「人工島で国土倍増」のバーレーン 海洋生物の行方は?

「私たち漁師にとって、埋め立て事業は海に対する攻撃でしかありません」

2022.09.04
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バーレーン南端の沖合の人工島群、ドゥラット・アル・バーレーンでは、10年以上前から建設工事が続いている。この写真は、2021年に国際宇宙ステーションから撮影された。ペルシャ湾の島国バーレーンは、さらに多くの人工島を建設しようとしている。(PHOTOGRAPH BY SERGEY KUD-SVERCHKOV, ROSCOSMOS VIA NASA)
バーレーン南端の沖合の人工島群、ドゥラット・アル・バーレーンでは、10年以上前から建設工事が続いている。この写真は、2021年に国際宇宙ステーションから撮影された。ペルシャ湾の島国バーレーンは、さらに多くの人工島を建設しようとしている。(PHOTOGRAPH BY SERGEY KUD-SVERCHKOV, ROSCOSMOS VIA NASA)
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 バーレーンの北岸に近いカラナという漁村で、72歳のハジ・サイードさんは、仕掛けておいた定置網まで干潮の海を歩く。サイードさんは、村で最高齢の漁師だ。

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 20年前、目の前に広がる海には、タラの一種であるハムール、サフィ(アイゴ)など、たくさんの魚が生息していた。サイードさんがたった1日で100キログラム以上も魚を捕ることは珍しくなかった。

 だが、バーレーン政府が2つの人工島を建設して以来、海底の状態が変わってしまった。このため、魚の群れは沿岸の浅瀬から去ってしまった。

 この日、サイードさんが仕掛けておいた「ハドラ」という5つの定置網にかかっていた魚は、3キログラム少々。翌日は3匹だけで、重さはわずか0.5キログラムだった。

「人工島が建設されてから、ずっとこんな状況です」とサイードさん。「昔は、どこでも魚が捕れたのに……。今は漁で十分な収入は得られなくなりました」

砂嵐に襲われたバーレーン北東部にある最大の都市、首都マナーマ。中東では、過放牧、森林破壊、河川水の過剰消費、ダム建設の影響で、砂嵐が激しさを増し、頻繁に発生するようになっている。(PHOTOGRAPH BY MAZEN MAHDI, AFP VIA GETTY IMAGES)
砂嵐に襲われたバーレーン北東部にある最大の都市、首都マナーマ。中東では、過放牧、森林破壊、河川水の過剰消費、ダム建設の影響で、砂嵐が激しさを増し、頻繁に発生するようになっている。(PHOTOGRAPH BY MAZEN MAHDI, AFP VIA GETTY IMAGES)
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 だが、これから漁業はますます難しくなるかもしれない。ペルシャ湾に浮かぶ人口180万人の島国、バーレーンでは、10年後の完成を目指して、5つの人工島を建設しようとしているからだ。これらの人工島には5つの都市が誕生する予定だ。人工島がすべて完成すると、この小さな島国の面積は60%拡大することになる。政府関係者は「土地の拡大はバーレーンの経済発展の要だ」と述べている。だが、一方で、人工島の建設は、気候変動に適応して生き延びようと苦闘している現地の海洋生物に、重大な環境コストをもたらす。

「ペルシャ湾は塩分濃度も水温も高いので、海洋生物にとってかなりストレスが高い場所です。そこにどのようなものであれ、新たなストレスが加われば、ほかの海域よりも海洋生物にかかる負担が大きくなります」。こう話すのは、現地のサンゴ礁を7年間調査した英ウォーリック大学の海洋科学教授、チャールズ・シェパード氏だ。

ペルシャ湾岸諸国の人工島建設が続々

 海底を浚渫(しゅんせつ)して新しい島を建設する「海の埋め立て」事業は、バーレーンではおなじみだ。1960年代以降、海岸線でさまざまな埋め立て事業が行われ、690平方キロメートルだった国土は、2021年には780平方キロメートル以上に拡大した。今日では、シンガポールよりもやや広い国土を有する。(参考記事:「地球の表面、30年前より陸地が増えた」

次ページ:浚渫で95%が失われたマングローブ

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