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美しい霧氷の季節がやってきました。雪や氷のこと、楽しむポイントをご紹介します。

加藤智二日本山岳ガイド協会認定山岳ガイド・カメラマン
日本列島上空に寒気が流れ込んできた!大分県鶴見岳 ※写真はすべて筆者が撮影

 暖冬・雪不足のニュースも流れていますが、1月から2月ともなれば上空には寒気が流れ込んできます。今のところすごしやすい新春ですが、自然大好きという方にとっては少し物足りない冷え込みです。山登りをしない方にも一度は見ていただきたい氷の華・霧氷の話です。

 霧氷のなぜ?自然の不思議に出合い楽しむためのポイントをご紹介します。

森吉山のスノーモンスター 
森吉山のスノーモンスター 

 雪は冷たいですが空気をたっぷり含んでいます。空気の細かい粒があるから白く見えます。氷になると空気が見えなくなって透明に近くなってきます。ぶ厚い樹氷はマイナス10℃~20℃といった強烈な寒さから樹木を守っています。日本列島にたくさんの積雪があるということは大量の水を貯めこんでいること以外に多様な植物や動物の生態を保つことにも役立っているのです。

★霧氷の種類とどんな気象条件でできるのか?

繊細な霧氷もあります。
繊細な霧氷もあります。

 専門家の分類では霧氷は樹氷・粗氷・樹霜の3つに分類しているそうです。個性豊かな霧氷をゆっくり観察してみてください。

ブナの冬芽はまだ固く春をじっと待っています。
ブナの冬芽はまだ固く春をじっと待っています。

 今回の記事最後に霧氷を見るための大事なポイントを紹介しています。

 最も大事なのはできるだけ早起きをして出かけることです。太陽が輝きだす頃になると、霧氷は氷から気体へ昇華してしまったり、溶けて脱落したりしてしまいます。

 霧や雲の粒は直径が、0.01~0.03ミリメートル程度の微小な水滴です。このような小さな水滴になると0℃以下の温度、マイナス10℃以下になっても凍結しないで液体の水のままでいることがあります。この状態の水を「過冷却水」といいます。

エビの尻尾 冷たく湿った「過冷却水」を含んだ風によってできます。風上に向かって成長していきます。
エビの尻尾 冷たく湿った「過冷却水」を含んだ風によってできます。風上に向かって成長していきます。

 空気中を浮遊している過冷却された微小な水滴は樹木など物にぶつかるなどのきっかけで瞬間的に凍ります。それが「霧氷」なのです。

 樹氷は冬の山に行った時に見ることができる最もポピュラーな霧氷の型です。過冷却微小水滴が次から次へと衝突してはその場で凍結して成長していきます。ですから風上に向かって成長していきます。その密度は約0.6g / 1立方センチで、木の枝にできた樹氷は強い風が吹くとショックで脱落してしまいます。

霧氷は強い風に吹かれたり、陽が昇って気温が上がってくるとバラバラと落ちてきます。
霧氷は強い風に吹かれたり、陽が昇って気温が上がってくるとバラバラと落ちてきます。

 粗氷型の霧氷は透明な層と不透明な層が交互に成長した翼状になるようです。その密度は約0.6g以上 / 1立方センチ で樹氷型より硬く丈夫なようです。

氷と霜のコラボレーション
氷と霜のコラボレーション

 樹霜型は、空気中の水蒸気が昇華して樹木の幹表面などに付着した樹枝状ないし針状の結晶です。

幹に針状の霜がビッシリと成長しています。
幹に針状の霜がビッシリと成長しています。

 山で出会うもう一つの型に「雨氷」というものがあります。これは透明で表面が滑らかな氷でその密度は0.9g以上 / 1立方センチです。ほぼ純粋な氷と同じです。冬山登山でこの過冷却雨に当たることは命に関わるリスクが高い状況です。

冷たい氷雨、文字通り氷点下の雨は地表物を氷の鎧で覆い尽くします。
冷たい氷雨、文字通り氷点下の雨は地表物を氷の鎧で覆い尽くします。

 霧氷からは横道にそれますが、液体の水に関して知っておいてほしい特性を紹介しておきます。

 4℃の水は0℃の水より重たいのです。4℃の水の密度は0.99997 / 1立方センチとほぼ1g / 1立方センチとなります。0℃の水の密度は0.9998g / 1立方センチです。わずかな差ですが重要な点です。つまり、冷たい山の湖の水は冷たく凍り始める0℃の水が表面近くに、温かい4℃の水がその下層になるということです。だから、厚い氷で覆われた湖でも魚たちは冬越しできるのですね。

 もう一つ、水という物質は固体の氷の方が液体の水より密度が小さく浮くという性質があります。ほとんどの物質は固体密度>液体密度が普通で「水」が変わり者なのです。

 水が凍ると体積が増えることで起きている現象の一つに岩を砕くというものがあります。岩に染み込んだ水は冬になると凍って体積を増やします。初めは小さかった割れ目は徐々に広がり岩は砕かれていくのです。雪の無い季節のアルプスに出かけた時に思い出していただけたらうれしいです。

森吉山 日本海でたっぷりと水分を補給された「冷たく湿った空気」がぶ厚い霧氷に成長します。
森吉山 日本海でたっぷりと水分を補給された「冷たく湿った空気」がぶ厚い霧氷に成長します。

 シベリア寒気が日本海の水分をたっぷり吸い上げた「湿った寒気」が日本列島に入り込むと各地で過冷却水による様々な自然現象を見ることができます。しっかりと防寒対策して楽しんでください。

 温暖化が進んでいるとはいえ、山の上は気温は低く、雪山冬山の厳しさは昔も今も変わることはありません。むしろ寒暖の差の激しさや極端な積雪など従来の登山常識とは異なるケースも出てくるでしょう。登山であれば「謙虚さと慎重さ」が求められます。

 さて、ご紹介した霧氷の仲間たちはいつ?どこで?見ることができるでしょうか。

 大雑把にみて下記の気象条件の時に見られるでしょう。

1:冬型の気圧配置 西高東低となる気圧配置

2:上空1500m付近(850ヘクトパスカル)の高層にマイナス6℃以下の寒気の流入

 日本海をわたってやってきた湿り気を含んだ北風や北西の季節風が強くあたる山岳地帯に多く霧氷ができます。登山愛好家によって既に多くの場所が紹介されていますので、ほとんど歩かずに見ることができる場所をいくつか紹介します。標高1000m上がれば6.5℃気温が下がります。

1:九州大分県の鶴見岳ロープウェイや阿蘇の山越え山岳ハイウェイ

2:六甲山山上道路の北側部分

3:中部以北のロープウェイがかかっているエリアは全てといってよいでしょう。ただ、日本海側気候に強く影響を受ける場所では吹雪、つまり積雪となり「氷の華」ではなくなります。念のため。

 霧氷とは違うのですが、水の芸術品を二つ紹介します。

 まず、一つ目は表面霜です。

表面霜 地面一面に成長しました。
表面霜 地面一面に成長しました。

 上空に寒気が流入、放射冷却で雪面が冷やされたところに、過冷却水をたっぷり含んだ雲・霧に覆われた状態になって、樹枝状に氷が気相成長したものです。雪原一杯にできた表面霜は圧巻です。

 気相成長:気体(水蒸気)⇒固体(霜)となって結晶が成長すること

表面霜を拡大してみるのも面白いです。葉っぱを敷き詰めたかのようです。
表面霜を拡大してみるのも面白いです。葉っぱを敷き詰めたかのようです。

 二つ目はダイヤモンドダストです。

ダイヤモンドダストによるサンピラー 西穂山荘付近にて
ダイヤモンドダストによるサンピラー 西穂山荘付近にて

 空気中の過冷却水がキラキラと氷晶となって太陽光線と共演するのが、ダイヤモンドダストであったり、サンピラーと呼ばれたりします。

 天気がいい時も悪い時も、様々な自然現象があります。そういった自然現象はきれいなものばかりではないかもしれません。屋外における様々な現象を自分の目で見るために必要な装備や知識もこれからお伝えしていきたいと考えています。

日本山岳ガイド協会認定山岳ガイド・カメラマン

ネパール・パキスタン・中国の8000m級ヒマラヤ登山を経験。40年間の登山活動で得た登山技術、自然環境知識を基に山岳ガイドとして活動中。ガイド協会発行「講座登山基礎」、幻冬舎「日本百低山 日本山岳ガイド編」の共同執筆。阪急交通社「たびコト塾(山と自然を学ぶ)」、野村證券「誰でもできる健康山歩き」セミナー講師。山岳・山歩きに関するテレビ番組への出演・取材協力。頂上を目指さない脳活ハイキングの実践。登山防災協議会会員、一般社団法人日本山岳レスキュー協会社員、公益社団法人日本山岳ガイド協会安全対策委員会委員長、山岳ガイドステージⅡ。

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