路上でにっこり笑うのは、新年を祝って街を行く万歳(まんざい)師。1922(大正11)年9月号に掲載された一枚で、撮影地は不明だが、「正月には老若男女が笑顔になって、福を呼び寄せようとしている」と写真の説明にある。
扇子を手にした太夫と鼓を持った才蔵が、新年に家々を回ってめでたい言葉を述べ、こっけいな舞いを披露する。こうした万歳は古くから祝福芸として、三河をはじめ、秋田や越前、加賀、尾張、伊勢、伊予など、全国各地で演じられてきた。二人のかけ合いで見る人を笑わせるところは現代の漫才に似ているが、楽しい芸を披露する以外にも万歳の目的はある。たとえば、三河万歳の「七草の舞」の歌詞には、鶴や亀、千秋万歳、繁昌といった言葉が盛り込まれ、一家の繁栄や長寿を願う意味合いもあることがうかがえる。
実際、笑いと長寿には関係があるようで、山形大学の研究チームが40歳以上の男女1万7000人余りを対象に調べたところ、ほとんど笑わない人は、よく笑う人に比べて死亡率がおよそ2倍高いことがわかった。長寿を願い、人々に笑顔を届けた太夫と才蔵は、笑いが長生きに役立つことを知っていたのだろうか。
この記事はナショナル ジオグラフィック日本版2020年1月号に掲載されたものです。