番外編21:蝶の透明の翅はどうやってできている?
今回も、透明な翅をもつチョウを紹介しよう。
赤から透明へのグラデーションが美しいベニスカシジャノメ(上の写真)。グアテマラからコロンビアにかけて分布し、コスタリカでは低地から標高1500メートルぐらいの森に生息する。
熱帯雨林を訪れると、このチョウが地面すれすれを跳ねるように飛んでいるのをよく見かける。かすかな赤ピンク色の姿は妖精のようで、このチョウにつられて小道を歩いていると、不思議な世界へ導かれていくような気分になる。
ジャノメチョウというと、茶色やグレーの翅に目玉模様(眼状紋、がんじょうもん)がついているのが一般的。ベニスカシジャノメのように透明な翅は世界的にもかなり珍しい。さぞ特別な構造の翅かと思いきや、実はそうでもない。
ベースにあるのは翅脈と呼ばれる細く茶色い筋と、その間の透明な膜(薄膜)。ふつうはこの膜の上に鱗粉がたっぷりと付いていて、鮮やかな模様を描いているのだが、ベニスカシジャノメの場合、この鱗粉が付いていない。目玉模様やその周囲の赤い部分にだけ鱗粉が付いているため、こんな不思議なグラデーション模様になった。逆に言えば、ほかのチョウやガも、鱗粉を落とせば翅はたいてい透明から半透明(または薄い茶色)になるのだ。
多種多様な昆虫の翅を拡大して見ると、興味深いたくさんの不思議が広がっているだろう。
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西田賢司(にしだ けんじ)
1972年、大阪府生まれ。中学卒業後に米国へ渡り、大学で生物学を専攻する。1998年からコスタリカ大学で蝶や蛾の生態を主に研究。昆虫を見つける目のよさに定評があり、東南アジアやオーストラリア、中南米での調査も依頼される。現在は、コスタリカの大学や世界各国の研究機関から依頼を受けて、昆虫の調査やプロジェクトに携わっている。第5回「モンベル・チャレンジ・アワード」受賞。著書に『わっ! ヘンな虫 探検昆虫学者の珍虫ファイル』(徳間書店)など。
本人のホームページはhttp://www.kenjinishida.net/jp/indexjp.html