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強敵「シン」と手下たちの功績は絶大? 読者を『北斗の拳』世界に引き込んだ悪役たち

マグミクス / 2023年9月13日 10時50分

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■最初の「強敵」とその手下が担った「役割」

 1983年に連載がスタートしたマンガ『北斗の拳』は、連載開始直後から爆発的な人気を博しました。

 物語の舞台となるのは、核戦争後の暴力だけが正義という荒廃しきった無常の世界です。ここでは罪のない無力な人たちが、容赦なく殺戮されていきます。ここまで強烈な世界観を圧倒的な画力とともに描き出したマンガは、それまで絶無でした。世界観が際立っていたからこそ、北斗神拳の伝承者、ケンシロウの強さと活躍ぶりが読者の胸を熱く焦がしたのでしょう。

『北斗の拳』のロケットスタートに大きな役割を果たしたのが、シン率いるKING軍です。KING軍の傍若無人すぎる暴虐ぶりがケンシロウの爽快な活躍を引き立たせ、南斗六聖拳のひとりで最初の「強敵」であるシンの存在が、『北斗の拳』の奥深い世界観を読者に強く印象づけました。

 KING軍が登場するのは、連載が始まったばかりの第2話です。村に種モミを届けようとする老人ミスミたちを追いかけて、いたぶりながら殺そうとしていたのが、KING軍の幹部のひとり、スペード率いる軍勢でした。偶然出くわしたケンシロウが介入してKING軍を撃退し、そしてミスミが語った「今日より明日なんじゃ」という言葉にケンシロウは深い感銘を受けます。

 そのようなミスミと村人たちを虫けらのように容赦なく踏み潰そうとするのが、スペードとKING軍でした。彼らは高笑いをしながら村人たちを虐殺していき、種モミを守ろうとするミスミをケンシロウの目の前で惨殺します。怒りが頂点に達したケンシロウは、名セリフ「てめえらに今日を生きる資格はねぇ!!」と叫びました。第1話でジードたちを相手にしていたときは余裕を見せていたケンシロウの、初めての強い感情を引き出したのが、スペードだったのです。

■物語世界をわかりやすく体現していたKING軍の幹部たち

『北斗の拳』のなかでも、ファンのあいだで「様」をつけて呼ばれるキャラは限られている。そのひとりである「ハート様」

 モヒカンがトレードマークのスペードは屈強な肉体を誇っていましたが、ケンシロウに「ハゲ」呼ばわりされながら「北斗残悔拳」であっさり葬り去られました。バットにも「こんなスペード野郎」呼ばわりされるほどの小物でしたが、考えにも言葉にも一切、深みのない男がこれだけ威張り散らすことができる核戦争後の世界に戦慄させられたものです。この後、ケンシロウに一蹴される「くまどりやろう」ことダイヤ、「弱いカマキリ」ことクラブも、スペードと同類でした。

 巨漢のハートは、他のKING軍の幹部たちとは一味違いました。表向きこそ柔和ですが、自分の血を見ると正気を失って瞬時に殺人鬼になるという困った性分の持ち主で、「いてえよ~!!」とシンプルきわまりない言葉を吐きながら、自分の部下たちまでも皆殺しにしてしまいます。まさに「狂乱の殺人者」です。

 外部からの衝撃をすべて柔らかく包み込んでしまう特異体質の持ち主で、ついた異名が「拳法殺し」、ケンシロウが思わず「ブタ」と呼んでしまう極度に肥満した肉体は、あらゆる拳による衝撃を無効化してしまいます。登場以来、連戦戦勝だったケンシロウが初めて(一瞬だけ)苦戦しましたが、拳を連打する「北斗柔斬斬」で爆散させられました。北斗神拳の無敵ぶりをあらためて印象づけた相手がハートだったと言えるでしょう。「ひでぶっ!!」という『北斗の拳』を代表するオノマトペを初めて生み出した男であることも記憶にとどめておきたいものです。

■シン――ザコとは格が違いすぎる最初の「強敵(とも)」

シンの衝撃的な登場シーン

 KING軍の頂点に君臨する男、KINGことシンは、ただ暴れて弱いものをなぶり殺すだけの部下たちとはまったく異なる人物でした。

 まず、ルックスがいい。シンは『北斗の拳』始まって以来の美形悪役です。最初に登場したときの美女をはべらせた全裸のカットは衝撃的でした。次に、出自がいい。南斗六聖拳のひとりであるシンによって、『北斗の拳』の壮大な物語の縦軸となる、南斗聖拳と北斗神拳の対立概念がもたらされました。

 当然、実力もあります。シンはケンシロウの胸に7つの傷をつけた男です。拳法の実力だけでなく、愛した女のために都市をひとつ作ってしまうほどの豪腕の持ち主でした。さらに、シンには強い信念がありました。それは強い男には「欲望」と「執念」が必要だというものです。かつて気持ちが脆弱だったケンシロウは、シンの強い執念に敗北しました。

 そして、最大のポイントが「愛」です。ケンシロウとの因縁も、もとはといえばケンシロウの婚約者、ユリアへの歪んだ純愛が原因でした。ケンシロウを倒した後は、ユリアの気持ちを自分に向けようと涙ぐましい努力(ただし見当違い)をしていたのです。

「執念」を学んで変貌したケンシロウとの激闘を繰り広げた末、シンは「北斗十字斬」で敗北します。最後は「おれがほしかったものはたったひとつ ユリアだ!!」と叫び、ユリアのあとを追うように城から飛び降りて絶命しました。ケンシロウはシンの墓を作って埋葬してやります。疑問を抱いたバットには「同じ女を愛した男だから」と答えました。

ケンシロウVSシン、決着

 後にシンは、実は過去においてケンシロウとは良き友人だったものの、ジャギにそそのかされてケンシロウを襲ったこと、ユリアが生きていたと知っていたにもかかわらず、ラオウからユリアを守るためにユリア殺しの汚名を被っていたことなどが明かされます。これほどまでにイメージが移り変わっていった登場人物も他にありません。

 ケンシロウにとって最初の「強敵(とも)」だったシンは、信念を持ち、自分の物語を生き、愛に殉じた男でした。『北斗の拳』がただの血なまぐさいバトルマンガではなく、壮大な大河ロマンだと予感させるのに十分な登場人物だったのです。

※記事の一部を修正しました。(2023年9月19日 11:00)

(C)武論尊・原哲夫/コアミックス 1983

(大山くまお)

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