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「派遣切り」の多くは違法? 「本当」は厳しい派遣法を読み解く

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
(写真:アフロ)

 これから、新型コロナウイルスの影響による派遣社員の解雇が相次ぐと予想される。私たちのもとにも派遣社員の解雇の相談が徐々に増えてきている。

 特に5月末は、6月末での解雇や雇い止めの1か月前告知の時期に当たり、多くの人たちが解雇されるのではないかと懸念されている。いわゆる「五月危機」である。

 実は、「派遣社員だから」、「コロナだから」といって、簡単に解雇が許されるわけではない。意外と知られていないのだが、労働者派遣法や労働契約法は、派遣会社や派遣先にさまざまな「義務」を課しているからだ。

 この記事では、派遣法や労働契約法の知られざる規制を読み解き、派遣労働者が派遣会社から「契約解除」を通知されたとき、「何ができるのか」を紹介していきたい。

派遣先企業による休業補償分の賠償や、就業先の確保が必要

 派遣先がコロナでなくなったので、派遣社員が解雇された、という労働相談があとをたたない。「派遣先が契約解除したのだから仕方がないじゃないか」と思われる方も多いと思う。しかし、法律上の関係は、実はそう単純ではない。

 そもそも、派遣先企業は、簡単には派遣会社との契約を打ち切ることができない。労働者派遣法は次のように定めている。

第二十九条の二  労働者派遣の役務の提供を受ける者は、その者の都合による労働者派遣契約の解除に当たつては、当該労働者派遣に係る派遣労働者の新たな就業の機会の確保、労働者派遣をする事業主による当該派遣労働者に対する休業手当等の支払に要する費用を確保するための当該費用の負担その他の当該派遣労働者の雇用の安定を図るために必要な措置を講じなければならない。

 この条文からは、派遣先企業は、自分たちの都合で派遣会社から派遣社員を受け入れることをやめるには、

  • (1)派遣社員に新しい就業機会を確保すること
  • (2)派遣会社に派遣社員の休業手当などにかかる費用を支払うこと
  • (3)その他派遣労働者の雇用安定のための措置

が必要だということになる。

 コロナに伴う事業停止命令なども上記の法規制を免れないことは、厚生労働省が明確に通知を出している。具体的に引用すると次の通りだ。

 「派遣先の都合によるかどうかについては、個別の事例ごとに判断されるものであり、改正新型インフルエンザ特別措置法に基づく緊急事態宣言下における都道府県知事から施設の使用制限や停止等の要請・指示等を受けて派遣先において事業を休止したことに伴い、労働者派遣契約を中途解除する場合であっても、一律に労働者派遣法第29条の2に基づく措置を講ずる義務がなくなるものではありません」。

【参考】厚生労働省「新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言や、要請・指示を受けた業所の休止に伴う労働者派遣契約の中途解除等について」より

 就業先の確保は派遣先企業の別の仕事やグループ会社での仕事などを見つけなければならないということだ。そうした就労先が見つからない場合には、休業手当分を派遣会社に支払って、少なくとも契約期間内は休業手当が支払われるようにしなければならないのだ。

 派遣法違反は、厚生労働省が取り締まっており、これらをしっかりやっていない企業は行政指導を受けることになる。

 より詳しく知りたい人は、厚労省の通達の「派遣先が講ずべき措置に関する指針」に書かれているので、ぜひお読みいただきたい。

派遣先がなくなっても、即座に派遣労働者を解雇できるものではない

 次に、やむを得ない事情によって、派遣先が契約解除をしても、派遣会社は即座に派遣労働者を解雇できるものではない。

 それは、派遣先企業と派遣会社との会社間の契約と、派遣会社と派遣社員との間の雇用契約は別の物だからだ。つまり、「派遣先がなくなった」というのは「会社間の契約がなくなった」ということであり、「雇用契約」は生き続けている。

 だから派遣会社は、まず派遣先がないのであれば、本社業務など自社の関連業務や、別の派遣先などで就労確保をしなくてはならない。

 労働契約法の規定によれば、かりに就労先を見つけることができない場合でも、解雇には社会的に合理的な理由が必要とされ、休業させるなど、解雇を回避するためにその他の努力を果たしたのか、解雇の対象とされる労働者が妥当であるのか、説明が尽くされているのかなどの要件を満たさなければ無効となる。

 政府が解雇の予防のために休業手当に助成する、「雇用調整助成金」の活用が広範に可能である現状では、解雇をせずに休業させることが選択肢となる。休業させることが可能であるのに解雇している場合には、解雇が違法となる可能性がある。

 実際に、厚生労働省は昨日(26日)づけで、人材派遣協会への「要望書」を出しており、派遣会社に「派遣労働者の就業機会の確保ができない場合であっても、雇用調整助成金の特例措置の拡充や新たな個人給付制度の創設を踏まえ、これらの活用を通じて、休業や教育訓練を実施して次の派遣就業に向けた準備を進めていただくこと」を求めている。

 政府が助成金政策を拡充している現状では、「企業の社会的責任」(CSR)の観点からも、派遣先の契約が解除されたとしても、派遣会社は解雇をせずに、休業手当を支払い、雇用調整助成金を申請するべきだろう。そして、その期間に新しい派遣先を探し続けるべきであると考えられる。

 派遣労働は極めて不安定な労働であることが指摘されてきた。「派遣先を確保し続けることができる」というところに派遣会社の存在意義があり、派遣先がなくなったとたに解雇するのであれば、人材紹介会社と変わらない。休業によって雇用を維持し、次の派遣先を見つけ出すことは、派遣会社の「存在意義」そのものであり、その責任を放棄することはあってはならないのだ。

「権利を行使するための権利」=労働組合法

 派遣労働に関しては、以上に紹介してきた法的規制があるとはいえ、実際にはあまり守られていない。「サービス残業」「休憩なし」といった労働基準法違反が当たり前のようになっているのと同じように、違法状態が横行してしまっている。

 法律を守らせるには権利行使が必要だ。そこで権利行使について、もう一つの重要な制度が存在する。労働者と使用者は対等な関係にはないため、国は「労働組合法」を定め、権利行使をしやすくしているのだ。

【参考】コナミスポーツが休業補償10割へ 背景にアルバイトたちの「必死」の訴え

【参考】政府の助成金を使って「コロナ解雇」を回避してほしい 声を上げ始めた労働者たち

 労働組合には団体交渉権があり、会社は組合からの申し入れを無視できず、誠実な対応をしなければ違法行為になる。労働組合を結成したり、加入する権利は派遣労働者にもまったく平等に認められている。労働組合に加入すると、他の組合員や専門家が法的権利についてもサポートしてくれる。

 派遣法や労働契約法の法規制に加え、ぜひ労働組合法の存在を覚えておいてほしい。

 最後に、私もメンバーになっている「生存のためのコロナ対策ネットワーク」では下記の通りの無料電話相談ホットラインをおこなうことになっている。弁護士、NPO、労働組合の相談担当者が無料で労働相談を受ける。ぜひご活用いただきたい。

 (なお、「派遣切り」で住居喪失の危険にある方は、下記の記事もあわせて参考にして欲しい)。

【参考】迫る非正規の「5月危機」 雇用と住居を守るための「制度」を解説する

「休業補償・解雇・倒産電話相談ホットライン」

日時:5月31日(日)10時〜20時、6月1日(月)15時〜21時

代表電話番号:0120-333-774(相談無料・通話無料・秘密厳守)

主催:生存のためのコロナ対策ネットワーク

参加団体:さっぽろ青年ユニオン/仙台けやきユニオン/みやぎ青年ユニオン/日本労働評議会/首都圏青年ユニオン/全国一般東京東部労働組合/東ゼン労組/総合サポートユニオン/首都圏学生ユニオン/ブラックバイトユニオン/NPO法人POSSE外国人労働サポートセンター/名古屋ふれあいユニオン/大阪全労協/連合福岡ユニオン/反貧困ネットワーク埼玉/外国人労働者弁護団など

常設の無料労働相談窓口

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*筆者が代表を務めるNPO法人。訓練を受けたスタッフが法律や専門機関の「使い方」をサポートします。

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*個別の労働事件に対応している労働組合。労働組合法上の権利を用いることで紛争解決に当たっています。

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*仙台圏で活動する「労働側」の専門的弁護士の団体です。

NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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