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高齢になった親との関係がこじれやすい3つの理由

親子の確執が生まれる原因 #コラム

 

この記事を書いた人

株式会社リクシス 酒井穣

株式会社リクシス 創業者・取締役 酒井 穣
慶應義塾大学理工学部卒。Tilburg大学経営学修士号(MBA)首席取得。商社にて新規事業開発に従事後、オランダの精密機器メーカーに光学系エンジニアとして転職し、オランダに約9年在住する。帰国後はフリービット株式会社(東証一部)の取締役(人事・長期戦略担当)を経て、2016年に株式会社リクシスを佐々木と共に創業。自身も30年に渡る介護経験者であり、認定NPO法人カタリバ理事なども兼任する。NHKクローズアップ現代などでも介護関連の有識者として出演。

著書:『ビジネスパーソンが介護離職をしてはいけないこれだけの理由』(ディスカヴァー・トゥエンティワン、2018)、『ビジネスケアラー 働きながら親の介護をする人たち』(ディスカヴァー・トゥエンティワン、2023)

 

親子の確執は世界中にある普通のこと

スタウォーズが最たるものですが、親子の確執をテーマとした作品は世界中に存在しています。このテーマが多くの人の共感を集めるということとは、それだけ、親子の確執というのは、どこにでもみられるものだということです。

介護の現場でも、親子だからこそ上手くいかないことも多数あります。子供の側からすれば、自分がこれだけ介護を頑張っているのに、親のわがままに振り回されるのが我慢ならないという気持ちにもなります。

ただ、これを一歩引いてみると、こうした親子の確執は珍しいものではなく、背景には共通する難しさがあることに気づきます。その難しさ、すなわち、本当の敵を理解すれば、親子の確執は(少しは)減らせる可能性があると考えています。以下、3つのポイントに絞って、これを改善する考え方を示してみます。

1. パワーバランスを崩さないこと

親子の関係は、親の助けがなければ生きられない子供と、それを保護する親としてはじまります。このとき、パワーバランス(権力のあるなし)は、親のほうにかなり偏っているでしょう。子供が自立して家を出るまでは、基本的に、このパワーバランスは変わりません。

しかし、子供が家を出たあとは、親子の関係は希薄になります。子供が成人して社会人になっている場合、社会的な視点からすれば、その親子のパワーバランスには上下がなく、均衡しているでしょう。とはいえ子供は、対外的な意味で、親のことを立てるはずです。これは、本当は均衡しているのに、あえて、親を尊重するということです。

しかし親が介護になると、これが逆転しやすいのです。自分の生活を自分で切り盛り出来なくなった親に対して、その子供は、実質的な保護者になります。実質的なパワーバランスは、ここで、子供のほうに偏っています。しかし「老いては子に従え」という格言が必要とされる通り、親は、これを受け入れるのが難しいのです。

定年退職し、組織などに属さなくなった親にとって、子供だけが、自分がパワーバランスにおいて優位に立てる相手でもあります。本当は逆転していても、この、親にとって唯一優位なパワーバランスを維持してあげることは、無駄なぶつかり合いを減らすために有効だと考えられます。

2. 一緒にいなかった数十年の重さを知ること

子供が親元を離れ独立してから、親に介護が必要になるまで、一般には数十年という時間があるでしょう。その間は、親とはいえ子供の生活を知らないし、子供もまた親の生活を知りません。当然、子供は様々な経験を通して大きく成長していますが、親もまた成長しています。

親子の確執の背景には、お互いの数十年という時間を考慮しない態度もあります。親は親で、子供は昔とは違うことを認識する必要があります。子供のほうもまた、理解している親の姿は、親が20〜40代のころの話でしょう。そこから数十年、親もまた変化しているのです。

密度の濃い付き合いを、数十年もしていなかった親子が、お互いを理解しているつもりで関係性を再開するというのが、介護というイベントでもあります。普通は、数十年変わらずに続けられる趣味というのも、そうそうありません。お互いが、いまいちど、お互いのことを理解しあうための時間も必要なのです。

お互いに、関係性が薄くなっていた数十年を語りあうため、写真などを持ち出して説明することにも意味があると思います。意外と同じことに悩んでいた時期があったり、はたまた、全く異なる人生の苦労があったりと、学べることも多いはずです。

3. 残されている未来の違いに配慮すること

一般には、親子において、親が先にこの世を去ることが多くなります。周囲の友達が次々と亡くなっていくわけで、親としては、迫り来る自らの終末を意識せざるを得ません。それはとても怖いことですし、受け入れるのも個人差があります。

子供はというと、まだまだ現役であることも多いでしょう。そうなると、この自らの終末を意識することの怖さについては(頭では理解できても)実感することができません。残されている未来の長さに大きな差があるのですから、親子の価値観はかなり異なると考えたほうが良いのです。

親の説教も、自分がこの世にいられる期間が残り少ないからこそ、強めに出てしまいます。生きているうちに、少しでも子供の人生に貢献したいと考える親であれば、なおさら、説教が強くなることもあるでしょう。

しかし、こうした説教が、子供の耳に届くことはあまりないはずです。子供の立場からすれば、残されている未来の長さから、そうした説教にありがたみが感じられないからです。とはいえ、子供もいつか、介護が必要な高齢者になります。そのときに、親の説教の意味もわかる・・・のかもしれません。

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