大人の雰囲気をまとった田中麗奈

 NHK連続テレビ小説「ブギウギ」の物語が佳境に入るなか、2月12日放送回で初登場となった女優の田中麗奈(43)が注目された。有楽町周辺を取り仕切る夜の女性「ラクチョウのおミネ」を演じ、スズ子の楽屋に乗り込んで「しらばっくれるんじゃないよ!」「バカにしやがって!」など、怒号を飛ばす迫真の演技を披露した。田中の登場にSNSでは「鬼気迫る演技で終盤の数秒だけでも見入ってしまった」など絶賛の声が相次ぎ、Xでは彼女の名前がトレンド入りするほどだった。

 田中の名前を聞くと、思わず「なっちゃん」と脳内で自動変換してしまう人も多いだろう。18歳で清涼飲料水「なっちゃん」のCMヒロインに抜擢されると、その知名度は一躍全国区に。その勢いのまま初主演した映画「がんばっていきまっしょい」(1998年)では、ボート競技に青春をかけた女子高生を好演。そのフレッシュな演技は数々の新人賞に輝き、作品も異例のロングランヒットを記録した。

健康美がまぶしい田中麗奈(2011年)

 その後も多くの人気ドラマや映画に出演し、第一線で活躍していたが2016年に5歳年上の医師と結婚し、19年には第一子を出産。以降は露出が減り、マイペースで女優業を続けているが、近年は特に“脱清純派”の役柄にも果敢に挑戦している。

「2017年に主演した“オトナの土ドラ”枠の『真昼の悪魔』では、『人の苦しむ表情を見るとワクワクする』というサイコパスの外科女医・大河内葉子役に抜擢。無表情の冷たい目で、狂気の沙汰をこなしていく田中の演技が『美しくて本当に怖い』と話題になり、ドラマ終了時は『葉子ロス』を訴える視聴者も多かった。昨年は、関東大震災直後にデマによって引き起こされた虐殺事件をテーマにした映画『福田村事件』に出演し、なまめかしい濡れ場を披露しています。たくましい船頭を相手に、小さな船の上で『私のこと欲しい?』とほほ笑みかけ、スカートをまくしあげるシーンが話題になりました。船頭役が東出昌大ということもあり、なんともいえぬ背徳感が増した感もあります」(映画ライター)

ドレス姿も様になる田中麗奈(写真:アフロ)

■「ブギウギ」での生足シーン

「ブギウギ」でも、思わず視聴者の目をくぎ付けにしたシーンがある。 第94回で、記事の誤解を解こうとスズ子が単身で有楽町のガード下へ出向いたときのことだ。夜の女性たちの棲家で、片膝を立てて爪の手入れをしながらスズ子の話を聞くおミネ(田中)は、ふくらはぎと太ももの一部がチラ見えするポーズを取っていた。SNSでは「おみ足がまぶしい!」「思わず目が行ってしまう」とシリアスなシーンながら、その色気にひかれてしまうというコメントが目立った。

「このシーンについてNHKのプロデューサーが取材で語っていたのですが、朝ドラなので生足シーンを心配するスタッフもいたといいます。しかし、どういう姿で座るかは田中と演出担当者が話し合って決めたそうです。彼女は本や映画で研究したり、衣装合わせにも長い時間をかけたりして、おミネというキャラクターを作りあげたともプロデューサーは話していました。結果的に視聴者にも理想のおミネ像がしっかり伝わっており、女優としての貫禄を感じました。若いころの清純なイメージとは打って変わり、最近では人間の抱える闇をミステリアスに演じられる演者として評価されています。田中の場合、そこに独特のなまめかしさも加わって、独特の存在感になっているのだと思います」(同)

はじけるような笑顔(写真:鈴木 幸一郎/アフロ)

■目ヂカラは健在

「ブギウギ」のほか、今年は2本の映画作品にも出演予定の田中。孤独な少年少女の喪失から再生までの姿を描いた『愛のゆくえ』(3月1日公開予定)では、主人公ふたりを女手一つで育てる母を。映画に魅せられた若者たちの青春群像劇『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』(3月15日公開予定)では、青年たちの背中を押すバーのママを演じる。

 エンターテイメントジャーナリストの中村裕一氏は、彼女の魅力をこう分析する。

「話題になった『ブギウギ』での出演シーンでは、スズ子相手にたんかを切る姿と表情の迫力に思わず圧倒されました。10代のころを知っている人にとっては、『あの“なっちゃん”がすっかりたくましくなって……』と不思議な感慨深さがあったのではないでしょうか。戦後の混乱期を生き抜いていかなければならなかった女性の強さと切なさが、彼女の目ヂカラとともに見事に表現されていたと思います。2013年にインタビューをしたことがあるのですが、人と人のつながりについて『“縁”って信じたほうが楽しいと思います。そう考えるだけでも、人生が豊かになるんじゃないかなって私は思うんです』と語っていたのが印象に残っています。その後、ほどなくして結婚し、出産。きっと公私ともに良い縁に恵まれてきたのでしょう。今後も俳優として息の長い活躍に期待したいです」

 清純派から大人女優へと成長し、確固たる地位を築いた田中。年を重ねてますます輝きを放つ彼女の演技には、今後も注目が集まりそうだ。

(高梨歩)