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銀玉鉄砲は危険! キューブは無駄! スライムは面倒! …親の天敵だった駄菓子屋の“廉価版おもちゃ”の今

集英社オンライン / 2023年1月22日 13時1分

私の実家は駄菓子だったが、そこには幾つか、本来は高価でお小遣いでは買えない商品の、偽物ともいうべきモノも売られていた。それらはよく見ると本物のようで本物でなく、いかにも駄菓子屋的なチープさが漂う廉価版のおもちゃだった。私を含めた多くの子どもが、憧れの本物の前に体験したであろう、そんなおもちゃたちを紹介する。

寛容な時代の象徴だった銀玉鉄砲

刻印によるとタイガーオートマチックという銃らしい

廉価版おもちゃの筆頭といえばこれであろう。

その名の通り、当時は銀色の玉をバネの力で打ち出して遊ぶおもちゃだった。銃を手にしたヒーローに憧れながらも、モデルガンさえ手に入れられない子ども達が、一度は楽しんだであろうおもちゃだ。



子どもの手に馴染むよう、小さなサイズにアレンジされているが、造形はなかなかのものだと思う。現在は、打ち出す玉が銀玉ではなくなっている。

ほかにも、緑や赤があった

今回購入したお店では、写真のBB弾と一緒に売られていた。BB弾は大人のホビーモデルガン用というイメージがある。昔の銀玉は割れやすかったため、品質の安定したBB弾に置き換えられたのかもしれない。

20発程度は装填可能

本体上部後方のフタをスライドさせて玉を装填するのは今も同じ。

あの頃、ここにザラザラと無造作に銀玉を流し入れ、無駄にこぼすことがあった。こぼれた銀玉が踏んづけられ、割れて潰れ、そこに独特のマーキングが形成されたっけ。

今の私は小型の犬を飼っているため、玉を飲み込ませないように慎重に詰め、手製の的を打ってみた。

紙を撃ち抜く威力はないが、肌に当たると痛い

当時、私達はこんな真面目な遊び方はしなかった。友達同士で銃口を向け合い、遠慮なく打った。建物や木の影に隠れながらの打ち合いは、漫画やアニメのようで、ものすごく楽しかった。

今なら問題になるような遊びなので、親には内緒だったが、大きな事故があったという話は聞いたことがない。銀玉鉄砲が禁止されずに売られ、遊び続けられていたことは、寛容な時代の象徴なのかもしれない。

分解して二度と遊べなくなった6面キューブ

建築学者が考案したという立体パズル

競技にもなっていて、説明する必要もない、有名なおもちゃの廉価版である。
この廉価版キューブには、鮮明な思い出がある。

初めてテレビでこれを見たとき、パズルとしての斬新さより、両手でカシャカシャ回転させ、次々に色が移動していく様が不思議でたまらず、めちゃくちゃ興奮した。
自分もやってみたくて仕方なかったが、本物はすごく高かったし「あんたは絶対飽きるから」と親も買ってはくれなかった。

それがある日、家の店先にあった。売り物ではなく、クジの景品だったと思う。

当然、欲しくてたまらず、小遣い全部をクジにつぎ込もうとさえ思った。それをいち早く察した親は、無駄にクジを引かせるよりも与えてしまったほうがいいと判断し、丸一日のお手伝いの報酬として、私はそれを手に入れることができた。駄菓子屋の子どもにはこういう特権もあった。

開封前から傷がついていたり、シールがずれていたりする

それとほぼ一緒のものが、やはり今の駄菓子屋にも売られていた。

銀玉鉄砲同様、本物より一回りサイズが小さいが、パズルとしての機能は満たしている。
ただ、動きが非常にぎこちなく、すぐに回転はしない。競技に使ったら破損してしまいそうだ。

どんな状態でも数秒で戻せる人間がいるのが信じられない

そして、数度回したら元に戻せなくなった。パズルが苦手なうえ、50代が目前という脳の老化のせいだろうか。

しかし子ども時代も同様に、すぐに元に戻せなくなり、安っぽいシールを張り替えて、見た目だけ元に戻した記憶がある。やがて構造が知りたくなって分解し、いつの間にかキューブはなくなってしまった。親の予想は正しかった。

この四角い箱を手のひらに乗せると、そんな思い出がありありと蘇る。

毒々しくて得体の知れなかった粘体おもちゃ・スライム

銀塩カメラのフィルムケースを思い出すパッケージ

有名なテレビゲームのキャラクターがその名を冠するまで、スライムといえばこれのことだった。

これまたテレビCMで、オリジナルを見たのが先だった。大きなバケツに入っていて、どうやって遊ぶのだろうという疑問が吹き飛ぶほど、インパクトある形状や質感だった。

当時、駄菓子屋で入手できた廉価版はそれよりずっと小さいサイズだった。

入れ物から出すと、蛍光色の粘体がべっとり広がり、何がなんだかわからないうちに周囲や服にくっついた。そして親に叱られ、掃除した。

やがて塵を集めてドス黒くなったスライムは、分解されたキューブと同じく、何処かへ消えた。多分親が捨てたのだと思う。

容器に詰めるとまたくっつく

あのときの感触をもう一度味わおうと、近所の駄菓子屋で買った現在の廉価版スライムの蓋を開けて中身を出すと、すぐに違和感があった。

ドロッと流れ出るのではなく、ボタっとかたまりのままこぼれ落ちたのだ。昔のものが“トロロ”ならこれは“ゼリー”のような感触。両手で引っ張ったら、伸びることなく千切れた。

「製造物責任賠償保険付き」とある一方、生産者表記がない

容器を見ると、主要材料はグアーガムとセルロース。これらは、食品成分表で見かける食物繊維だ。万一こどもが口に入れた場合の、リスクヘッジかもしれない。

衣類にベトついたりすることもなく、いろんな点で無害。お母さんもニッコリ。

が、毒々しくて得体の知れないイメージのスライムが、いつの間にか、安心安全でキレのいい存在に変わっていた現実に私は戸惑い、どう遊んでいいかがますます謎となった。

なお、今回紹介した廉価版おもちゃは、東京都台東区蔵前の卸売店で購入したものだが、同様のおもちゃは百円ショップなどで百円程度で入手できる。

廉価版おもちゃは親から嫌われていたヤンチャ友達

廉価版おもちゃはどれも、親が私に与えるのをためらった。

銀玉鉄砲は危険。
キューブは無駄。
スライムは面倒。

親の歳になった今考えると、無理もないと思う。

まるでこれらのおもちゃは、「あの子と遊んじゃいけません」と言われた近所のヤンチャ友達のようだ。親に叱られるリスクを伴うヤンチャ友達との遊びは、しかし、憧れと新しい体験に満ちていた。

今は、少しの危険すら冒すことが禁じられ、色んな意味で難しい風潮がある。
だからこそ、あの頃のヤンチャ友達との思い出は、より懐かしい。

文・イラスト・撮影/柴山ヒデアキ

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