バルドラール浦安・大島旺洋の全盛期の引退は、“楽しさ”に包まれて【 #人生に刻むラストゲーム|Fリーグ】
最後のリーグ戦、ホームで2ゴールを挙げた大島旺洋。その快進撃は選手権でも止まらず、準々決勝では決勝点を奪ってみせた。日に日にキレを増していたからこそこの日、敗戦した後も、引退するのが信じられなかった。 ホーム最終節後の取材を踏まえて、“もったいないとは言わない”と決めて臨んだ試合後の取材。それでも、何度その言葉が飛び出しそうになったかわからない。 「フットサル人生に後悔はない」 キレの良いプレーの残像と未練を私たちに残しておきながら、自分はさっそうとこの場所から立ち去ろうとする彼に、思わず念を押してしまう。 「後悔は……ないんですね?」 「後悔があったほうがいいですか(笑)」 こちらの葛藤など知らず、本人は屈託なく笑っていた。 そんな大島だけれども、取材の途中でふと思いついたようにこぼした一言があった。 彼はきっと思ったままを口にしただけだろうけれど。その言葉を聞いて、うれしくも、うらやましくもなりながら“これが大島だ”と思わされたのだ。 取材・文=伊藤千梅
最後にこぼれた一言
5年間。長くはないけれど、決して短くはない現役生活を終えた大島に、最後の試合が終わった瞬間を思い返してもらうと、特に感傷に浸る様子も見せずに答えた。 「『終わっちゃったな』くらいですね。でも、悔いなく終われたかなと思います」 涙の跡は見えない。やり切ったという気持ちのほうが強いがゆえに、高校時代にサッカーを引退した時も涙は出なかったという。フットサルを引退する今も、表情を崩さなかった。 どこかスッキリとしている大島に対し、質問するほうはどこか煮え切らない。後悔はないと何度も伝える大島に、自分の気持ちを落ち着かせる。 すると、大島が思い出したように付け加えた。 「5年間で一番楽しかったかもしれないです。今日プレーしていて」 この言葉に、正直驚いた。 自分のラストマッチにこれまでの「楽しい」を更新できる選手がどれだけいるだろうか。また、その感情が強ければ強いほど、このピッチへの未練は残らないのだろうか。 こちらの衝撃をよそに、大島はいかに今日の試合が楽しかったのかを語る。 「最後の大会というこのタイミングで、一番強い名古屋を相手に、1年間一緒にプレーしてきた仲間と本気のバトルができたのが楽しかったです。ここで勝って、決勝に行けたらよかったんですけど。でも、勝てなくて悔しい気持ちはありますけど、最後、名古屋と本気の試合ができたのは、自分にとっては財産です」 最後の最後まで涙を見せなかった大島が、楽しかったのならそれでいい。本気の勝負、負けられない戦いのなかで、幸せに現役を終えられるのが“大島旺洋”という選手なのだ。