番外編21:蝶の透明の翅はどうやってできている?

ベニスカシジャノメ(タテハチョウ科:ジャノメチョウ亜科:スカシジャノメ族)
Rusted Clearwing-Satyr, Cithaerias pireta pireta
アケボノスカシジャノメとも呼ばれる。
前翅長: 30 mm 撮影地:サン・ビート・デ・コト・ブルス、コスタリカ(写真クリックで拡大)

 今回も、透明な翅をもつチョウを紹介しよう。
 赤から透明へのグラデーションが美しいベニスカシジャノメ(上の写真)。グアテマラからコロンビアにかけて分布し、コスタリカでは低地から標高1500メートルぐらいの森に生息する。

 熱帯雨林を訪れると、このチョウが地面すれすれを跳ねるように飛んでいるのをよく見かける。かすかな赤ピンク色の姿は妖精のようで、このチョウにつられて小道を歩いていると、不思議な世界へ導かれていくような気分になる。

 ジャノメチョウというと、茶色やグレーの翅に目玉模様(眼状紋、がんじょうもん)がついているのが一般的。ベニスカシジャノメのように透明な翅は世界的にもかなり珍しい。さぞ特別な構造の翅かと思いきや、実はそうでもない。

 ベースにあるのは翅脈と呼ばれる細く茶色い筋と、その間の透明な膜(薄膜)。ふつうはこの膜の上に鱗粉がたっぷりと付いていて、鮮やかな模様を描いているのだが、ベニスカシジャノメの場合、この鱗粉が付いていない。目玉模様やその周囲の赤い部分にだけ鱗粉が付いているため、こんな不思議なグラデーション模様になった。逆に言えば、ほかのチョウやガも、鱗粉を落とせば翅はたいてい透明から半透明(または薄い茶色)になるのだ。

 多種多様な昆虫の翅を拡大して見ると、興味深いたくさんの不思議が広がっているだろう。

ベニスカシジャノメの目玉模様部分の拡大写真(右の後ろ翅の裏側)(写真クリックで拡大)
前回紹介したトンボマダラチョウの翅の透明部分。白く見える部分は白い背景が透けて見えていて、その膜には鱗粉はなく、茶色い産毛のような「毛」が生えている。翅脈や黒い模様の部分には鱗粉がある。(写真クリックで拡大)
ヘリグロスカシジャノメ(タテハチョウ科:ジャノメチョウ亜科:スカシジャノメ族)
Uncolored Clearwing-Satyr, Dulcedo polita
ニカラグアからコロンビアに生息し、1属1種からなる特にユニークな種。コスタリカでは、大西洋側の熱帯雨林の暗~いジャングルで出会える。葉の上に落ちた鳥の糞や、発酵した花や実の汁を吸う。
前翅長: 33 mm 撮影地:サラピキ、コスタリカ(写真クリックで拡大)

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西田賢司

西田賢司(にしだ けんじ)

1972年、大阪府生まれ。中学卒業後に米国へ渡り、大学で生物学を専攻する。1998年からコスタリカ大学で蝶や蛾の生態を主に研究。昆虫を見つける目のよさに定評があり、東南アジアやオーストラリア、中南米での調査も依頼される。現在は、コスタリカの大学や世界各国の研究機関から依頼を受けて、昆虫の調査やプロジェクトに携わっている。第5回「モンベル・チャレンジ・アワード」受賞。著書に『わっ! ヘンな虫 探検昆虫学者の珍虫ファイル』(徳間書店)など。
本人のホームページはhttp://www.kenjinishida.net/jp/indexjp.html