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声優・緑川光が語る、セリフ一文字にも感想をくれるファンが気づかせてくれた“自分の魅力”――「『おはよう』の『よ』が良かった! って凄くないですか!?」

ニコニコニュース / 2023年4月20日 12時0分

 「授業で「いつまでも王子様やってろ」と言われたのは、忘れられないですね。」

 人気声優たちが辿ってきたターニング・ポイントを掘り下げる連載企画、人生における「3つの分岐点」

 第1回の大塚明夫さんを皮切りに、「今の自分を形成するうえで大きな影響を及ぼした人物や出来事」「声優人生を変えてくれた作品やキャラクター」など、これまで数多くの人気声優たちの人生における分岐点に迫ってきた本シリーズも第16回を迎える。

 今回お話をお聞きするのは、声優・緑川光さんだ。

 往年のアニメファンなら、『新機動戦記ガンダムW』の主人公・ヒイロ・ユイや、TVアニメ版『SLAM DANK』の流川楓で知った人も多いのではないだろうか?
 現在もその人気は翳ることなく、『名探偵コナン 警察学校編 Wild Police Story』諸伏景光や、ゲーム『あんさんぶるスターズ!!』の天祥院 英智として出演するなど、今も第一線で活躍し続けている人気声優だ。

声優・緑川光が語る、セリフ一文字にも感想をくれるファンが気づかせてくれた“自分の魅力”――「『おはよう』の『よ』が良かった! って凄くないですか!?」
緑川光さん

 緑川さんが演じる役と言えば、二枚目でクールなヒーローそんなイメージを抱く人は多いのではないだろうか。
 しかし、声優として歩み始めた当初は、長らく「かっこいい」雰囲気しか出せない自身の声と地元栃木県の“訛り”に悩んでいたという。
 冒頭で紹介した言葉は、後に本記事で明かされる養成所時代に緑川さんが受けたものだ。
 
 挫折を経験した緑川さんは、事務所へ休暇を願い出るまで追い詰められる。しかし、そんな状況を一通のファンレターが変えてしまったという。

 本記事では、緑川さんが人生の3つの分岐点で、いかにして己の“声”と向き合い、「王子様」を捨てて、自身の演技を妥協することなく成長させるプロの声優になったのか、その全てが赤裸々に語られている。
 ぜひ、最後まで読んでもらえると幸いだ。

取材・文/前田久(前Q)
取材/竹中プレジデント
編集/田畑光一(トロピカル田畑)
撮影/金澤正平


■分岐点1:『機動戦士ガンダム』との出会い――「ロボットものの主役をやりたい」

――緑川さんの人生を振り返って、最初の分岐点はどこになりますか?

緑川:
 パッと浮かんだのは「『機動戦士ガンダム』に出会ったこと」な気がしますね。
 最初に観たのは、本放送じゃないんです。本放送のときは多分、別の番組を観ていました。
 子供のころって「何月何日の何時から、『〇〇』が始まるから観るぞ!」みたいなことって、ないじゃないですか。
 偶然、何かのきっかけで出会って観ていくと思うんです。
 僕に『ガンダム』のよさを教えてくれたのは学校の友達でした。

――どのあたりが心に響いたのでしょう?

緑川:
 僕が子供の頃はロボットアニメ全盛期だったんです。
 男の子はみんな、ロボットアニメを観て育っているといっても過言じゃない(笑)。
 で、『ガンダム』以前のロボットものの定番の形式は、1話完結の物語で、毎話敵の新しいロボットが出てきて、戦って、倒して、終わり……みたいな感じだったんですけど、『ガンダム』は1話で同じ敵メカが3体出てくる。ありえない! みたいな。

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――ザクが3体出てくるのが、まず衝撃だった。

緑川:
 そうですね。でも、車なんかを思えば、メカを量産するって普通の考え方だよな、よりリアリティがある方向にロボットアニメが進むんだ……みたいなことを、すぐに考えるようになりました。
 ちょうど男の子的に、そういうリアリティのある発想に目覚めていく過程を、『ガンダム』を通じて味わえたのかなって、今からすると思います。
 主人公の乗っているロボなのに敵にボロボロにされたり、そもそも主役が熱血キャラじゃなくて、爪を噛んじゃうようなやつだとか。
 そうしたいろいろな点が、どれもとにかく新鮮に感じられて、「すげえな、『ガンダム』!」って、感動していました。
 『ガンダム』を観てからはもう、ゲームをやっているときも、敵の弾を避けまくれると、「今の俺、ニュータイプみたい!」なんて思ってましたよ(笑)。

――額に光がピーンと走るような(笑)。

緑川:
 そうそう(笑)。で、それくらい影響を受けた作品だったので、いろいろ調べたんです。
 当時、本屋さんに売っていたアニメ誌に「『機動戦士ガンダム』振り返り特集」みたいなのがあったので、そういうのを読んでみたりして。
 そこで主人公のアムロを演じていた古谷徹さんだとか、ほかの声優さんたちが取材を受けている記事を読んで、声優という仕事の存在を知ったんです。
 「青二プロダクション」なんて単語も覚えましたけど、でも当時は「これは『あおに』なのか『せいじ』なのかわからないな」と思っていたくらいでした。

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――漠然と声優と、声優業界を意識するきっかけだったわけですね。それですぐ、声優になろうと考えるようになったんですか?

緑川:
 それはもう少しあとです。
 そんな流れでアニメ誌を買うようになったら、あるとき、青二塾(※青二プロダクションの声優養成所)が特集されていて、そこに行けばアニメに声をあてる仕事ができるのかな……と、子供なりの短絡的な考え方ですが、意識するようになりました。
 ただ、そこまで強く、なりたいと考えたわけではなかったですね。

――アニメ誌で紹介されていた他のアニメに関する職種には、ご興味はもたれなかったのでしょうか。アニメーターだとか、監督だとか。

緑川:
 小学校のときからなんとなく、授業で当てられて教科書を朗読したら、「上手いね」とまわりから言われたし、高校で演劇部に入ったら、公演のあとにファンができたりしたんです(笑)。

――それはすごい。

緑川:
 自分ではどうしてなのか、理由はよくわかっていなかったですけどね。
 ともあれ、そうした人から褒められたり、求められたりした経験を通じて、なんとなく、演じたい気持ちが強くなっていったんです。
 『ガンダム』にものすごく感銘を受けて、「ロボットものの主役をやりたいなあ」と考えるようになって、その気持ちが根底にあったところに、そういう流れが来ていて、自然と声優になろうと思った。

■分岐点2:“訛り”と声質に悩まされた自分を救った一通のファンレター

――そのあと、2つめの分岐点はどこでしょうか?

緑川:
 ホントにいろいろな節目があるので、選ぶのは難しいんですけど……あのファンレターかなぁ、やっぱり。

――ファンレター? 気になります。

緑川:
 高校を卒業したら声優の道に進もうと考えて、青二塾のオーディションを受けたら、幸いにも合格できました。
 でもそこから、授業にはちゃんと出つつも、割と遊んでしまっていたんです。
 同じ趣味の、高校を出てすぐの子が多かったこともあって、仲良く、楽しく過ごしていた。
 久川綾さん【※】が同期なんですけど、授業中にふざけていて、彼女に怒られたこともあります(笑)。僕はそのころ志が低くて、彼女は最初から志が高かったから。
 もちろん、真面目にやっていたところもあります。

※久川綾
青二プロダクション所属。声優。主な出演作に『美少女戦士セーラームーン』水野亜美役、『カードキャプターさくら』ケルベロス役など。

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  たとえば、塾長からのこんな教えは守っていました。「君たちはこれから声優になるのだから、アニメファンとしての考えは捨てなさい。これからアニメは観るんじゃない」と。
 アニメの内容がどうこうというより、自分たちがこれからファンを作っていかなきゃいけない立場になるのだから、ファンのような姿勢でいるのはよくない、と。

――プロとして一線を引くべきであるということですね。

緑川:
 授業で「いつまでも王子様やってろ」と言われたのも、忘れられないですね。
 自分ではそんなつもりはなかったんですけど、自分の声がコントロールできていなかったというか。何をやってもカッコいい雰囲気になってしまっていた。
 僕の声質だと、癖のある芝居をしようと思ったら、普通の人が「3」の声の変化でできるだろう表現をするために「10」の変化をつけるくらいの意識がいる。
 それをやるには深く役を掘り下げて、思い切る必要があるんです。でも演技力が足りないと感じていたから、そこまで思い切れない。
 当時は演技の幅の狭い自分の声が本当に嫌でしたね。

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――のちに大活躍される方でも、若い頃はやはり、いろいろあるものですね。

緑川:
 さらに、訛りにも悩まされたんです。
 栃木県出身なこともあってか、当時の僕には、自分ではわからないような訛りが結構あって、そのせいで急に渡された原稿をすぐに読めない。
 アクセントを調べて準備をするのに、他の人よりも時間がかかってしまう。
 先生に「緑川くんは時間があればいいものをやってくるんだけどね」とよく言われました。

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 そしてあるとき、ナレーションの仕事で10ページ近くの原稿をいきなり渡されたんです。
 数言のセリフを読むときですらアクセントに苦手意識があったのに、そんな分量じゃない。
 その場で一生懸命チェックしたものの、1ページ分の確認が終わったかどうかくらいで、「もう行けますか」と呼ばれてしまって。粘ってはみたものの、2、3ページ行ったくらいで痺れを切らされて、行き当たりばったりで収録が始まった。
 案の定、途中で詰まりました。そこから立て直せなくて、あまりにもひどいものだから、最終的に帰されて、他の人を呼ばれてしまったんですよ。
 それはもう、ショックでした。

――それは、たしかにショックですよね……。

緑川:
 それで、声優の道を諦めたくない気持ちもあるけれど、このまま続けていってもどこかで仕事がなくなってしまうのでは? 
 少し休みを貰えないだろうか……と考える、弱気な自分が顔を出して、実際に事務所にそんな相談をしに行くところまで追い詰められたんです。
 でもその日、話をしようと思っていた専務が、たまたまいらっしゃらなかったんです。さすがにこれだけ大事なことは直接お話ししなければならないと思ったので、その日は帰ることにしたんですけど、そこにファンレターが届いていたんですよね。

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 当時カセットテープのボイスドラマとかにちょこちょこ出させてもらっていたんですけど、まだまだ全然端役なのに、そんな自分を応援してくれるファンの方がいた。
 で、持ち帰って読んでみたら、すごくいろいろな作品を聴き込んでくれた感想と合わせて、「これからもがんばってください」と書かれていたんです。
 それを見たとき、「こんなにも応援してくれている人がいるのに、少し弱気になったからって休みをもらってしまうのは、逃げなのかな? これまでも努力をしてこなかったわけじゃないけど、もっと必死にやれないのかな?」と、考えが変わったんですよ。

――ファンの存在を重く受け止められたんですね。そこから具体的には、どんな努力を?

緑川:
 現場でアクセントがわからない単語があったら、とにかく書き出す。
 学生が英単語を覚えるように、わからない言葉をまとめて、丸暗記していきました。
 アクセント辞典には始まりがあって終わりがあるのだから、ずっとこうやっていけば、いつかわからない単語もなくなるんじゃないか!? と。
 そうやっていくうちに、実際になんとなく、アクセントの法則性がわかってきたんです。
 一度わかってくると、一気に見えてくるものなんですよね。そこまで努力しきれたのは、大きかった。
 それを思うと、努力の大元になったファンレターを受け取ったことは、大きなターニングポイントかもしれない。


■分岐点3:「安定する発声」に切り替える決断をしたこと

――では最後の、3つめの分岐点は?

緑川:
 そうですねえ……よく取材で話すことですが、『勇者特急マイトガイン』で、雷張ジョーというクールな美形キャラを初めて演じて、そこでディレクターの千葉耕一さんの公認で、それまでやったことがないようなボソボソとした芝居を試したんです。

画像は『勇者特急マイトガイン』公式ホームページより。

 今だとマイクにポップガードがあるので、近づいて芝居をするのは普通ですけど、当時は違って、マイクに近づくと吹いた音が乗ってしまうのでよくないと言われていました。そこを千葉さんは、マイクに近づいて、あえて外すようにしてやってみてほしい、と。
 そうやってジョーを演じながら修行したものが、のちの流川楓やヒイロ・ユイでの芝居に繋がっていった。
 そこは大きな分岐なんですよね。そもそも自分はカッコいい美形の役をやれると思っていなかったんです。

――そうなんですか?

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緑川:
 声質から考えると、元気な少年役しかやれないと感じていたんですよ。
 そうしたら『新世紀GPXサイバーフォーミュラ』でいきなりすごいイケメンの、新条直輝役に選ばれて、「どうしよう!?」って思った。
 その前に美形を演じたのはちょっとした端役だけでしたし、そもそも『サイバー』が初めての番組レギュラーだし。
 しかももらったキャラクターデザインには、いのまたむつみ先生【※】のサインが描いてあるんだけど!? と(笑)。

※いのまたむつみ
ゲーム『テイルズ オブ』シリーズなど、数々の人気作でキャラクターデザイン・イラストを担当してきた、人気イラストレーター。キャリアの始まりはアニメーターで、『プラレス3四郎』『幻夢戦記レダ』などのキャラクターデザイン・作画や、アニメ誌での描き下ろしピンナップを通じ、その華やかな絵柄の魅力で80年代・90年代のアニメファンから絶大な支持を集めた。他の代表的な仕事に『宇宙皇子』『風の大陸』『ブレンパワード』など。

――アニメ雑誌を読んでいた立場からすると、とてつもないスター・アニメーターの名前が(笑)。新条は当時も人気がありましたし、ハマり役だと考えられていたように思いますが、緑川さんとしてはまだそこでは、自分の美形役に手応えがなかったんですか?

緑川:
 思っていなかったんですね。新条くんがレースで苦戦して荒れる回があって、そこで覚悟を決めはしたんですけど。その回はセリフも多かったし。
 これは余談になりますが、チェッカー杉本役をやられていた事務所の先輩の塩屋浩三さんが、そのアフレコの前日に、いつもだったら飲んでいるはずの大好きなお酒を止めてくださっていたと、あとから人づてに聞きました。
 「うちの若い緑川ががんばるから、俺もがんばらなきゃな」と。
 ありがたいな、期待してくれているのかなって、うれしかったですね。

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――素敵ですね。

緑川:
 でも、そうだなあ……そうした大きい分岐がいくつかあって、どれも大事なんですが、今の自分に繋がるような、さらにその先にあった分岐点と考えると……「芝居が変わったとき」になるかな。

――「芝居が変わったとき」ですか?

緑川:
 常に自分の芝居をより良くしたくて、いろいろと研究しているんですけど、よく「喉でやる芝居はよくない」というじゃないですか。

――口先でコントロールするな、腹でやれ、みたいな話はときおり耳にします。

緑川:
 とはいえ、完全に喉声じゃないですけど、声優には喉で芝居をやるときもあるんですよ。そこってあんまりコントロールできないんです。
 お腹でやってるほうがコントロールできるんですけど、感情が乗ってくると、自然と喉声になるときがある。

声優・緑川光が語る、セリフ一文字にも感想をくれるファンが気づかせてくれた“自分の魅力”――「『おはよう』の『よ』が良かった! って凄くないですか!?」

 自分の中で、それがなんか安定しないな、いまいち決めたいときに決められるときと、決められないときがあるなあ……とぼんやり考えていた時期が、声優としての仕事が長くなってきたころにあったんです。
 それがあるとき、「こういう発声にしたら、安定するかもしれないな」と、ふと気がついたタイミングがあったんです。
 仕事の現場とかではなくて、自宅の風呂場とかですけど(笑)。

――それくらい、日常的に考えておられた。それで変えようと?

緑川:
 そのやりかたにシフトすると、前のお芝居ができなくなる気がして、いきなり切り替えるのは躊躇しました。
 でも、喉に頼った芝居を続けていると、喉によくないことはわかっているのだし、今の俺はそっちに行くべきかな……と。
 そう判断して、一生懸命練習して発声を変えたものの、結果、当時演じていたキャラクターの声のトーンが低くなっている気は、やはりしました。
 ただ、前の発声だとあまりコントロールできなかったお芝居が、新しい発声だと細かくコントロールできる。
 トーンの違いはあっても、芝居のさじ加減はものすごく細かくなったんです。
 安定して、狙った芝居ができるようになった。だから結果的に、そこで切り替えたのは良かったのかなと思います。

――出来事というより、自分の中での大きな気付きが分岐点。おもしろいです。

緑川:
 声優さんって、いろんなタイプの方がいらっしゃるんです。
 中には「絶対にこのセリフはこの演技です!」って譲らない人もいる。それも間違いではないと思います。お芝居のやり方に正解はないので。
 でも僕は、人が求めているものを、いかに求められているものに近い形で出すことができるかが大事だと思っているんです。
 それだけの声のコントロールができるのが「声優」だと思っている。そのための技術を手に入れられたのは、よかったなと。

声優・緑川光が語る、セリフ一文字にも感想をくれるファンが気づかせてくれた“自分の魅力”――「『おはよう』の『よ』が良かった! って凄くないですか!?」

 人って年齢と共に、当時と同じ気持ちで同じセリフを言ったとしても、絶対にトーンが変わるんです。
 この仕事を長く続けていると、いかにそれを昔と同じところまで戻せるのかが重要になってくる場面も多いです。
 それはディレクターさんに言われないとわからない部分もあったりするわけですよ。
 自分としては気持ち良くやれているけど、もうちょっとピッチが……というところがある。
 言っていただければ、それは調整できる。そうした共同作業も、声の芝居には必要かなと思うんですよね。

――分岐点を経てからも、声の調整は現在進行形で、その姿勢はずっと変わらない。

緑川:
 そうですね。やっぱりファンの意見だったり、いろんなところから情報をゲットしてきて、「今、どういう状況に自分の声はあるのかな?」みたいなことを考え続けたい。
 難しいんですよね。昔と声が違っていても、いい芝居をしたら結果オッケー、って部分もあるじゃないですか。
 でも、当時と声質が近いほうがうれしい部分もあって、でも、トーンを調整している時点で、その演技は純粋じゃないんです。
 気持ちは純粋でも、声は調整されたものになっていて、自分の中から自然と気持ちに合わせて出てくるものじゃない。

声優・緑川光が語る、セリフ一文字にも感想をくれるファンが気づかせてくれた“自分の魅力”――「『おはよう』の『よ』が良かった! って凄くないですか!?」

 でも、聞いてくれる人が、その調整した声をいいと思ってくれるなら、そこで演者の気持ちを優先するのはエゴであって、間違っている気もする。
 そういう一つひとつの場面で、求められるものに細かく対応していける声優でありたいな……という気持ちはありますね。
 「声優」というよりも、「声の職人」でありたいなと。
 自己満足じゃなく、ファンの方はもちろん、原作者さんだったり、監督だったりが望んでいるものをなるべく出したいと思っているんです。

――となると、声優としてのお仕事に、緑川さんご自身の「エゴ」はない?

緑川:
 自分が「喜ばせたい」と狙っているポイントに、ファンの方が上手くハマってくれたときに、「……ヨシ!」と思います。
 だから普通のセリフを言うときも、さりげなく自分ならではの何か、緑川節のようなものを芝居のエッセンスとして入れているところはあるでしょうね。具体的にどこがどうというのではなく、そこかしこに、自分でも気づかないくらいの感覚で。
 もちろん、必要以上にはやらないですけど。それがあえていうなら、「エゴ」の部分じゃないかと。

声優・緑川光が語る、セリフ一文字にも感想をくれるファンが気づかせてくれた“自分の魅力”――「『おはよう』の『よ』が良かった! って凄くないですか!?」

 もともと自分の魅力に気付かせてくれたのはファンの方なので。
 さっきお話ししたファンレター以外にも、たとえば「『おはよう』ってセリフの、『よ』がすごくよかったです!」 みたいな感想をいただくことがあるんです。
 凄くないですか!? ひとつのセリフとか、単語レベルならまだしも、「よ」ですよ?

――精密な聴き方ですね。

緑川:
 そこまで反応してくれるの!? って、本当に驚きました。
 だったらそういう、喜んでもらえるところを理解した上で、意図的に、それでいてさりげなく出していきたい。
 そうやって使いこなせたら、役者としての強みにもなるのかなと考えています。

■「オートプレイの周回を待ちながら、台本のチェックを」緑川さんのゲーム事情

――そうしたターニングポイントを踏まえて、2023年の緑川さんが、現在注力していることはなんでしょう?

緑川:
 「健康」ですね。健康であれば、他の何か問題があっても、なんとかカバーできそうなので。
 あと、健康じゃないと、やっぱり声を上手くコントロールできないんですよ。
 普通だったらここまでの音域が出せるのに、出ないときのストレスって、大きいんです。
 それによって計算が全部狂っちゃうから、芝居が不自然になるんですね。
 風邪を引いたら、芝居に限らずとにかく自分の声が聞きたくなくなるというか、日常生活ですらしゃべりたくなくなりますもん。

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――健康のために特別に気を使われていることはありますか? 何か運動をされるとか。

緑川:
 そんなに積極的に運動はしてないです。
 そうですね……毎日鼻うがいはしていますね。
 去年、新型コロナにかかったんですけど、実は治ったあとも後遺症で少し苦労していたんです。
 そんなときに助けてもらった病院で、鼻うがいを勧められて、それからずっとやっています。

――地道な健康管理ですね。しかし鼻うがいって痛くないですか?

緑川:
 やり方次第だと思いますよ。
 たしかに僕も上手くできなかった時期があったんですけど、薬局である商品を教えてもらって、それを使うようになってから快適にやれていますね。

――緑川さんといえばかなりのゲーマーのイメージもあって、ゲームと健康管理の両立はどうされていますか? 実は自分は、ハマると16時間くらいぶっつづけでゲームをやってしまうようなタイプなのですが……。

緑川:
 ぶっ続けは体調悪くなりそうですね(笑)。
 年齢とともに、そうじゃない方向のプレイスタイルにシフトしていったほうがいいかもしれない。
 あと、ゲーム中はずっと同じ姿勢ですか?

――基本的には。

緑川:
 それは絶対によくない。僕は整体にも通っているんですけど、注意されるポイントですね。
 ずっとゲーム画面を観ているのもそうだし、とにかく同じことを続けるのは負担が大きい。
 ゲームが好きで、どうしてもやめられないなら、変えられる部分を変えたほうがいいです。
 そういうものの魅力も当然わかってるんですけど、年齢とともに、体に害をかなり及ぼす危険性があると思うので。
 先輩としてアドバイスしておきます(笑)。

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――ありがとうございます! ……って、すみません。取材なのに、こちらの悩みを聞いていただいて。ちなみに、最近の緑川さんのゲーム事情は?

緑川:
 仕事で関わらせていただいたものを中心に、関係ないものも完全に趣味としてやっています(笑)。
 タブレットの二画面にできる機能が便利なんですよね。ふたつのゲームが同時に進められる。
 オートプレイの周回やスタミナの回復を待ちながら、同時にスマホで仕事の台本のチェックをしています。
 やる場所は基本、外ですかね。自宅にもゲームはあるんですけど、モニタ の前にいられる時間があまりないし、部屋に籠もってばっかりいると嫁に怒られるし(笑)。
 昔は一緒に『ラグナロクオンライン』をやったりしていたんですけど、嫁はそこまでゲーム好きでもないので、今はそういうこともなく。

――ご自身が出演されたゲームをプレイされるのは、キャラクターの理解をより深めようとか……。

緑川:
 いや、ただオタクだからですね(きっぱり)。
 自分が演じたキャラクターとともにゲームをやることもありますし、そうじゃない形でパーティーやデッキを組むこともあるんですが、やっぱりもともと好きだったゲームの世界観に自分の声が付いたキャラクターが実装されたときの「来た!」って感覚は、うれしいものです。
 誰もが味わうことができるものではないですし、たまらないものがあります。

――ぜひそのうち、ゲームをテーマにあらためて取材させていただきたいです(笑)。

緑川:
 仕事関係のチェックは、絶対ゲームをやりながらしますからね。
 僕の場合、逆にやってないとはかどらないんです。
 ものすごい量のチェックするものがあるから、それだけに集中してやろうとすると、かえって飽きたり、疲れたりしまう。
 でも逆にゲームばかりやっていると、こっちはこっちで罪悪感がわくんです。
 両方を同時に進めることで、良い感じの心地よい緊張感が保てるんですね。

――はてなブログを拝見すると、ご自分の関われた作品のコラボイベントにもマメに足を運ばれている。プライベートと仕事のあいだで、素晴らしいサイクルを構築されている印象です。

緑川:
 コラボの場所に行くのも、楽しいからというのももちろんですけど、常にどういう世の中か知っておきたいな、という意識もあるんです。
 ネットを調べたりするのもそうですね。知っておくことでファンの求めているものもわかるし、後輩のやっていることを見て、「いいものを持っているな」と思ったら、そのやり方を盗もうと思う。
 もちろん、先輩からだって刺激を受けます。そうやって常日頃からリサーチをかかさないことで、あまり古い人間になりたくないかなと。

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 年齢を重ねる中で、ナレーションだとか、他のジャンルの仕事にシフトして、アニメに出なくなる声優さんもいます。
 でも僕は、幸いにも大好きなアニメにずっと携わることができている。
 それどころか、若い声優さんたちに混じって、未だに高校生の役を演じたりもしているんですよね(笑)。

――声優という仕事の醍醐味のひとつですね。

緑川:
 そういうときに、発想や芝居に柔軟性がないと置いて行かれると思うし、そもそも先輩面したいと思わない。
 演技に「正しさ」なんてないですからね。そのときどきのディレクターさんが求めているものを、きちんと表現できればいいと、僕は考えています。
 だから自ずと考え方が変わっていくんでしょう。
 たとえば、「素人っぽい芝居」というものを否定する人がいますけど、それが作品の中で求められる状況はある。
 「こうあるべきだ」という考えを持ち過ぎないほうがいい。
 僕はその点、許容範囲が広いんですよ。なんでも「別にいいんじゃない? 人それぞれだよね」と思えるんです。

――最近の若手で、特に「この人はすごい!」と感じた方はいらっしゃいますか?

緑川:
 若い人はみんなすごい(笑)。皮肉でもなんでもなく、本心でそう思いますね。
 だから「この人」というのはないです。むしろ、そういった意味で意識するのは、今生き残っている同年代の人かな。
 子安武人さん【※1】とか、伊藤美紀さん【※2】とか。そういう人たちの名前を目にするたびに、「あの人もまだがんばっているから、俺もがんばり続けたい」と強く思います。
 あんまり現場で一緒にはならなくなってきているけど、活躍は目にするというか、耳にするというか、バリバリですよね。じゃあ、負けられないな、と。

※1 子安武人
ティーズファクトリー代表取締役。声優。代表作に『ジョジョの奇妙な冒険』ディオ・ブランドー役、『銀魂』高杉晋助役など。

※2 伊藤美紀
大沢事務所所属。声優。代表作に『ひぐらしのなく頃に』鷹野三四役、『Fate/stay night』藤村大河役など。

――これからの未来に向けた、お仕事の上での何か目標はありますか?

緑川:
 ないですね。ただ、時代がどんどん変わって、VRなり、いろいろな新しいものが出てきているじゃないですか。
 そういう最先端のものに声優として関われる機会をいただけるなら、どんどん新しいものにチャレンジしていきたいですね。
 メディア的に面白いものをやっていきたい……っていうのはあります。
 声優の可能性を広げたい。何年か前なら、「そういうことまで声優さんはやらないだろう」と思っていたことまで、どんどん仕事の領域が広がっていったじゃないですか。
 これから先もそういうのがあるだろうから、そのときに声優という職業として、何かお手伝いできることがあれば、積極的にしていきたいなって思っています。

――演じてみたい役柄はどうでしょう? といっても、既にとても幅広い役を演じておられますが……。

緑川:
 そうですね(笑)。普通の仕事でもそうだし、ラジオとかで普段はやってないようななこともやれているので、「こういう役がやりたい!」というのはそんなにないです。
 ただ、自分が思ってもいないような配役をされたら、「どういう意図でこの役になったんだろう!?」とびっくりして、考えて、何かを引き出そうとは考えるでしょうね。

 そういう、その役に出会ったおかげで新しい演技の引き出しができたみたいな、いい出会いがこれからもできたらありがたいなと思います。
 依頼してくださる方が、「こうしたら、緑川の新しい何かを見られるんじゃないか?」と、ご自身の先見の明を示すような気持ちで役に選んでいただけることがこれからもあったら、うれしいですね。

声優・緑川光が語る、セリフ一文字にも感想をくれるファンが気づかせてくれた“自分の魅力”――「『おはよう』の『よ』が良かった! って凄くないですか!?」

 「人生における3つの分岐点」の連載では、これまでに多くの声優にインタビューを実施してきたわけだが、その中で「ファンから背中を押された」というエピソードが登場することは少なくない。
 本記事で緑川さんが紹介したのは、セリフの一文字にも思い入れを持つ熱烈なファンからのメッセージだったが、何気ないファンからの言葉が人生の分岐点になることもありうるだろう。
 そうした多くのファンの存在があるからこそ緑川さんは、人気声優となった今もストイックに声の職人であろうとし続けているのかもしれない、そう思った取材だった。

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声優・緑川光が語る、セリフ一文字にも感想をくれるファンが気づかせてくれた“自分の魅力”――「『おはよう』の『よ』が良かった! って凄くないですか!?」 声優・緑川光が語る、セリフ一文字にも感想をくれるファンが気づかせてくれた“自分の魅力”――「『おはよう』の『よ』が良かった! って凄くないですか!?」 声優・緑川光が語る、セリフ一文字にも感想をくれるファンが気づかせてくれた“自分の魅力”――「『おはよう』の『よ』が良かった! って凄くないですか!?」 声優・緑川光が語る、セリフ一文字にも感想をくれるファンが気づかせてくれた“自分の魅力”――「『おはよう』の『よ』が良かった! って凄くないですか!?」 声優・緑川光が語る、セリフ一文字にも感想をくれるファンが気づかせてくれた“自分の魅力”――「『おはよう』の『よ』が良かった! って凄くないですか!?」 声優・緑川光が語る、セリフ一文字にも感想をくれるファンが気づかせてくれた“自分の魅力”――「『おはよう』の『よ』が良かった! って凄くないですか!?」 声優・緑川光が語る、セリフ一文字にも感想をくれるファンが気づかせてくれた“自分の魅力”――「『おはよう』の『よ』が良かった! って凄くないですか!?」 声優・緑川光が語る、セリフ一文字にも感想をくれるファンが気づかせてくれた“自分の魅力”――「『おはよう』の『よ』が良かった! って凄くないですか!?」 声優・緑川光が語る、セリフ一文字にも感想をくれるファンが気づかせてくれた“自分の魅力”――「『おはよう』の『よ』が良かった! って凄くないですか!?」 声優・緑川光が語る、セリフ一文字にも感想をくれるファンが気づかせてくれた“自分の魅力”――「『おはよう』の『よ』が良かった! って凄くないですか!?」 声優・緑川光が語る、セリフ一文字にも感想をくれるファンが気づかせてくれた“自分の魅力”――「『おはよう』の『よ』が良かった! って凄くないですか!?」 声優・緑川光が語る、セリフ一文字にも感想をくれるファンが気づかせてくれた“自分の魅力”――「『おはよう』の『よ』が良かった! って凄くないですか!?」 声優・緑川光が語る、セリフ一文字にも感想をくれるファンが気づかせてくれた“自分の魅力”――「『おはよう』の『よ』が良かった! って凄くないですか!?」

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