今年度の大学受験シーズンがほぼ終わりを迎えつつあるが、2月下旬に行われた国公立大学の前期日程では、埼玉大学の英語の問題に、2年前の同大学の英語と同じ問題が出題されていたことが話題になった。受験生や関係者の間ではさまざまな憶測を呼んだが、そこから見えてくるものは……。

「ミスでは?」との指摘相次ぐ

 一部で注目を集めたのは「政府は宇宙探索に金をかけるべきか、地球上の基本的なニーズにかけるべきか」を問い、それに対する考えを120〜150語の英語で答えるという問題。

 問題中に綴りが英国式・米国式で異なる単語が1語だけあったものの、それ以外は出題から問題文まで全て一緒。直近の過去問だったこともあり、ネット上やSNSでは当初、「ミスではないか」との指摘も相次いだ。

「過去問」は共通財産

 埼玉大ではアドミッションセンターの入学者選抜実施部門で問題を作成しているが、入試課に尋ねると、ミスなのか作為的にこの問題を出題したのかを含め、「入試に関することなのでお答えできません」の一点張り。ただ、同大は、2008年度から「大学入試過去問題活用宣言」に参画しており、過去にも同様に自大学の問題を活用して入試を行ってきた背景がある。

 同宣言には今年元日時点で、国立42大学を含む163大学が参画。2023年度の入試では、高知大医学部医学科が弘前、岩手、秋田、山形、群馬、信州、金沢、静岡、滋賀医科、奈良教育、鳥取、愛媛、長崎、熊本、神戸学院の各大学の過去問を一部改変して活用するなど、40を超える大学が自大学を含む宣言参画大学の過去問を利用して入試問題を作成。ほとんどは出題に当たり改変されているが、中には関西医科大の医学部が、2017年度の徳島大理工学部・医学部の数学の問題を改変せずに利用した例などもあった。

 埼玉大でも「取り組みの一環として過去問は活用している」(同大学務部)とし、「それ以外のことも含め、大学としては入試については回答していないが、自大学を含め、宣言に参画する他大学の過去問を活用することはルールとしてある」としている。

 そもそも、同宣言の実施にあたり、準備委員会が用意した文章によると「全国の大学が毎年出題する入試問題は膨大で過去問には良問が蓄積している」「過去問は大学社会が共有すべき共通財産」としたうえで、「過去問と類似した問題が大学側の大きな『過誤』として報道されることがある」「出題者は過去問の存在に神経質になり、精神的な負担が極めて大きい」とその背景を説明している。

受験生の見極め?

 とはいえ、今回の埼大は、直近の自大学入試問題がそのまま活用された分、反響も大きかったようだ。

「さすがにちょっとびっくりしたというのが正直なところ」と話すのは、受験問題に詳しいAll About学習・受験ガイドの伊藤敏雄氏だ。

「travelingという単語が2年前は英国綴りのtravellingだったと聞いたので、問題はチェックした上で意図的に出したのだろう」と伊藤氏は推測。「英語の問題はさまざまなところから題材を持ってこられるが、テーマによっては内容が似通ったものになることもある」とした上で、直近の自大学の問題をそのまま活用した点に注目。「自大学の過去問をしっかりやれ、という大学からの受験生へのひとつのメッセージなのではないか」との見方を示す。

 過去問に受験生が接する状況について「かつてに比べるとネットなどを通じ、いくらでも容易に手に入る状況なので、古い過去問を出しても面白いはず」と解説し、「2年前の問題ならほとんどの受験生がやっているだろうし、不公平感もない。ただ過去問に当たるだけではなく、受験生自身が問題をきちんと分析した上で答えられているかどうかを問うたのではないかと感じる」と話す。

増える?過去問活用

 宣言に参画していない旧帝大では「大学の先生の専門の内容が入試問題に出ることも多い。ただ問題を解くだけではなく、大学がどんな学生に来てほしいかが如実に出ている」とし、大学によってそれぞれの出題傾向があると説明。宣言参画大学間では「出題傾向が似た大学などもあるはずで、そうした大学間では過去問の活用もしやすいはず」とみる。

「大学としては受験問題に差をつける選別性を入れなくてはいけない半面、きちんと受験者の学力を測らなくてはならない面もある。そのバランスがうまく取れていない大学は多い印象だ」と伊藤氏。「そうした目的に適う入試問題を作るには時間と労力がかかる。規模の小さい地方の私立大学などは問題作成に困っているのではないか。他大学の過去問を参考にしながら入試問題が作られることは今後も実態として増えていきそうだ」と話している。

デイリー新潮編集部