トップインタビュー:鳥貴族・大倉忠司代表取締役

2010.03.01 369号 15面

 未曾有の大不況の中、外食業界に次々と登場した低価格均一業態。その筆頭的な立場で一躍注目を集めた「鳥貴族」だが、実は昨今の不況とは無関係に創業以来24年間280円均一で地道に貫き、店舗を拡大させてきた。そこには、低価格であるべき根拠が、商品へのこだわりが、従業員への愛情が、しっかりと根付いている。「景気や流行に左右されたくない」と語る代表取締役の大倉忠司氏は、商品を絞り込んでよいものを出すことに集中し続ける。「低価格」の一言ではくくりきれない飲食業本来の「価値」が、同社の成長をしっかりと支えているように感じた。

 ◆価格・ボリューム・おいしさ妥協なし

 –「鳥貴族」が24年前から280円均一料金で営業されていると知って驚きました。

 大倉 創業時は250円均一でした。7年後ぐらいから280円均一でやっています。はっきり言うと“想い”だけなんですね。お客さまが、どれぐらいの値段でこんな料理を出したら喜んでいただけるか、ビックリしていただけるか、もうそれだけで。

 –焼き鳥2本で280円は、冷静に考えると無茶な価格設定ではない。それでも「鳥貴族」は他を圧倒してしまいました。その理由は何でしょうか。

 大倉 他店が1本25~30g程度のところ、「鳥貴族」は約60g刺しています。名物の「貴族焼き」は1本90gを2本で280円。フレッシュな国産鶏を使って、これができる店はほかにまずありません。そしてビールなどアルコールも280円均一。「淡麗」の大ジョッキ(700ml)が280円というのも破格です。

 –冷凍鶏を使ったり、セントラルキッチンで一括製造すればもっと安く出せます。なぜ、効率化を図らないのですか。

 大倉 「鳥貴族は、安いけれども焼き鳥は本物」というのがウリ。国産のフレッシュな鶏肉を毎日仕入れて、各店舗で開店前に1本1本串打ちしています。たれも自家製です。約1000本もの串打ちを毎日するのは、たしかに手間がかかって効率も悪い。しかし、価格でも味でも、他のチェーン店さんや居酒屋さんの焼き鳥に負けたら駄目なんです。そうでないと、焼き鳥専門店である「鳥貴族」の存在価値がありませんから。

 ◆商品に対する誇り 変わらぬ理念共有

 –ここ1~2年で低価格均一の居酒屋が急増しています。先駆者の立場から、この状況をどう感じていますか。

 大倉 弊社の低価格均一が目立ってまねされるのはしょうがないと思います。いずれは、お客さまがちゃんと選別して本物だけが残るのではないでしょうか。

 そして、急に価格が変わって料理も変わってしまった店の従業員は、志や誇りを持ち続けられるのか疑問です。私たちは、創業当時から変わらぬ価格で変わらぬ理念を共有しています。「280円均一で、こんなにおいしいものを出しているんだ」という誇りを持って働いています。飲食業であれ他業種であれ、自社の商品に自信を持てないことほど不幸なことはないですよ。

 –これからの時代、生き残っていく業態・料理はどのようなものだと考えていますか。

 大倉 専門店がますます強くなっていくと考えています。お客さまはどんどん目も舌も肥えてきていますので、専門店の方がニーズ・ウォンツに応えていける。居酒屋業界も、何でもありの居酒屋ではなく、串カツだったら串カツ、焼き鳥だったら焼き鳥、と専門化がより進むのではないかと思っています。

 –専門化することにより、品質向上に集中できるというわけですね。

 大倉 そして絶対的な低価格をどう維持でき、作れるかだと思います。うちの店はハードユーザーが多いんですよ。多くて週2~3回来ていただいてる。「鳥貴族」を居酒屋業界の「生活必需店」にするのが目標です。専門店なら商品力を強めながら、低価格を追求することができます。

 –「生活必需店」であるためには低価格は必須条件であると。

 大倉 景気にも流行にも左右されない「永遠の業態」を作ろうと思っています。実際25年やってきて、景気がよくなってもすごく上がることはないですし、不況だからすごく下がることもありません。「不況に強い」と注目されるようになりましたが、リーマンショック以前から前年売上げをクリアし続けています。現在156店舗ですが、これまで償却が終わる前に閉めた不振店は2店舗だけです。

 ◆お客の方を向いた強いチェーン店へ

 –2016年に1000店という大きな目標を掲げていますが、新規FCの募集をしていないそうですね。出店スピードを上げるには、FCを増やす方が効率的かと思いますが。

 大倉 強いチェーン店を作りたいんです。そのためには直営店の方が理念を貫けます。また、現在14人のオーナーさんとは5年以上のおつきあいで、弊社の理念を理解していただいています。現在のオーナーさんと直営とで出店を進めていきます。

 –出店計画はどうですか。全国に店舗を広げていくのでしょうか。

 大倉 1000店を達成するまでは関西圏と首都圏、それと東海地区ですね。いわゆる三大商圏に絞ります。

 –低価格で注目されていましたが、しっかりと企業理念や誇りを持って働ける店を重視しているんですね。

 大倉 店が10店舗くらいになったときに、企業理念として「鳥貴族のうぬぼれ」というのを作りました。これまで口で伝えていたことを文章にしたんです。「たかが焼き鳥屋で世の中を変えたい」と。価格設定も、商品の品質も、サービスの考え方もトータルで「お客さまの方を向いてやっているんだ」という“想い”を伝えています。働いている子の多くが「鳥貴族」が好きと言ってくれるのは、この理念に共感してくれているからでしょう。自分の働いている店を本当に好きで、自信を持つということは強い店作りに不可欠です。

 ○プロフィール

 おおくら・ただし=1960年大阪府生まれ。辻調理師専門学校卒業後、リーガロイヤルホテル入社。お客として訪れていた焼き鳥店店長と出会い、82年に同焼き鳥店に転職。85年に独立し「鳥貴族」をオープン。店のたれは創業当時に自らレシピを研究・開発。現在も変わらぬ味で提供されている。

 ◆企業メモ

 (株)鳥貴族(本社所在地=大阪府大阪市浪速区桜川4-9-13)/設立=1986年9月/資本金=2300万円/従業員数=1500人(パート・アルバイト含む)/店舗=じゃんぼ焼鳥「鳥貴族」156店舗/公式サイト=http://www.torikizoku.co.jp/※2010年1月現在

 ◆事業内容

 焼き鳥専門店じゃんぼ焼鳥「鳥貴族」だけの単一業態で展開。創業当時からフード・ドリンク280円均一という低価格路線で店舗数を拡大する。91年からFC展開を開始。2005年に首都圏進出一号店となる「中野北口店(東京)」を出店。2007年に100店突破。09年に東海圏進出一号店となる「錦三袋町店(名古屋)」を出店。同年、「株式会社 鳥貴族」に社名変更し、16年1000店を目指す。

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