着物や帯でいう自然布は、植物から採取された繊維を糸にして織られたものです。染料も主に草木染めや顔料など天然染料が使われます。
野趣ある風合いから、主に夏の着物や帯として流通していますが、私は初夏の季節から着用しています。日々色濃くなる鮮やかな緑と柔らかな初夏の陽射しにとても合うのです。自然布の帯のコーディネートをご紹介します。
文・写真提供=朝香沙都子
芭蕉布(ばしょうふ)
芭蕉布は糸芭蕉の葉鞘(ようしょう)の茎から繊維を取り出してつくられます。糸芭蕉はバナナと同じバショウ科の多年草です。
糸芭蕉を倒して(苧〈うー〉倒し)、皮を剥ぎ(苧剥ぎ)、煮て、不純物を取り除き(苧引き)、細く裂き、機(はた)結びでつなぎ(苧績〈う〉み)、糸にして織りあげます。1反の芭蕉布をつくるために200本の糸芭蕉の木が必要で、それだけの糸芭蕉から取れる繊維はわずか1kg。それが600gの布になります。
古代織連絡会の自然布の旅で体験した芭蕉布の糸づくりは、私の人生観を変えてしまうくらい心に響くものでした。この時から染織産地巡りのスイッチが入ったと思います。
最初の写真の前姿。
着物は高坂エミ子作の格子にトゥイグワーとヒチサギー文様の夏久米島。生成りの喜如嘉(きじょか)の芭蕉布の帯をコーディネートしています。生成りの芭蕉布の着物を解いて蛇籠(じゃかご)に翡翠(かわせみ)の刺繍をした帯です。芭蕉布は着尺にはナハグーといわれるもっとも内側の繊維が使われますので、糸が細く美しい芭蕉布です。
バッグは、喜如嘉の芭蕉布工房「風苧」平山ふさえ作。琉球藍とインド茜と相思樹を染料にした花織の芭蕉布です。
紙布(しふ)
ジンダマー文様の木綿×絹の交織の琉球絣のひとえに、米沢の「出羽の織座」の経糸は木綿、緯糸は和紙を紙縒り状に糸にした紙布の八寸帯をコーディネート。
科布(しなふ)
幾何学文様の結城縮のひとえに鶴岡の「しな織創芸 石田」の八寸帯をコーディネート。帯は科布に正藍師・故田中昭夫がツバメに芙蓉模様を藍型染めしたものです。
科布は現在は山形と新潟の県境にある、山形県鶴岡市関川、新潟県村上市の山熊田(山北)と雷の3地域でつくられ、「羽越しな布」として国の伝統的工芸品に指定されています。帯、日傘、どちらも関川の科布が使われています。
日本にこれほどの自然布が残っているのは、着物という一反の反物を8つに平面裁断した決まった形の中で生かされたからである…と考察しておりますので、着る、まとうという形で次世代に継承してほしいと願っています。