ヘビの行動を研究する科学者はしばしば、ある難しい問題に直面する。それは、どうすれば爬虫類の心を知ることができるだろうか、というものだ。
霊長類は身振り手振りで、ゾウは鼻で、カラスはくちばしで、実験に対して特定の反応を示すことができる。しかし、ヘビはどうだろうか。
そこで研究者が考案したのが、ヘビの強みである嗅覚を生かした実験だ。
ヘビは、においという化学的な合図を頼りに獲物を認識し、捕食者から逃がれ、交尾相手を探し、生息地を移動する。主嗅覚に加えて、彼らは舌をチョロチョロと動かして、性フェロモンなどの合図を口蓋にある特殊な器官へと運び、交尾相手の存在に気づいたりできる。
北米に広く生息するトウブガーターヘビ(Thamnophis sirtalis)に関する最近の研究によって、彼らは自身が出す化学的な合図と、同じ餌を与えられた同腹の個体が出すそれとを識別できることがわかった。研究を主導した米テネシー大学ノックスビル校の倫理学者・比較心理学者のゴードン・バーグハルト氏は、「これは自己認知の証拠であり、自分の鏡像を認める行為のヘビ版と言えます」と述べている。
鏡に映った自分の姿を認知することは高度な能力と考えられており、チンパンジー、オランウータン、イルカなど、ごく一部の種のみで確認されている。
「ヘビを正しい方法で研究し、正しい疑問を立て、その生態や世界との付き合い方を尊重すれば、彼らがほかの動物たちと同じ認知・知覚メカニズムを示すことは少なくありません」
己を知るということ
2021年9月22日付けで学術誌「Behaviour」に発表された研究においてバーグハルト氏らは、研究室で生まれたガーターヘビの同腹仔24匹を対象に実験を行った。
ヘビたちは生まれたときから個別のケージに入れられ、それぞれ魚のみ、あるいはミミズのような細長い蠕虫(ぜんちゅう)のみの餌を与えられた。こうすることにより、ヘビたちの糞を化学的に区別できるようになる。
ヘビが生後4カ月になると、研究チームは個々のヘビを4種類の刺激にさらしてみた。自分のケージの汚れた敷物、同じ餌を与えられた同性個体のケージの汚れた敷物、違う餌を与えられた同性個体のケージの汚れた敷物、清潔な敷物の4つだ。
実験の最中、科学者らは、ヘビの舌の動きの割合と、ケージ内での全体的な動きを計測した。
同じ餌を与えられた同腹仔のケージの汚れた敷物にさらされた場合には、自分のケージの汚れた敷物と比べて、ヘビが舌を動かす回数は少なかった。つまり、差があった。
この行動は、ガーターヘビが、ほかの個体とは異なる自分自身の化学的な合図を認知できており、それは同じ餌を与えられている近縁の個体が相手であっても変わらないことを示していると、バーグハルト氏は述べている。