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4月9日は「子宮の日」毎年3000人死亡の子宮けいがんは予防できる?

2023年4月9日 22:19
4月9日は「子宮の日」毎年3000人死亡の子宮けいがんは予防できる?
子宮けいがん予防についてのステッカーを配る宮地真緒さん(東京・渋谷)

4月9日は『子宮の日』、子宮を守ることを考える日です。日本で子宮けいがんと診断される女性は、20歳代から40歳代を中心に毎年1万人以上、毎年約3000人が命を落としていることを知っていますか? 幼いこどもがいる女性が亡くなることも多く、子宮けいがんは「マザーキラー」とも呼ばれています。産婦人科医らのグループは、子宮けいがんは、ワクチンを打つこと、定期検診で早めに異変を見つけることで防げると知って欲しいと訴えています。

4月9日、東京・渋谷駅前で、産婦人科医と俳優の宮地真緒さんらが色とりどりのステッカーを配りました。ステッカーには「知るという、がん予防」と書かれています。

子宮けいがんで若い女性が命を落としたり、子宮を失ったりしていること、そして、それを防ぐためのワクチンがあることなどがあまり知られていない現状に、医師らが危機感を覚え、「まずは知って欲しい」と訴えました。

宮地真緒さんは、所属事務所の社長が子宮けいがんを再発して現在闘病中で、少しでも役にたちたいと、このキャンペーンに参加しました。

厚生労働省によりますと、日本では、20歳代から40歳代を中心に、毎年およそ1万人が子宮けいがんと診断され、毎年およそ3000人が亡くなっています。国立がん研究センターによると、25歳から40歳の女性のがんによる死亡の第2位は、子宮けいがんによるものです。

また、30歳代までにがん治療で子宮を失う女性は毎年約1000人。命が助かっても、こどもを産めなくなる上、手術後、排尿障害や足のむくみなどに悩む女性も多くいます。

■子宮けいがんとは…

子宮けいがんの主な原因は、ヒトパピローマウイルス(HPV)を持つ人との性行為(セックス)により、子宮の入口に近い子宮けい部(子宮体部とちつとの間)が、ヒトパピローマウイルスに感染することだと言われています。(お風呂やプールでは感染しないとされる)

このウイルスはありふれたもので、実は、女性の多くが一生に一度はこのウイルスに感染しますが、ほとんどの場合、自然に消えるということです。

しかし、ごく一部の女性では、感染した状態が長期間(数年から十数年)続くことがあり、がんの前段階(子宮けい部異形成)になることがあります。その段階では「経過観察」することになり、自然に治る場合もありますが、中には、さらに進んで、子宮けいがんになる場合もあるということです。

ヒトパピローマウイルスには、200種類以上の型があり、そのうち、子宮けいがんの原因となるのは、約15種類(16型、18型など)。がんの前段階になった場合に自然に治る割合は、ウイルスの型や女性の年齢などによるということです。

子宮けいがんは初期の頃にはほとんど症状のないことが多いものの、生理のとき以外の出血や性行為による出血、おりものの増加などが見られ、進行すると下腹部や腰の痛み、血の混じった尿が見られることもあります。このような症状が見られた際には、医療機関を受診するよう呼びかけられています。

■子宮けいがんを予防するためのワクチンがある

子宮けいがんの主な原因が、ヒトパピローマウイルス(HPV)だとわかり、このウイルスに感染するのを防ぐためのワクチンが開発されました。つまり、ほかの多くのがんは防ぐことができませんが、子宮けいがんはワクチンという防ぐ手段ができたのです。現在、およそ120か国で公的な接種が実施され、カナダ、イギリス、オーストラリアなどでの接種率は8割以上です。(ほかには、肝臓がんの一部も、専用ワクチンで予防可能)

後で詳しく説明しますが、日本では、少女たちが無料で接種できるよう、国はこのワクチンを「定期接種」に位置づけたものの、一時、接種を積極的に勧めることをやめていて、2020年度の接種率(1回目接種)は15.9%でした。その後、去年4月、対象者に接種券を郵送するなどして接種を勧めることを再開したため、去年4月から9月までの接種率(1回目接種)は、30.1%に上昇しましたが、海外に比べると低いままです。

ヒトパピローマウイルスには、主に性行為で感染するため、初めて性行為をするようになる前の年代で、HPVワクチンを接種すると効果があると言われています。海外の研究では、17歳になるまでにHPVワクチンを接種したグループは、接種していないグループと比べ、30歳までに子宮けいがんを発症する確率が88%下がるということです。一方、17歳以上で接種したグループでも、接種していないグループに比べ、発症確率は53%下がりますが、できるだけ若いうちに接種する方が効果が高いという結果が出ています。

■ワクチン 無料で接種できる対象は?

日本では、HPVワクチンは定期接種(無料で接種可能)に位置づけられ、対象は、小学6年生から高校1年生相当(進学しない人もいるため)の女性で、自治体から接種のお知らせと予診票などが届きます。

2013年、HPVワクチン接種後、全身の痛みなどの症状が出たとの訴えを受けて、安全性を確認するまでの間、国は一時的に、接種を積極的に勧めることをやめていました。そのため、誕生日が1997年4月2日から2007年4月1日までの女性で、対象年齢だった当時に接種しそびれた人も、現在、「キャッチアップ接種」として、無料で接種でき、自治体からお知らせが届いています。(2025年3月末までの措置)

なお、定期接種の対象より上の年代の女性も自費であれば、HPVワクチンの接種は可能です。性行為の経験がある場合には、すでにヒトパピローマウイルスに感染した可能性があり、過去の感染をさかのぼって防ぐことはできませんが、仮にワクチンを接種した場合、その後、新たなパートナーによる、このウイルスへの感染を防げる可能性はあります。

■接種後の症状について

一般的に、ワクチンの接種後、注射した部分の痛み、腫れ、赤みが見られることがあります。HPVワクチンは、筋肉注射で、接種時の痛みや、接種後、接種部位の腫れや赤みなどが出る場合があります。

10年ほど前、HPVワクチン接種後に、全身の痛み、手足の動かしにくさなど様々な症状の訴えが相次ぎ、そうした女性たちが国などを相手に起こした裁判は今も続いています。

国は2013年6月から、安全性を確認するまでの間、HPVワクチン接種の積極的な呼びかけを中止していました。その後の研究により、これらの症状とHPVワクチンとの因果関係は認められず、海外でワクチンの効果に関する研究結果が次々に発表されたことなどを受けて、去年4月、積極的な呼びかけを再開しました。

なお、当時、接種後の様々な症状を訴えた女性たちは、適切な診療や支援が受けられない場合もあり、複数の病院や診療科を転々としなければならなかったことから、万が一、接種後に症状が出た場合の相談、診療体制の充実が必要だという声は根強くあります。

HPVワクチン接種後に、症状が出た場合の協力医療機関が全都道府県に設置されていますが、体制や診療内容の充実がさらに求められます。

接種後に気になる症状がある場合は、ワクチンとの因果関係にかかわらず、まずは接種した医療機関に相談しましょう。

■ISRR(予防接種ストレス関連反応)とは

WHOのワクチンの安全性に関する専門家会議は、HPVワクチンに限らず、ワクチン全般について、ISRR(予防接種ストレス関連反応)という新たな概念を打ち出し、2019年12月にマニュアルを公表しました。

それによりますと「これまでの予防接種の副反応は、ワクチン液そのものの反応として扱われることが多くありましたが、ワクチンの接種を行うという行為そのものが一連の反応を誘発する可能性がある」ということです。

そして、「ISRRとは、ワクチン接種によるストレスに関連した一連の反応を言い、ワクチン接種の前や後に生ずる不安、恐れ、それをきっかけに一連の痛み、恐怖症、身体変化などが生じ、これらは周辺や社会的環境の影響を受けやすく、これを防ぐためには、接種する側の ISRR という反応の理解、それに対する被接種者への丁寧な説明と丁寧な接種が必要である。」と説明しています。

日本の厚生労働省は「接種直後に、注射による痛み、恐怖、興奮などをきっかけとした失神が現れることがあります。失神し、倒れて怪我をする例も報告されているため、接種後の移動の際には、保護者の方が腕を持つなどして付き添うようにし、接種後30分ほどは体重を預けられるような場所で、なるべく立ち上がることを避けて、待機して様子を見るようにしてください。」と呼びかけています。

■このウイルスは男性にも関係がある

ヒトパピローマウイルスは、200種類以上の型があり、子宮けいがんの原因となる型のほかにも、男女共通の「尖圭(せんけい)コンジローマ」といういぼを引き起こす型もあります。そして、型によっては、ちつがん、外陰がんのほか、中咽頭がん、陰茎がん、肛門がんなど、男性もかかるがんの原因でもあるということです。

日本では、公費(税金)を投入して無料で接種できるようにする定期接種の対象は女性のみで、男性が接種する場合は自費となりますが、オーストラリアなどでは、男女ともに公費助成があります。

性行為で感染するため、女性だけでなく、男性の感染者を減らすことにも意味があるほか、男性の病気を防ぐためにも、男性も無料で接種を受けられるようにすべきという意見があります。

■最新情報 原因ウイルスの8~9割防ぐ「9価ワクチン」

HPVワクチンには種類があり、従来から使われてきた2価ワクチン(サーバリックス)と4価ワクチン(ガーダシル)は、3回の接種が必要で、HPVの中でも子宮けいがんを起こしやすい型(16型と8型)の感染を防ぐことができ、子宮けいがんの原因の50~70%を防ぐということです。

一方、新しい9価ワクチン(シルガード9)は、HPVのうち、9つの型を予防できます。16型と18型に加え、31型、33型、45型、52型、58型の感染も防ぐため、子宮けいがんの原因の80~90%を防ぐということです。(そのほか尖圭コンジローマの原因となる型も防ぐ)

この新しいワクチンを打つ場合は、3回分でおよそ8万円近い価格を自己負担するしかありませんでしたが、今年4月からは、定期接種で使えるようにしたため、対象者は無料で接種できるようになりました。9価ワクチンは、15歳になるまでに1回目の接種をした場合、合計2回で接種を終えることができます。(それ以外の場合は3回接種が必要)

■子宮けいがんを防ぐには検診も必要

ワクチン接種だけでなく、万が一、ウイルスに感染してしまった場合に異変を早く見つけるため、20歳以上の女性には、2年に1回、子宮けいがん検診を受けることが推奨されています。子宮けい部の細胞をとって、異常がないか調べる検査で、異常がなければ1~2分で終わります。

子宮けいがんが再発し、余命3か月と言われた40代女性は、私たちの取材に対し「子宮けいがんという名称は知っていたが、自分に関係あるとは思っていなかった。仕事が忙しかったこともあり、腹痛があっても、生理痛かと思ってすぐには病院に行かなかった。誰かが教えないと、私の周りにも、このがんを知らない人が多い。とにかく、子宮けいがんについて、皆に知って欲しい」と話しました。

知ることから、予防が始まる…大切なメッセージです。