米国で進む若者の車離れ、4つの仮説

2013.12.18
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アメリカでは、運転免許を持つ若者の割合はピーク時の1983年から大幅に減少している。この傾向は特に10代で顕著で、現在ではこの世代の若者の運転免許取得率は50%強にすぎない。

Graph by NG staff. Sources: U.S. Department of Transportation, U.S. Census Bureau
 アメリカでは、10代の若者が以前と比べて車の運転に興味を示さなくなっている。そんな中、米国エネルギー省エネルギー情報局(EIA)は年次報告書の中で、今後25年間の輸送エネルギー消費動向について、伸び率が大幅にダウンするとの見通しを示した。 EIAでは、12月16日付で発表した2014年版年間エネルギー見通しの中で、「自動車走行距離」(VMT)の伸び率が今後大幅に縮小するとの予測を示した。EIAの新たな予測では、VMTの年間成長率は0.9%とされているが、これはわずか1年前の予測と比較しても25%のマイナスという、大幅な下方修正だ。

 この変化は、人口増加の鈍化に伴う部分もあるが、世代交代も理由の1つになっているという。過去1年に発表された少なくとも4つの研究もこの点を裏付けている。アメリカでは、前の世代に比べて若者の間で運転をしない傾向が高まっており、そもそも運転免許を取得しない者も増えているという。

 こうした世代の変化に、今後見込まれる大幅な燃費改善を加味すると、アメリカにおいて、燃料で走る自動車のエネルギー消費量は、2040年までに現時点から25%減の約1兆2766億メガジュールになると、EIAでは予測している。

 自動車メーカーなどの車に関わる人以外にとっては、これはよい知らせのように聞こえる。しかし、こうした数字をめぐっては、専門家の間で激しい議論が起きている。

 若者の車離れの背後にある理由については、アメリカのエネルギーおよび運輸部門の予測を手がけるEIAによりさらなる調査が行われる予定だが、この記事ではこれまでに発表された4つの主要な説を紹介する。

◆1.「バーチャル世界へのアクセスで車が不要に」説

 ミシガン大学の交通研究所(UMTRI)による調査で、運転をする若者の割合は、インターネットのユーザー率と反比例の関係にあることが判明している。この結果を踏まえ、調査チームでは、ソーシャルメディアが車による移動に取って代わっているのではないかと結論づけている。

 UMTRIの人間工学グループで研究教授を務めるマイケル・シバク(Michael Sivak)氏は、「電子的な手段によるバーチャルな接触により、実際に人と会う必要性が少なくなってきている」と指摘する。さらにUMTRIの調査チームがまとめた国際比較データも、この説を裏付ける。世界各国で、インターネットユーザーの割合が高いほど、若者の免許取得率が低い傾向にあることが判明したのだ。

 カナダ、韓国、ドイツ、日本を含む計7カ国で、免許取得者の世代構成にアメリカと同様の傾向が認められたという。

◆2.「不況による経済的要因」説

 一方、この「バーチャルアクセス」説に激しく異を唱えているのが、米国高速道路安全保険協会(IIHS)の調査部門、ハイウェイ事故データ研究所(HLDI)だ。アメリカにおける自動車保険の契約状況の分析も、若者の車離れを裏付けており、保険の対象となる10代のドライバーの数は、2006年との比較で12%のマイナスとなっている。しかし、HLDIでは、このような現象は失業率の増加と並行して起きており、ドライバー全体と比べても10代では失業者の増加が顕著だったと指摘する。「要するに、10代の若者は金銭的理由から車に手が出ないのだ。仕事が見つからない状況では、車を買い、ガソリン代や保険料を支払うのは難しい」と、HLDIの副所長を務めるマット・ムーア(Matt Moore)氏は述べる。

 米国疾病予防管理センター(CDC)の10代の車離れに関する分析でも、経済的理由が要因として挙げられている。

 ムーア氏は、この傾向は一時的なものかもしれないとし、「景気が回復すれば、車を運転する10代の若者も増える可能性がある」と話している。 ◆3.「若者の自動車観に変化」説

 一方、非営利団体のアメリカ公共利益調査グループ(PIRG)は、若者の自動車観に根本的な変化が起きていると主張している。PIRGは報告書の中で、多くの世論調査でこの説を裏付ける結果が出ているとして、以下のように記している。「ジェネレーションY(1975〜89年生まれの世代)に属する人たちの多くは、運転を控えるようになっている。通学や通勤、レジャーの際にも車以外の交通手段を選び、できるだけ車を運転しないで済むライフスタイルを選ぶ人も多い」。PIRGはさらに、アメリカの全体的な車離れを論じた報告書の中で、運転する人の割合が大幅に減った街でも、減少幅が比較的小さかった街と比べて、特に失業率が高くはなかった点を指摘している。

◆4.「単に時間的余裕がない」説

 しかし、ミシガン大学の調査によると、免許を持たない理由として自動車が環境に与える影響への懸念を挙げた若者は、わずか9%だった。免許取得をためらう最大の理由として回答者の37%が挙げたのは、それほど高尚な問題ではなく、「忙しすぎて免許を取る時間的余裕がない」というものだった。

 第1、あるいは第2の理由として挙げられたその他の項目は、いずれもこれまで挙げてきた相反する説のどれかを裏付けるものだ。32%が車の価格や維持費の高さを理由に挙げ、31%が他の交通手段を利用できると回答、さらに22%が自転車や徒歩での移動が好きだから、17%が公共交通機関のほうが好みだからと答えている。

 さらに免許を持たない若者のうち22%は、免許取得の予定はまったくないと回答している。

Graph by NG staff. Sources: U.S. Department of Transportation, U.S. Census Bureau

文=Marianne Lavelle

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