渡辺淳之介さん 撮影/矢島泰輔
渡辺淳之介が「音楽業界」を志すまで
――進学校である桐朋中学・高校に通われていたということですが、どのような学生時代を過ごされましたか?
「やばかったっす。母親が小学校の教師だったんで、小学校3年生くらいまでは勉強してたんですよ。塾も行ってましたし。
――そのバンドで芸能界を目指そうと?
「高校2年で学校をやめて、地元・八王子のライブハウスで、プロになりたいバンドマンや大学生に交じって演奏していたんで、こうやってインディーズに上がっていくのかなって思っていたんですよ。
――高校は中退されたそうですが、芸能界の裏方を目指すにあたり、具体的にはどんなことをされたのでしょうか。
「いろんな就活本を読んだところ、裏方の仕事といってもレコーディングエンジニアとか、照明さんとか、いろいろあるなかでいちばんカッコいいなと思ったのがレコード会社のディレクター、A&Rという職業だったんです。
――そして見事、早稲田大学に合格されたわけですが、学生生活はいかがでしたか?
「普通に遊んでましたね。新歓コンパでは、大学のネームバリューを利用して取っ替え引っ替えするという“ヤンチャ”をして大顰蹙(ひんしゅく)を買ったりしました。
――実際に音楽業界で働かれてみて、その印象はいかがでしたか?
「ちょうどiPodが流行(はや)りはじめ、違法ダウンロードも活発になってきたりと、デジタルなものが一般的になってきた時期だったんですね。とにかくタイアップをとってCDを売るという形態からの移行期だったので、チャンスさえあれば新しいことをやって業界を席巻(せっけん)することも可能なんじゃないかなと、その機会を虎視眈々(こしたんたん)と狙っていました。
アイドルは「消費されやすい」
――渡辺さんの中で、 “アイドル”とはどのような存在だと思われますか?
「一般的にアイドルって寿命が短いじゃないですか。例えば18~25歳までやると、まだ全然若いのに“賞味期限”が切れたと思われてしまうような、非常に消費されやすい存在ですよね。
――そうしたなかでも、WACK所属のアイドルたちは、「渡辺さんは私たちをアイドルという商品として扱うのではなく、人間として対峙(たいじ)してくれる」とおっしゃっています。実際Twitterでもアイドルの子たちのつぶやきに対してコメントをされたりしていますよね。
「会話は大事にしています。ただ、いま所属の子が30人以上いて、どうしても会話できない部分も多くなってきたので、先日も所属アイドルを含めたみんなで熱海に社員旅行に行くなど、コミュニケーションの機会は積極的に作っています」
――会話のなかで、彼女たちにどのようなアドバイスをされますか?
「オーディションを受けてくれる女の子たちもそうなんですけど、自分は“ありのままでいい”って思っている子が非常に多いんですね。だけどそうではなくて、もっとしっかり考えなきゃいけないよと。
――自らの失敗の経験から、同じ道を歩まないようにアドバイスをされていると。
「もちろん失敗から学ぶこともありますけど、もっとうまくやれたのに……という後悔がすごく多かったので。
――11月1日より公開される映画『IDOL-あゝ無情-』では、オーディションサバイバル合宿に密着。アイドルを目指す女の子たちの姿をノンフィクションで追う様子が映し出され、劇中では、厳しい言葉を投げかける渡辺さんが“悪役”に見える場面も多かったです。
「彼女たちが苦しんでいる顔を見ると楽しくなってきちゃうんですよ。悪役として生まれてきたんだろうなと思います、正義の仮面ライダーにはなれないですね(笑)」
――過激な発言もカットせずに映し出されていました。
「僕は、映像も写真も基本的にはNGは出さないんですよ。“あちゃ~これやっちゃったな”と思っても、自分自身カメラが回っているとわかってやっていることだし、それがリアルだと思うので、基本的にはカットしないようにしています」
これからの芸能界と自らの目標
――吉本興業がエージェント契約を始めましたが、これからの芸能界についてはどのようにとらえていますか?
「変わっていくと思います。経営者目線でいうと、頑張って育ててきて売れそうになったところをいきなり大手に引き抜かれても文句を言えない状況になってきたなと。だからこそより一層、タレントさんと事務所側の信頼関係、人間性、裸一貫のつながりというのがすごく大事になってくるはずなので、気を引き締めなきゃなと思っています」
――今後、どういったことをエンターテインメント業界に仕掛けていきたいですか?
「自分自身、中学高校時代、“なんで誰も認めてくれねえんだ”という絶望感があったので、そういう絶望感を抱いて“死にてえ”みたいに思っているやつに“もうちょっと生きてみようかな”って思わせることができたらいいなとは思っています」
渡辺淳之介が考えるアイドルの「定義」
――最後に、渡辺さんが考えるアイドルの定義、そして、どういう女の子がアイドルに向いていると思われているか教えてください。
「アイドルとは、生身の人間ではあるんですけど、本物じゃない偶像ですかね。正直、アイドルに向いている女の子っていないと思うんですよ。
■映画『IDOL-あゝ無情-』
毎年恒例となったWACKによるアイドル最終合宿オーディションが2019年3月に行われた。場所は2回目の開催地となる九州の離島、壱岐島。アイドル候補生たちだけでなく現役メンバーも参加し、一週間の過酷なサバイバルオーディション生活を繰り広げるが……。
11月1日(金)よりテアトル新宿、11月8日(金)よりシネ・リーブル梅田、11月9日(土)よりシネマスコーレにて公開