矢野奨吾と温詞(センチミリメンタル)が語る、ギヴンという“本当のバンド”ができるまでのストーリー (2/3)

歌ってすげえ!

──普段聴いている曲など、音楽について話し合うことはありますか?

矢野 ギヴンのバンドメンバーの方たちと何回かごはんに行く機会があって、そのときに昔聴いていた曲の話をしましたね。温詞くんにはレコーディングのときに発声の仕方やライブでのパフォーマンスで意識していることを教えてもらったり。

温詞 そう思うと、「こういう音楽を今まで聴いてきました!」みたいな話を矢野くんともっとしてみたいですね。

矢野 そこまでガッツリ話せる自信がなくて……。

温詞 「あのアルバムのここがさあ……!」みたいなマニアックな話じゃなくても、「この曲とかあの曲が好き!」みたいなざっくばらんな話をもっとゆっくりできたらいいな。知り合って最初のほうは気軽にごはんに行けたけど、そのあとすぐにコロナ禍になっちゃいましたからね。

矢野 バンドメンバーの方も含めてリモート飲みしたときは、ゲームばっかりしていてまったく音楽の話をしなかったですよね(笑)。

温詞 しなかったですね(笑)。

矢野 でもめっちゃ楽しかったですよね!

温詞 ですね。バンドメンバーとしてグルーヴが高まればという下心もありつつでしたが、単純に友達としても仲よくなれた感じもあって楽しい会でした。

──せっかくなので、この場でお二人の音楽ルーツについて伺えたら。

矢野 僕は2歳半上の兄の影響をもろに受けていて、GLAYさん、L'Arc-en-Cielさん、スピッツさん、ゆずさん、あとはマキシマム ザ ホルモンさんなどを聴いていました。特にゆずさんに一番ハマって、親がギターを持っていたので「弾き語りができたらな」と思って父と一緒に練習した記憶がありますね。あとはお年玉を貯めてゆずさんのビデオを買ってコレクションしたり、家にポスターを張ったり。

温詞 僕はもともとプロのピアニストを目指していたのでクラシックをよく聴いていました。でもあまり自分の奥まで入ってこなくて、少し違和感を感じていたんですが、そんなときにレミオロメンさんの「粉雪」を聴いて衝撃を受けたんです。「歌ってすげえ!」と。そこからJ-POPを中心にガーっと聴くようになって、けっこういろんなアーティストを聴きましたね。それこそマキシマム ザ ホルモンさんも聴きましたし。一番好きなのはメロディがきれいな曲かな。

矢野 温詞くんからこういう話が聞けてうれしいです。

温詞 なかなかこんな話しないですもんね。いろいろな音楽を聴いてきましたけど、それぞれのよさを吸収しながら自分の作品に落とし込めてるのかなと思います。

ギヴン「gift」完全生産限定盤ジャケット ©キヅナツキ・新書館/ギヴン製作委員会

ギヴン「gift」完全生産限定盤ジャケット ©キヅナツキ・新書館/ギヴン製作委員会

矢野くんの歌がうまくなっている

──ギヴンの2ndシングル「うらがわの存在」についても聞かせてください。この曲は「ギヴン」の新作アニメの主題歌でもあります。作品のことやご自身の感情など、どんなものを落とし込んでこの曲を作りあげたのでしょうか?

温詞 まず最初にアニメの脚本をいただいたんですけど、その時点ではサブタイトルが決まってなかったんですよ。それで「主題歌のタイトルとアニメのサブタイトルを同じにします」と言われて。要するにアニメのサブタイトルも決めてくださいという状態だったんですよ。

矢野 すごいですね!(笑)

温詞 超プレッシャーでした(笑)。今回のストーリーは、「映画 ギヴン」(2020年8月に公開された映画)では描かれなかった裏側の部分で、映画に比べると温かい空気感が流れている話が多めなんです。だからこそどこを切り取れば「ギヴン」の主題歌らしくなるんだろうというのは考えましたね。脚本を読んで、見えないところでもたくさんの人がそれぞれの生活を送っていて、いろいろな人の人生が常に動いているということを改めて教えられた気がして。それで「うらがわ」という単語にフォーカスしようと思って書いた1曲です。

矢野 そうだったんだ……レコーディングのときにこういう話しないですもんね。

温詞 「俺がアニメのサブタイトルも付けたんだぜ」ってわざわざ言うのも自慢みたいでちょっとね(笑)。でもそれくらい信頼してもらえているんだというのはすごくうれしかったです。

矢野 この曲を聴いて、さっき温詞くんが言ったような温かさや“青春の1ページ”みたいなことを感じました。ギヴンのバンドメンバーにはそれぞれ名前に春夏秋冬が入っていて、(中山)春樹には(梶)秋彦がいて、(上ノ山)立夏には真冬がいて……という各キャラクターの関係性に当てはまる曲だなと思いました。映画には(村田)雨月という登場人物がメインキャストとして出てくるんですけど、「うらがわの存在」という曲には春夏秋冬すべてに降り注ぐ雨というワードもちゃんと取り入れられていて。聴く人によって真冬目線でも、真冬じゃない目線ともとれる曲なんだなという印象を受けましたね。レコーディング前には、温詞くんに「これは時系列的にどこを切り取ればいいですか」という相談をして。僕の解釈は映画を経ての真冬でした。

温詞 僕としては真冬が人間として成長している部分はもちろんあると思うのでそこを出せたらと思いつつ、人間って簡単にレベルアップするものではないと思うので、陰の部分も出せたらと思いました。そのバランス感は、ほかの曲に比べると「うらがわの存在」は少し前向きな楽曲だと思いますね。あと単純に矢野くんの歌がうまくなっているなって。

矢野 これは絶対書いておいてください!(笑)

温詞 周りの人もみんな言ってましたよ。「どんどんうまくなってない!?」って。そういう意味では矢野くんが真冬とともに成長しているように感じられてうれしかったですね。やっぱり僕もバンドを始めたてのときの音源を今聴くと、全然声が違ったり、拙かったなと思う部分はたくさんあるけど、同時に成長できた部分を感じることができるんです。そう思うとまるで矢野くんが自分が歩んだ道をもう一度歩いているようで、「本当のバンドじゃん」と思います。ギヴンというアーティストができあがったんだなって。

矢野 めちゃめちゃうれしいです。ありがとうございます。アーティストの方の監修付きでこれだけがっつり音楽に携わらせていただけたのが初めてだったので、音楽を始めたばかりの真冬と共通する部分はあるのかなと思っていて。役者としては「うらがわの存在」では、真冬が自分の思いを伝えることや他者のことを思って歌うこと、あとは過去に向き合う力強さにフォーカスを当てました。でも図らずも僕の成長と真冬がリンクしてくれていたんだとしたら、うれしいですね。