タコの腕はなぜ絡まってしまわないのか

2014.05.16
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タコには絡まらないでいられる才能がある。写真はマダコ(Octopus vulgaris)。

PHOTOGRAPH BY JUNIORS BILDARCHIV/ALAMY
 タコの8本の腕には吸盤が並んでいて、大概のものにはくっつくことができる。しかしタコが自分の腕で絡まってしまうということはないようだ。これはマダコの皮膚に自己認識機構が存在し、吸盤が自分自身にくっつかないようになっているためだという。◆吸着は反射作用

 タコの吸盤が何かの表面に触れると「局所的な反射作用が引き金となって吸着する」と話すのは、研究の共著者でニューヨーク市立大学ブルックリン校生物模倣・認知ロボット工学(BioMimetics and Cognitive Robotics)研究室のディレクター、フランク・W・グラッソ(Frank W. Grasso)氏だ。タコが自然界で腕を失うことは珍しくなく、切断された腕であってもその活動は約1時間続き、動いたり物をつかんだりすることができる。

 グラッソ氏は共同研究者とともに実験室で切断されたタコの腕の反応を調査し、その結果皮膚で覆われた自分自身の腕や他のタコの腕には吸盤が付かないことが明らかになった。

 腕から皮膚を除去した場合は、切断された腕の吸盤は皮膚のない自身の腕に吸着した。シャーレの半分をタコの皮膚で覆う実験も行われたが、切断された腕の吸盤はシャーレがむき出しになっている部分に吸い付き、皮膚で覆われた半分には付かなかった。

 切断された腕を無傷なタコに与えた場合、タコはその腕を餌のように扱うことも(マダコは共食いをする)、全く腕に触れないことも、片端を口に入れて持ち運ぶこともあった。

 これらの結果から、吸盤がタコの皮膚にくっつかないようにする何らかの自己認識機構の存在が示唆されると、グラッソ氏は述べている。タコが見せたいくつかの行動からは、脳がこの機構を無効にできることも示唆される。しかしどんな機構が働いているのかは、まだ分かっていない。

◆より優れたロボットの製作へ

 従来科学者たちは、A地点からB地点までロボットの付属肢を動かすのに必要な計算を全て行うよう機械の「脳」をプログラムすることでロボットを動かしてきたと、グラッソ氏は語る。「このため、ロボットの動きはとても遅く、非実用的だった」。

 単純化してより現実的な動きを生み出すために、研究者たちは今、動物の動き方を模倣したロボットを作ろうと試みている。動物の動きの基本原理を理解さえできれば、ロボットに与える指示を単純化することができるとグラッソ氏は述べている。

 タコが興味深いのは、その腕をほとんど無限通りに動かすことができるからだと彼は言う。「計算によって動きを制御しようという考え方では、これは悪夢みたいな話だ。だから単純化するための原理を探している」とグラッソ氏は語る。

 タコの腕の自己認識能力は、そんな単純化を可能にする原理のひとつだ。これをロボットに適用することは可能だが、それはタコの場合のような化学的システムではなく、機械的システムになるだろうと、イタリアのピサにあるスクオラ・スペリオーレ・サンタナ(Scuola Superiore Sant’Anna)の生物ロボット学教授セシリア・ラスキ(Cecilia Laschi)氏は述べている。

 ラスキ氏によると、今回のような研究成果はソフトロボティクスという分野に大きく貢献するものだという。ソフトロボティクスは、機械が課題を実行する過程で、必要に応じて自らの形を変化させることができるものだ。

 今回の研究結果は「Current Biology」誌で5月15日に公表された。

PHOTOGRAPH BY JUNIORS BILDARCHIV/ALAMY

文=Jane J. Lee

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