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この巨大淡水エイ(ヒマンチュラ・チャオプラヤ)は体重180キロ。2022年5月4日、カンボジア北部で偶然に捕獲された。世界最大級の魚で、カンボジアのメコン川の淵で見つかることが多い。(PHOTOGRAPH BY CHHUT CHHEANA, WONDERS OF THE MEKONG)

【動画】体長4メートル、重さ180キロの巨大淡水エイが捕まる、メコン川

2022.05.20
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 延長約4300キロメートルのメコン川は、ラオスからカンボジアあたりまで下ってくると、砂州や木々に覆われた島々の間をゆるやかに流れている。穏やかな川面からは、水中の生き生きとした命の営みは想像しがたい。

 だが、この約160キロメートルの水域では、毎年2000億個もの魚卵が産みつけられる。メコン川は、地球上で最も魚が多い川のひとつだ。川の淵は水深80メートルにも達し、世界で最も危機に直面している最大級の淡水魚にとっての避難所になっている。

 普段は、その豊かな生態系が人々の目に触れることはない。だが先日、濁った川底から、体長約4メートル、体重180キログラムの巨大淡水エイが、漁師たちの手で引き上げられた。釣り針にかかった小さな魚を飲みこんだたために偶然捕獲された魚だ。漁師たちが、このメスのエイを救うために助けを呼んだところ、駆けつけた救出チームが、エイから釣り針をはずし、体重と体長を計測して、無傷で川に戻すことができた。

漁師が偶然に捕獲した180キロのエイは、メコン川のすみかに戻された。 (CHHUT CHHEANA, WONDERS OF THE MEKONG)

 ゼブ・ホーガン氏は、絶滅が危惧されるメコンオオナマズパーカーホなど、メコン川の巨大魚を長年研究している。氏は、この巨大エイが捕獲されたことを、カンボジア北部のメコン川の淵が環境と生態系に重要な役割を果たしている証拠だと考えている。氏による最近の淵の調査では、こうした役割がより一層明らかになりつつある。この水域は、希少なカワゴンドウ(イラワジイルカ)やマルスッポンの生息地でもある。(参考記事:「【動画】食堂に届いた希少なスッポン、再び川へ」

「地球上でこうした生物がそろって見つかるのは、もうここだけです」と話すホーガン氏は、米ネバダ大学リノ校の魚類学者で、米国際開発局(USAID)の研究プロジェクト「ワンダーズ・オブ・ザ・メコン(メコン川の驚異)」のリーダーを務める。ナショナル ジオグラフィックのエクスプローラー(探求者)でもある。

 ホーガン氏は、巨大エイが捕獲される前の週に、この流域で学術調査を実施した。この国際調査チームには、ナショジオのエクスプローラーがもう2人参加した。深海研究者のカカニ・カティジャ氏と、環境人類学者で洞窟ダイバーでもあるケニー・ブロード氏だ。

 メコン川の最深部に初めて挑んだ今回の調査では、照明とカメラ付きの無人潜水装置や、長いケーブルで吊るした水中カメラ、餌を取り付けたビデオカメラを使用した。また、希少種や未発見の種を特定するため、DNAサンプルも採取した。その重要性にもかかわらず、メコン川の研究はかなり遅れているからだ。

深い川底を調査する

 メコン川は、チベット高原に源流を発し、6カ国を流れて南シナ海に注ぐ。流域では1000種近い魚が見つかっており、世界的な生物多様性のホットスポットであることがわかっている。この川では世界最大規模の内陸漁業が行われ、流域に住む数千万人の暮らしを支えている。

メコン川には、世界最大級の淡水魚が生息している。 (STEFAN LOVGREN)

 メコン川にこれほど多くの魚がいる秘密は、雨期の洪水にある。夏の雨期に水位が場所によっては10メートル以上も上昇することで、稚魚が流域の氾濫原まで下り、そこで餌を食べて成長する。メコン川の魚の多くは回遊性が高く、川を遡上して産卵する。カンボジア北部の淵のような水域まで、長い距離を移動する魚も多い。

 乾期にはこの水域がさまざまな巨大動物(メガファウナ)など、多くの重要な種の避難場所となることを研究者たちは認識していた。ただし、雨期には浸水する木々で覆われる島々を水路が網の目のように取り囲むこのエリアは、アクセスが難しいへき地であり、川底の調査はとりわけ困難だ。

 メコン川の淵は、カティジャ氏のチームが普段調査している深海の環境と、深さ、周辺光の乏しさ、水底の水流など多くの点で似ているという。「メコン川は最深部でも濁りがひどく、視界が非常に悪いので、調査の際は特に撮影に苦労します」と、米モントレー湾水族館研究所のバイオインスピレーション・ラボを率いるカティジャ氏は話す。

次ページ:深みにすむ巨大魚、数々の危機

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