かず姉みたいな先生はダメだと思います(笑)│冬アニメ『のんのんびより のんすとっぷ』宮内一穂役・名塚佳織さんインタビュー【インタビュー連載 第9回】
のどかな田舎でのびのび過ごす少女たちの姿を描いたコミック『のんのんびより』のアニメシリーズ最新作となる第3期『のんのんびより のんすとっぷ』(以下、『のんすとっぷ』)が好評放送中です!
2013年に第1期が放送されて以降、第2期、劇場版と、ゆったりとした雰囲気やキャラクターたちのやり取り、綺麗な風景描写で人気を博した本シリーズ。『のんすとっぷ』では、旭丘分校に通う少女たちの明るく元気な日常が、新たな仲間たちを迎えて彩られます。
その待望の第3期の放送を記念して、アニメイトタイムズではキャストやスタッフへのリレーインタビューを実施。
第9回は、宮内一穂役・名塚佳織さんのインタビューをお届けします。れんげの姉であり“かず姉”の愛称で親しまれている一穂は、旭丘分校の教師……ですが、授業中に寝ていることもある人物。そんな彼女を演じる上で意識してきたこと、第3期で好きなエピソード、これまでの『のんのんびより』の思い出など、いろいろなお話を伺いました。
かず姉を演じるポイントは“フラットでいること”
――第3期が決定し、実際にアフレコがスタートした感想をお聞かせください。
宮内一穂役・名塚佳織さん(以下、名塚):第3期が決まった時はすごく嬉しかったんですけど、(このご時世で)別々に収録するのがやっぱり寂しいです。別現場でみんなとすれ違うたびに、「(第3期が)始まったね」「あの話数録った?」みたいな話をしていて、自分の出るシーン以外がどうなっているのか(オンエアまで)気になりました。
――これまでのシリーズは全員で収録していたそうで。
名塚:そうなんですよ。メインキャストの人数が少ないこともあって、TVシリーズも劇場版もみんなで収録できたんです。もう家族みたいな感じでしたので、バラバラで収録するのは寂しいなって。スタートしたけどスタートしていないような、不思議な感じでした。
――大きな変化はないにしても、第3期になって新たに感じたことはありますか?
名塚:やっぱり、コメディやギャグアニメって一緒に録らないと難しいんだなと実感しました。今まで(他の人が演じているのを)後ろで聴きながら全体の流れを把握して、最後に一言いれたりするのは、そんなに難しくなかったんですね。
聴いている時は視聴者の方と同じ目線なので、どんな音が来たら心地いいか、どんな風に落として欲しいかがなんとなくわかるというか。それがひとりだと……自分が最後に収録する場合はいいんですけど、そうじゃない時はこれでいいのかわからないまま進むので、すごく難しいです。
――キャラクター的にもみんなを見守っていますからね。そこは周りの流れがあってこそなわけで。
名塚:(作中で)かず姉は寝てることもあって、全部を聴いているわけじゃないから、収録に入る前は別録りでも大丈夫だろうと思っていたんです。でも、いざやってみたら、これでいいのかすごく不安で。全体を把握するのはすごく大事ですね。
これまでも、台本を読んでこんな感じで来るかな?と思っていても、夏海(越谷夏海)のテンションが予想以上に高かったり、れんちょん(宮内れんげ)が予想外に冷めていたり、当日みんなで録ることによって気づくことがあって。幸い今回が第1期ではなかったので、みんなの声はなんとなく聴こえては来るんですが、そういうことまで読み取る力をつけなきゃいけないなと、すごく勉強になっています。
――長く続けてきたからこそ、新たなニュアンスもあるでしょうからね。
名塚:みんなもどんどん新しい引き出しを増やしているだろうし、より一層みんなの声を聴きながらやりたかったなと感じましたね。
――そもそも論にはなるのですが、かず姉を演じる上ではどのようなことを意識しているのですか?
名塚:“フラットでいること”ですね。『のんのんびより』の世界観の面白さって、みんな浮足立っていないというか、この土地にものすごく根付いている感じだと思うんです。大自然の中に住んでいて、なにか起きても動揺しないおおらかさだったりが根本にある気がしていて。そういうどっしり感や安心感は常にベースとして置いておきたいなと思っています。その中で、いかにエピソードごとに展開していくかが大切なのかなって。
――ちなみに、ご自身は動揺しないどっしり感がある方ですか?
名塚:それが……結構緊張しいだし、怖がりだったりもするんですよ。そう見えないって言われるんですけど(笑)。
――ちょっと意外です。しっかりしていて頼りがいがあると他の人が話しているのを耳にしたこともあるのですが。
名塚:そう言っていただけることは多いんですけど、実はかなりビビりです(笑)。気にしいだし、事前準備をしないとダメな方なんですよね。そういう意味では、かず姉とは真逆かもしれないです。「まぁいっか」という感じではいられないので(笑)。
――かず姉の境地に達するのは難しいかもしれないです。
名塚:憧れますね。かず姉みたいな、ちょっと悟りを開いているぐらいの雰囲気はある意味かっこいいなと思います。
名塚さんによる、かず姉の教師としての評価は?
――ご自身はビビりとのことですが、ビビりといえば新キャラクターの篠田あかねはそういうタイプですよね。彼女やしおりちゃんといった、第3期で登場した新キャラクターの印象はいかがですか?
名塚:すごく可愛らしい2人がファミリーに入ってくれて嬉しいです。あかねちゃんは小鞠とはまた違うビビりというか、そこもまた可愛いですし、2人が登場したことで周りのみんなが成長した気がします。しおりちゃんによって、れんちょんがすごくお姉さんになったりして。そういう成長が見られるのも面白いところのひとつですよね。
――これまでも他の場所からやってきた子はいましたが、今回は高校の後輩や駐在所の子ですからね。
名塚:そうですね。でも、遠くにいる子とは手紙でしかやり取り出来なかったり、電話もたまにしかかけられなかったり、昔ながらの雰囲気も懐かしくて素敵だなって思います。距離が離れたところに住んでいるもどかしさとか。今だったら小学生もスマホを持っていて、繋がりやすいのかもしれないですけど。
――確かに、懐かしさと田舎らしさを感じますよね。ちなみに、名塚さんは東京出身ですが、田舎に対する思いや印象深い記憶はありますか?
名塚:家族がみんな旅行好きだったので、四季折々いろいろな場所に行っていたんです。夏は海、秋の紅葉の季節には山登り、冬はスキーという感じで。それに、母も祖母も温泉が好きで、有名な観光地というより山奥にある秘湯の宿に行くのが特に好きだったので、そういうところに馴染みはありました。
――いわゆる都会の人が抱く田舎への憧れではなく、実体験として田舎の空気を感じてきたと。
名塚:もちろん住んでいたわけではないので全部は知らないですけど、小さい頃にそういうところで遊んだ記憶はありますね。結構自然には触れてきた気はします。
――では、第1期の頃から世界観に入りやすくはあったのですね。
名塚:はい。懐かしく感じたり、イメージや匂いをすごく感じたりしました。
――物語の内容についてもお聞きします。ここまで放送された中で、特に印象的だった話数やシーンをあげるならどこでしょうか?
名塚:授業参観の回(第7話「ハラハラする秋だった」)は、夏海とかず姉のダメっぷりに拍車がかかっているなと思いました(笑)。この回は、ちょうど夏海(佐倉綾音さん)と一緒に録れたんですが、テストが終わったあとに2人で「お互い、ダメさ加減がヤバいね」「夏海はこんなにも勉強ができないんだね」と話していて。
今まで勉強から逃げてきたことは知っていたし、夏休みの宿題を最後まで溜めているエピソードも見てきたんですけど、まさか掛け算が言えないとは……。もし自分が親だったら、怒るというか不安だろうなって。雪子さんの「この子はどうしたらいいんだろう」といった感じがたまらく面白くて、お気に入りのエピソードです。
――佐倉さんもインタビューで話していましたけど、あれを見たら不安になりますよね。
名塚:というのも、うちの娘が小学生なんですよ。幼稚園や小学校低学年の頃は、元気いっぱいに過ごしてくれればよかったんですけど、そろそろ勉強も本格的になってきて。大丈夫かな?と思うんですよね。まだこれからとは思いつつも、導入部分を間違えると夏海のようになってしまうんじゃないかって(笑)。
――つまり、夏海のようにはなって欲しくないということですね(笑)。
名塚:そ、そうですね(笑)。いや、夏海はめっちゃいい子なんですよ。めっちゃいい子だし、基本的には好きなんですけど……授業参観のエピソードを見て、自分が親だったら本当にあの場から消えたいだろうなと思って(笑)。
――じゃあどのキャラクターみたいに育ってほしいですか?
名塚:誰かなぁ。蛍(一条蛍)やこまちゃん(越谷小鞠)みたいになってくれたらいいんですけど、夏海とかひか姉(宮内ひかげ)はね……。
――ひか姉もだいぶ怪しいですよね。相変わらず小学生や中学生と同レベルですし。
名塚:本当にそうなんですよ。レベルが小中学生と一緒っていう。あと、収録の合間に「ひか姉はしょっちゅう帰ってくるけど、東京に友達いるのかな?」とも話していたんですよね(笑)。
面白いキャラクターだし、登場回数が多いのは嬉しいんですけど、ふと彼女の境遇を考えると、おや?って感じがして。でも、やっぱり夏海とひか姉がわちゃわちゃやっている回は、明るくて楽しいなって思いますね。面白さに拍車がかかっている気もします。
――というか、夏海の勉強のことを他人事のように言っていましたけど、先生(一穂)にも原因があるんじゃないか説が。
名塚:そうですね。私の責任でした(笑)。一緒になって隠蔽しようとしていましたからね。
――それはそれとして、こんな先生はどうですか?
名塚:ダメだと思います(笑)。私が親の立場だったら、勉強はしっかり先生に教えてほしいと思いますね。日常生活に関しては家庭や日々の生活で教育していくことだと思いますけど、勉強は免許を持って教えているわけですから。寝てばっかりいたら、そりゃ怒られますよ。
――日誌にも書かれていましたからね。
名塚:子供たちに気を使われてね。でも、そこもかず姉の面白いところだなって思います。
私と姉も、夏海と小鞠のような感じでした
――今期に限らず、これまで『のんのんびより』に関わってきて印象深かったことをお聞かせください。
名塚:最初の頃、『のんのんびより』の間やのんびりした感じを共有するために、無音で風景だけが映っているシーンをずっと流していたんですよ。1分半ぐらいあるシーンを、私たちは椅子に座って見ていて。普通のアフレコで1分半って結構長くて、誰も喋らないシーンなのにロールを回していることはほぼないんですね。でも、あえてそれをやってから第一声や会話を録っていたんです。
どうしても都会で生活していると、せかせか生きてしまうし、電車は5分おきにくるのに、1本乗り過ごしただけですごく遅れた気持ちになるじゃないですか。でも、彼女たちはバスが行ってしまったら1時間は来ないような世界で生活していますよね。その時間の感覚を常に呼び起こしてくれるような収録の仕方だったのが、この作品の良さになっているんじゃないかなって。
――賑やかな掛け合いもありますけど、特に第1話のAパートは本当にゆったりしていますからね。そこを見るだけで『のんのんびより』だなと感じて。
名塚:全然違いますよね。だから、今回別々に収録していても、この感覚はなくさないようにしようと思っています。
――直近の放送回となる第9話では、夏海と小鞠のエピソードが描かれました。名塚さんはお姉さんがいるとのことで、この姉妹のような関係はいかがですか?
名塚:うちも姉とすごく仲が良くて、こんな雰囲気かもしれないです。見た目は私の方がお姉さんっぽいとよく言われるんですけど、中身は結構私の方が、って感じで。さすがに、夏海ほどではないですが(笑)。
小さい頃は蛍ばりに姉のことが大好きで、ウザがられるぐらいくっついて回っていました。憧れもあって、いろんなことを真似してみたり。喧嘩もするけど、怒られそうになったら助け合ったり、人の振り見て我が振り直せ的なこともあったり(笑)。だから、(越谷姉妹の)あの関係性はすごくいいなって思うんですよね。
――夏海と小鞠もよく言い合いをしていますけど、なんだかんだ仲が良いですからね。
名塚:そうなんですよ。ちょっとした時に姉妹なんだなって部分がすごく見えますよね。こまちゃんがとばっちりを食らうのは、いつも可愛そうだなって思いますけど(笑)。でも、そこが彼女の可愛らしさでもあるし、本人的には本気で怒っているのかもしれないけど、怒り方も可愛いですからね。夏海の方が年下のくせに「はいはい」ってなっちゃうのはわかります。そういうところもすごく好きです。
――第9話には、そんな小鞠がカレーを作るシーンもありますが、カレーにまつわる思い出はなにかありますか?
名塚:カレーにかぼちゃを入れる時はタイミングに気をつけた方がいいです。すごい勢いで溶けるので。私、初めて一人暮らしをした時にタイミングを間違えてしまい、まさかのカレーを失敗するという……。
――溶けても美味しそうに感じますけど。
名塚:いや、それが本当に不味かったんですよ(笑)。甘すぎて、しかもでんぷん質なのでドロドロになるんです。水を足してもかぼちゃがどんどん吸うから、ドロドロしたまずいものが増えていくっていう、地獄みたいなカレーができました。本当に不味くて、やばいと思いましたもん。なので、ジャガイモと一緒にスタートから煮込んではダメです!
――皆さんお気をつけて!ということで。では最後に、第10話以降の見どころをお聞かせください。
名塚:先ほど話したように、れんちょんが心情的にもより大人になっていくのを感じられると思います。今までは一番下だったのが、自分よりも下の子ができるとこんなにも成長するんだなって。面白エピソードもグッとくるエピソードもありますので、ぜひ楽しみにしてもらいたいです。
[取材・文/千葉研一]