです。でも、昔のままユルく生きていたら、自分自身がどんな人間なのかとか、考えることはなかった気がします。そこはこのお仕事をして、すごく変わった部分ですね。

――役を演じるためには、自分を知る必要があって?

水谷 それはすごくありました。オーディションでも自分について話すことは多いですし、当時のレッスンで自分の長所と短所を100コ書くという課題があったんです。「もうないよ~」と思いながら書いていました(笑)。そういうことを何年もやってきて、自分がどうなりたいのかもちゃんと考えるようになったのが、昔とは全然違います。

――今、自分の長所や短所だと思うことは?

水谷 長所はたぶん、楽観的なところだと思います(笑)。幸せに生きられて良かったです。

――落ち込んでも引きずらないと?

水谷 「他人ごとっぽいね」とよく言われます。事実を必要以上に大きく捉えないので、人からは楽観的に映ると思います。

――夜眠れないとか、ごはんが食べられないようなことはないと?

水谷 何か寝付けない、緊張して食べられないくらいのことはちょっとありますけど、それで悩んだりはしないですね。「今、自分にこういう現象が起きているんだ」と、事実だけを受け止めます。

上昇志向とは熱の種類が違う気がします

――辛いときに何かを支えにしたりはしますか?

水谷 そういうときに「こうしなきゃ」とか「ああしよう」と思ったことは、全部携帯のメモに書いています。ひとつの言葉に励まされるというより、その都度、自分から出た言葉で「よーし!」となります。

――『イチケイのカラス』の撮影中にも、書き留めた言葉はありました?

水谷 いろいろあったと思います。人に言えるようなカッコイイ言葉は書いてませんけど(笑)、自分を奮い立たせていました。

――今まで女優として、壁にぶつかったことはあります?

水谷 毎回難しいと思いますし、「できるのかな?」というところからスタートします。「これは自分のハマり役だ」と思った記憶はなくて、毎回「ヤバいヤバい!」って焦ってますけど、それも必要なことだなと思っています。

――演技をするうえで大切にしていることや、女優としてのポリシーはありますか?

水谷 物語の世界の中で、ちゃんと生きている感じがする人がずっと憧れで、そういうお芝居を目指しています。

――ヒロインを演じたい、と思ったりは?

水谷 THEヒロインという役をまだ演じたことがないので、任せてもらえる人になりたい気持ちはあります。

――おっとりしたイメージの果穂さんにも、上昇志向はあるんですか?

水谷 人に言われる上昇志向と、自分の中では言葉が違う気がして、「ない」と言ってしまうこともありますけど、やっぱり持ってますね。ただ、熱の種類が別な感じがして、言葉にすると自分に合わないかなと思うところはあります。

スーパーでズッキーニ売り場に直行します(笑)

――オフの日はインドアなんでしたっけ?

水谷 ずっと家にいられることがうれしかった時期もありましたけど、ちょっとでも外に出る時間があったほうが1日が充実する感じがして、まる1日家に籠ることはなくなりました。と言っても、近所のスーパーに行くくらいですけど(笑)。

――スーパーの中でも、どこの売り場に行くんですか?

水谷 とりあえずズッキーニの売り場に直行して(笑)、1本買います。それから他を回って、ほしいものがあったら買いますけど、ズッキーニは外しません。

――果穂さんは歌手活動もしていて、『イチケイのカラス』の主題歌『Starlight』をカバーした動画も上げていました。普段も歌っているんですか?

水谷 家では結構歌っているほうかもしれません。でも、鼻歌が小学生の頃から成長してなくて(笑)、ドライヤーをかけながら合唱曲を歌ったりします。卒業式で歌ったアンジェラ・アキさんの『手紙(~拝啓 十五の君へ~)』とか、『つる』とか、少し前の曲が多いです。

――では、仕事上でもプライベートでも、今後身に付けたいことはありますか?

水谷 車の運転免許を取ったんですね。でも、運転する機会がなくて。そう言えば昔からゴーカートが好きで(笑)、東京でも運転できるようになれば、楽しいことが広がりそうだなと思います。

――免許はすんなり取れたんですか?

水谷 ダラダラ通っていたので(笑)、時間はかかったんですけど、試験は全部一発で大丈夫でした。でも、まぐれだった気もするので(笑)、乗る前にもっと練習しないとダメですね。

――車はまだ持ってないんですよね?

水谷 はい。でも、ほしいと思うようになりました。スピードを出す練習がすごく楽しかったので。もちろん出しすぎたらダメですけど、高速道路を走ってみたいです。

――ハンドルを握ると人が変わって飛ばすタイプだったり(笑)?

水谷 いえいえ。安全運転です(笑)。

撮影/松下茜

Profile

水谷果穂(みずたに・かほ)

1997年11月3日生まれ、静岡県出身。

2013年にCMデビュー。同年放送のドラマ『リアル脱出ゲーム 密室美少女』で女優デビュー。主な出演作は『スニッファー 嗅覚捜査官』、『義母と娘のブルース』、『なつぞら』、『凪のお暇』、映画『先輩と彼女』、『バレンタインナイトメア』、『honey』、『さくら』、『ブレイブ-群青戦記-』など。2017年にシングル『青い涙』で歌手デビュー。2019年に1stアルバム『深呼吸』を発売。『夢の通り道』(日本テレビ)でナビゲーター。

『イチケイのカラス』

フジテレビ系/月曜21:00

公式HP

(C)フジテレビ
(C)フジテレビ

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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