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「感動する介護」鎌田氏が心温まる経験紹介

2015年11月27日 4:59
「感動する介護」鎌田氏が心温まる経験紹介

 キーワードでニュースを読み解く「every.キーワード」。26日は、「介護する、ということ」をテーマに、諏訪中央病院の名誉院長・鎌田實さんが解説する。

 ■介護人材「38万人不足」の見通し

 誰もが年をとれば、介護を受ける可能性がある。10年後の2025年度には、高齢者の数がピークを迎えるが、介護の現場では人材をどう確保するかが大きな課題となっている。

 厚労省によると、2025年度、介護現場で必要な人の数は253万人になると推計されている。一方、介護現場で働く人の数は若い世代の人口減少などで215万人にとどまるとみられていて、およそ38万人が不足することになる。

 ■介護の魅力を…「介護男子」立ち上がる

 人材を確保するためにも、介護の魅力を伝えようと、介護の現場に携わる男性、いわゆる「介護男子」にスポットをあてたプロジェクトがある。全国20の社会福祉法人が共同で立ちあげた「介護男子スタディーズプロジェクト」だ。このプロジェクトのメンバーが今月11日、介護の日に「介護男子」によるトークショーを開催した。

 介護男子「人類皆が介護というところに、何かしらの形で直面する。ただ、友達・知人、ほとんどの人が介護のことを知らないという現状がある」「介護の魅力は足を踏み入れて、関心を持って入っていかないと分からない部分がどうしてもあって、知っているからこそ、中から発信していくことが必要」

 このプロジェクトを企画した1人で、自身も介護の現場で働く介護男子スタディーズ・プロジェクトリーダーの馬場拓也さんは次のように話す。

 馬場拓也さん「これからの介護人材不足も叫ばれていますが、イノベーション(革新)は霞が関から起きるんではなくて、やはり僕ら現場から起こしていく、ということが非常に重要なファクター(要因)だと思ってます」

 馬場さんは、かつてファッションブランド「ジョルジオ・アルマーニ」で働いていた。「ファッション」の世界と「介護」の世界はまったく違う世界のように思われるが、お客さまの望みに応えるという点では同じだという。5年前からは社会福祉法人で働いていて、大学などで介護についてセミナーの講師を務めるなど、介護職のすばらしさを広めようとしている。

 また、馬場さんは「介護男子スタディーズ」という本を企画・出版している。介護の現状や未来について、地域で包括的にケアをおこなうためのまちづくりや、ファッション、アートなど、多角的な視点から分析した本だ。中には介護に対する印象を変えるひとつのきっかけになればと、実際に介護現場でいきいきと働く、介護男子の写真も載っている。そこで、この本にも載っている、ひとりの介護男子を紹介したいと思う。

 ■「厳しい仕事ではないです」

 特別養護老人ホームで働く二十歳の片岡哲也さん。祖父の介護を手伝っている中で、感謝される喜びを知り、この仕事を選んだという。

 ミノワホーム・片岡哲也さん「友達にも言われるんですけど、『介護していて偉いね』とか『大変でしょ』って言われるんですけど、利用者さんとふれあうことで、楽しい時間を自分もいただいているし、利用者さんも楽しんでいただければいいかなっていうのがあって。別に厳しい仕事ではないです」

 働き始めてまる2年。施設を利用する方々を家族のような存在だと言う片岡さん。利用者の方からは、「ちょっとしたことにもよく気がついて、若いのに感心」だという声もあるそうだ。片岡さんと接している間、お年寄りはみんな笑顔。介護する側と介護される側の心が通じている証拠で、これが大事なのだ。

 片岡さんが働いているこの老人ホームが目指すのは、「感動する介護」。介護の質や価値を高めて、介護される側と介護する側が感動を共有できるようなサービスを提供したいと考えているという。

 ■鎌田さんが経験した「感動する介護」

 実は私自身も介護の現場で感動したことがある。今月11日の介護の日に行われた講演の中で紹介させていただいたのだが、あらためてそのエピソードを紹介させていただきたいと思う。

 鎌田實さん講演「このおばあちゃんは80歳で、乳がんで両肺に転移がありました。呼吸が苦しくて、両方の肺にがんが転移しているわけですから、酸素を吸いながら、ぜえぜえ、ぜえぜえ、彼女は苦しそうに歩く練習をしていたんです。それで僕はちょっとみかねて、『ばあちゃん、もう無理しないでいいよ、無理すんな、無理すんな』って言ったら、おばあちゃんが『先生、余計なこと言わないでください。私がやりたいんだ。私は苦しくても、私が納得してやっているんだから、先生、余計なこと言わないで』って。

 がんが末期で告知を受けている、近々亡くなる。でもおばあちゃんは、『梅を漬ける季節だから、私は家に帰って梅を漬けたい。だから歩く訓練をしている』。「わかった。ばあちゃん好きなようにやれ」と言ったら5日ほど訓練して、少し足腰がしっかりしたところで、おばあちゃんは『明日帰る』と。

 家で慌てて準備をして、東京のお子さんやお孫さんもやってきました。で、梅を漬けた。おばあちゃんは身の回りの整理をしてまた戻ってきた。僕にこう言ったんですよ。『もう心残りはありません。やることは全てやりました。思い残すことはないよ、先生。ありがとう。きょう漬けた梅は、私はもう食べられないのは知っている。この梅が熟した頃、私はこの世にいない。でも、おいしくなった頃、私の子供や孫がこの梅を食べて、私のことを思い出してくれればいい』」

 温かい介護があると、その人がその人らしく生きることができる。だから、介護現場が厳しくなってギスギスすると、こういう感動する介護もできなくなってくる。介護をする人たちが生き生きと生きられるような世界にしてあげることが、2025年問題、高齢化社会を生き抜く上ではとても大事なことだ。感動する介護というのを忘れないようにしたいものだ。

 ■誰かのために生きる

 きょう一番伝えたかったのは、「誰かのために生きる」ということ。安倍政権も介護離職ゼロということを目指し、介護を充実させたいという考えだ。でも、政府だけにまかせるのではなく、国民一人ひとりも介護に対する考え方を変えていく。若者の男子ですら、介護に対して熱い思いを語り出してくれた。介護する側とされる側が、お互いの身になって相手のことを考える、誰かのことを考えてあげる。そうやって介護を充実させていくと、日本全体に温かい血が通っていくことになるのだろうと思う。

 誰かのために生きるということを、もう一回みんなで考え直していくことによって、来るべき高齢化社会を乗り越える温かな日本をつくることが出来るように思う。