「吸血鬼イカ(Vampire squid)」という英名を持つコウモリダコ。“血に飢えた深海生物”と思われてきたが、新たな研究で正反対の生態が明らかになった。 100年前、トロール船の網にかかって発見されて以来、イカとタコの近縁種であるこの風変わりな生物には謎がつきまとってきた。
深海に生息する頭足類のコウモリダコは体長30センチほど、学名Vampyroteuthis infernalisは「地獄の吸血鬼イカ」を意味する。暗赤色の体、巨大な青い目、8本の腕の間にマントのような皮膜を持ち、伸びる腕の先には鉤のような突起物が備わっている。いかにも恐ろしげな形相から名付けられたものだ。和名は、“マント”を広げるとコウモリ傘のように見えることに因む。
◆“吸血鬼”はマリンスノーがお好き
しかし、カリフォルニア州にあるモントレー湾水族館研究所(MBARI)の調査チームが発表した研究によると、コウモリダコのエサは、プランクトンの死骸、糞、藻、泥、小型の甲殻類が脱いだ殻など、海中を降下する「マリンスノー」だったのである。
MBARIのロボット潜水艇は、20年以上もビデオ観察を続けてきた。新たな研究では、24時間分の行動パターンを活用した。
海中の映像、捕獲した個体の観察、解剖、電子顕微鏡など、さまざまな点から分析を進めた結果、毛が並んだ2本の長い触糸を使ってマリンスノーの粒子を集め、食べやすい大きさのボール状に粘液でまとめていると判明した。
研究の共著者であるMBARIのヘンク・ヤン・ホビング(Henk-Jan Hoving)氏は、「現生の他の頭足類はどれも捕食動物だ。見た目が怖そうだし、コウモリダコも生きた獲物を探し回っていると考えられていたが、とんだ見当違いだった」と話す。
今回の研究で、コウモリダコの胃袋に、魚のウロコやイカの一部が見つかっているが、生きたまま生物を捕食する証拠はまだない。
◆ユニークな器官と食餌方法
ホビング氏によれば、イカやタコなどほとんどの頭足類は生きているエサを捕食するが、コウモリダコの摂食器官や行動はユニークだという。
コウモリダコの触手には、多数のトゲが並んでいる。一見すると牙のようだが、実際は肉質の「触毛」だ。粘液でまとめたマリンスノーを口へと運ぶ役割がある。
また、触手が変形した「触糸」2本を使って海中のエサを探す。「触糸の先端にある吸盤はタコのように吸い付かず、マリンスノーの粒子をまとめるための粘液を分泌する」と同氏は説明する。
触糸は体長の8倍ほど伸び、マルチな機能を持つと考えられている。プランクトンの死骸などの堆積物を捕らえるだけでなく、捕食者の存在を感知できる可能性もあると、研究チームは述べている。
コウモリダコは脅威に直面すると、思いがけない斬新なトリックを繰り出す。8本の腕を被膜ごと裏返して、体を包み込んでしまうのだ。トゲのような触毛が外側に並ぶと、捕食者を追い払う役に立つとも考えられる。
◆低酸素・低エネルギー生活
食欲旺盛な他の頭足類と比べると、質素な食事スタイルでスローな生活を送っている。 獲物を追いかけるような精力は使わず、糸状の器官を伸ばして海中の浮遊有機物を集めているという。暗くて酸素の乏しい深海暮らしなので、捕食動物と遭遇する危険とは無縁で、慌てて逃げる必要もない。
コウモリダコは世界中の低酸素海域に生息すると考えられている。「水深1000メートルの深海でも生きていけるようだが、そこから先はまだわからない」とホビング氏は述べている。
研究の詳細は「Proceedings of the Royal Society B」誌オンライン版で9月26日に発表された。
Image courtesy MBARI
深海に生息する頭足類のコウモリダコは体長30センチほど、学名Vampyroteuthis infernalisは「地獄の吸血鬼イカ」を意味する。暗赤色の体、巨大な青い目、8本の腕の間にマントのような皮膜を持ち、伸びる腕の先には鉤のような突起物が備わっている。いかにも恐ろしげな形相から名付けられたものだ。和名は、“マント”を広げるとコウモリ傘のように見えることに因む。
◆“吸血鬼”はマリンスノーがお好き
しかし、カリフォルニア州にあるモントレー湾水族館研究所(MBARI)の調査チームが発表した研究によると、コウモリダコのエサは、プランクトンの死骸、糞、藻、泥、小型の甲殻類が脱いだ殻など、海中を降下する「マリンスノー」だったのである。
MBARIのロボット潜水艇は、20年以上もビデオ観察を続けてきた。新たな研究では、24時間分の行動パターンを活用した。
海中の映像、捕獲した個体の観察、解剖、電子顕微鏡など、さまざまな点から分析を進めた結果、毛が並んだ2本の長い触糸を使ってマリンスノーの粒子を集め、食べやすい大きさのボール状に粘液でまとめていると判明した。
研究の共著者であるMBARIのヘンク・ヤン・ホビング(Henk-Jan Hoving)氏は、「現生の他の頭足類はどれも捕食動物だ。見た目が怖そうだし、コウモリダコも生きた獲物を探し回っていると考えられていたが、とんだ見当違いだった」と話す。
今回の研究で、コウモリダコの胃袋に、魚のウロコやイカの一部が見つかっているが、生きたまま生物を捕食する証拠はまだない。
◆ユニークな器官と食餌方法
ホビング氏によれば、イカやタコなどほとんどの頭足類は生きているエサを捕食するが、コウモリダコの摂食器官や行動はユニークだという。
コウモリダコの触手には、多数のトゲが並んでいる。一見すると牙のようだが、実際は肉質の「触毛」だ。粘液でまとめたマリンスノーを口へと運ぶ役割がある。
また、触手が変形した「触糸」2本を使って海中のエサを探す。「触糸の先端にある吸盤はタコのように吸い付かず、マリンスノーの粒子をまとめるための粘液を分泌する」と同氏は説明する。
触糸は体長の8倍ほど伸び、マルチな機能を持つと考えられている。プランクトンの死骸などの堆積物を捕らえるだけでなく、捕食者の存在を感知できる可能性もあると、研究チームは述べている。
コウモリダコは脅威に直面すると、思いがけない斬新なトリックを繰り出す。8本の腕を被膜ごと裏返して、体を包み込んでしまうのだ。トゲのような触毛が外側に並ぶと、捕食者を追い払う役に立つとも考えられる。
◆低酸素・低エネルギー生活
食欲旺盛な他の頭足類と比べると、質素な食事スタイルでスローな生活を送っている。 獲物を追いかけるような精力は使わず、糸状の器官を伸ばして海中の浮遊有機物を集めているという。暗くて酸素の乏しい深海暮らしなので、捕食動物と遭遇する危険とは無縁で、慌てて逃げる必要もない。
コウモリダコは世界中の低酸素海域に生息すると考えられている。「水深1000メートルの深海でも生きていけるようだが、そこから先はまだわからない」とホビング氏は述べている。
研究の詳細は「Proceedings of the Royal Society B」誌オンライン版で9月26日に発表された。
Image courtesy MBARI