2021年の東京オリンピックに、新たな国名でデビューを果たした国がある。3年前までスワジランドの名で知られていたアフリカ最後の絶対君主制国家、エスワティニ王国だ。陸上、ボクシング、水泳の4選手がエスワティニ代表として金メダルを目指している。
4選手が日本で奮闘している間、アフリカ南部の故国では、多くの家族、友人、ファンが全く違う戦いに巻き込まれている。命にかかわる、より大きな戦いだ。
エスワティニではこの2カ月、政情不安が続いている。アフリカ最後の絶対君主であるムスワティ3世への不満を表明し、政治改革を求める民主化運動が拡大しているのだ。
民主化運動のきっかけは、25歳の法学生タバニ・ンコモニェの死だった。ンコモニェは警察に殺されたと言われている。以来、警察の発砲、殴打、過剰な武力行使によって、少なくとも40人が死亡し、150人以上が入院している。
民主化運動の拡大を受け、エスワティニ通信委員会はソーシャルメディアやオンラインプラットフォームへのアクセスを無期限停止した。その結果、市民は警察の暴力を記録できなくなった。さらに、政府の弾圧によりジャーナリストの取材も制限されている。
国名変更の背景
20世紀に入ってすぐ、この小さな内陸国は英国の統治下に置かれ、1968年、非暴力の政権移譲によって独立を果たした。
そして2018年、独立50周年を記念し、植民地だった過去と決別するため、ムスワティ3世は国名をスワジランドからエスワティニ王国に変更すると発表した。
ムスワティ3世は国名変更を発表したとき、「アフリカの国々は独立後、昔の名前に戻っています」と聴衆に語り掛けた。「植民地化される前」の伝統的な名前や歴史的な名前という意味だ。
ムスワティ3世は南アフリカとモザンビークに囲まれたこの国を35年にわたって統治してきた。政党活動は禁止されており、世界銀行によれば、約120万人いる国民の3分の2近くが貧困層に属するという。