モアイ数百体が火事で被災、「修復不可能なダメージ」

脅威は他にも、イースター島の象徴について今知っておきたいこと

2022.10.21
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
現地語名でラパ・ヌイと呼ばれるイースター島には、1000体を超えるモアイ像が点在する。ほとんどのモアイは海に背を向けて島を取り囲んでいるが、写真のモアイのように、制作地だった火山岩の石切り場ラノ・ララクから運び出されることがなかったものも多い。(PHOTOGRAPH BY SUSAN SEUBERT)
現地語名でラパ・ヌイと呼ばれるイースター島には、1000体を超えるモアイ像が点在する。ほとんどのモアイは海に背を向けて島を取り囲んでいるが、写真のモアイのように、制作地だった火山岩の石切り場ラノ・ララクから運び出されることがなかったものも多い。(PHOTOGRAPH BY SUSAN SEUBERT)
[画像のクリックで拡大表示]

 チリ、イースター島(以下、現地語名のラパ・ヌイと表記)の政府によれば、2022年10月上旬に発生した山火事で、島に点在する約1000体のうち数百体のモアイが「修復不可能なダメージ」を受けたという。当局は地中から発火したと断定した。

 被害の規模はまだ調査中だが、今回の火災は、気候変動や人間の活動とともに、神聖なモアイを脅かすものの一つにすぎない。ラパ・ヌイの人々にとって、モアイに迫るリスクは深刻だと指摘するのは、「イースター島石像プロジェクト」の責任者を務める考古学者のジョー・アン・バン・ティルバーグ氏だ。

「彼らは先人たちが残したものを大切にしています」と氏は語る。「自分たちに落ち度がないにもかかわらず、あまりに多くのものが失われたため、彼らは怒りを感じています」

ポリネシア一帯で同じような石像が発見されているが、ラパ・ヌイのモアイはその大きさと威厳のある表情が特徴だ。(PHOTOGRAPH BY SUSAN SEUBERT)
ポリネシア一帯で同じような石像が発見されているが、ラパ・ヌイのモアイはその大きさと威厳のある表情が特徴だ。(PHOTOGRAPH BY SUSAN SEUBERT)
[画像のクリックで拡大表示]

 ラパ・ヌイの人々の歴史と伝統に関しては、多くの知識が時とともに失われてしまった。しかし、モアイとそれを建造した豊かな文化については、わかっていることがたくさんある。また、どうすればモアイを後世に残せるかについても同様だ。

モアイとは何か、誰が建造したのか

 モアイは火山岩でできた巨大な像で、大きな頭が特徴だ。最新の調査では、1043体の完全なモアイが存在する。頭部だけの像と思われがちだが、胴体もある。ただし、モアイの多くは胴体が部分的または完全に埋もれている。大きさはたいてい高さ4メートル、重さ10トンほどだ。

 ほとんどの像は「アフ」と呼ばれる石の祭壇に海に背を向けて立っており、アフには最大15体の像が置かれている。頭に「プカオ」と呼ばれる円筒形の赤い石をいただいたものがあり、髪飾りを表現していると考えられている。(参考記事:「太平洋に背を向けて立つ15体のモアイ」

 しかし、島に存在するモアイの本当の数はわかっていない。モアイが建造された南岸の石切り場「ラノ・ララク」に、多くの像が埋まったままになっているためだ。あまりに大きく、ラノ・ララクから運び出すことができなかった像もある。知られている限りで最大のモアイ「エル・ギガンテ」もその一つだ。高さは20メートル以上、重さは約200トンと推定されている。

 ラパ・ヌイにヨーロッパ人が到来したのは1722年4月5日のイースター・サンデー(復活祭の日)だが、モアイが建造されたのはその何百年も前のことだ。バン・ティルバーグ氏は、ポリネシア人は西暦1000年ごろに島を発見し、高度な社会、政治、宗教システムを発展させ、壮大なモアイをつくり出したと考えている。

 最も古い像は1300年までさかのぼり、最も新しい像は16世紀後半または17世紀前半につくられた。

次ページ:モアイはなぜ、どのようにつくられたのか

ここから先は、「ナショナル ジオグラフィック日本版」の
会員*のみ、ご利用いただけます。

会員* はログイン

*会員:年間購読、電子版月ぎめ、
 日経読者割引サービスをご利用中の方、ならびにWeb無料会員になります。

おすすめ関連書籍

科学の謎

研究者が悩む99の素朴な疑問

研究によって限りなく真実に近いところまで解明されているものから、まったくわかっていないものまで、「物質と力」「宇宙」「人体」「地球」「生物の世界」「人類の営み」の6ジャンル、99個の研究テーマと解明のプロセスを紹介。 〔全国学校図書館協議会選定図書〕

定価:1,760円(税込)

おすすめ関連書籍

今の科学でここまでわかった 世界の謎99

古代文明から超常現象、宇宙、生命まで、ミステリーの全カタログ。好奇心をかき立てる『世界の謎』99個を集め、科学の眼で迫ります。

定価:1,540円(税込)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加