前祭山鉾巡行は祇園祭のハイライトとされています=2016年7月17日 (写真・田中幸美)

《京都》2017祇園祭を歩こう ㊦


 日本の夏祭りを代表する「祇園祭」。日本三大祭であると同時に京都三大祭にも数えられています。祇園祭は、7月1カ月にわたって、毎日のようにさまざまな行事や祭儀が行われます。
 祇園祭とは一体何のお祭りなのでしょうか。

「祇園祭」は八坂神社の祭礼です=13日、京都市東山区の八坂神社 (写真・田中幸美)


◆疫病退散の祭り
 祇園祭は、かつては「祇園会」(ぎおんえ)とか「祇園御霊会」(ぎおんごりょうえ)などと呼ばれていました。「御霊会」とは、非業の死を遂げ、この世に未練や恨みを持つ死者の霊魂が疫神となって疫病を振りまくという御霊信仰から、それらの荒ぶる霊魂を鎮めて、厄災をもたらさないように都の外へ送るための祭りでした。

 平安時代の貞観11(869)年、都を中心に全国的に疫病がはやった際、平安京の庭園である「神泉苑」で、当時の国の数にあたる66本の矛を立てて、御輿を繰り出して疫病退散の神事を行ったことが祇園祭の始まりとされてます。1100年以上の歴史があるのです。

今も山鉾巡行の先頭には「祇園会」の旗を掲げます=2016年7月24日 (写真・田中幸美)


 祇園祭の中心となる八坂神社(祇園社)のご祭神、「素戔嗚尊」(スサノオノミコト)は疫神の代表格であるとされ、その強大な力によって都に疫病をまき散らす他のさまざまな御霊を撃退しようとしたと考えられています。
 八坂神社の3基の神輿には、それぞれスサノオノミコト、妻である櫛稲田姫命(クシナダヒメノミコト)、そして子供たちである「八柱御子神」(ヤハシラノミコガミ)が乗り、洛中の男衆に担がれて八坂神社から氏子が暮らす地域にお出ましになります。

八坂神社舞殿に奉納された3基の神輿。(左から)「八柱御子神」の乗る「西御座」、「素戔嗚尊」の乗る「中御座」、そして「櫛稲田姫命」の乗る「東御座」が並びます


◆最も重要なのは3基の神輿
 祇園祭の中心をなすのはこの3基の神輿です。鉾や山は、神輿が渡御する「神幸祭」と「還幸祭」に付随する出し物で、いわば御輿の〝露払い〟のような性格を帯びていました。
 祭りは、疫神のご機嫌を取って退散してもらうことを目的としていたので、次第に華美になり、今日のような光輝く豪華な懸装品(けんそうひん)で飾られた山鉾や祇園囃子などが生み出されたとされています。山や鉾が登場するのは14世紀末から15世紀初頭の南北朝時代から室町時代初期にかけてで、そのころになると、〝国の祭り〟から〝町衆(ちょうしゅう)の祭り〟へと変貌していきました。

スサノミコトが乗る「中御座」の神輿は、17日の夕刻まで八坂神社の舞殿に奉納されています


◆戦火や災害を乗り超え1100年
 応仁の乱や天明の大火、幕末の蛤御門の変など戦火や災害のために、何度も廃絶の危機に見舞われましたが、町衆の熱意と努力により見事に復興を遂げてきました。そうして1100年以上にわたって受け継がれ、2009(平成21)年にはユネスコの世界無形文化遺産に登録されました。
 高度成長期以来、交通渋滞や観光客への配慮など理由に、前祭と後祭の合同巡行が続いていましたが、祭り本来の形を取り戻そうという動きが起こり、前祭と後祭の分離が決定。2014(平成26)年、約半世紀ぶりに後祭の山鉾巡行が復活しました。

後祭の山鉾巡行には10基の山鉾が参加します=2016年7月24日 (写真報道局・北崎涼子撮影)


◆別名「鱧祭」、きゅうりは食べません
 祇園祭は別名「鱧祭」(はもまつり)とも呼ばれます。京都の夏の味覚、鱧がこの時期よく食べられるからです。

夏の味覚、鱧料理=京都府京都市東山区花見小路下ル小松町の「祇園 ほそみ」 (写真・田中幸美)


 こんな慣習もあります。八坂神社の神紋が、きゅうりを輪切りにした切り口の模様に似ていることから、「食べるのは恐れ多い」とされ、祇園祭の期間中はきゅうりを食べないというのです。もっとも、こうした慣習を守っているのは祭りの関係者の方々だけで、宵山の屋台では串に刺した冷やしキュウリが堂々と売られていたりします。

確かに八坂神社の神紋はきゅうりの切り口に似ています



 食べないといえば、祇園祭の粽(ちまき)もそう。クマザサで包んだワラをイグサでらせん状に縛って10本ずつ束ねたもので、山鉾町によりさまざまな護符が付けられています。厄除け災難除けとして戸口に飾る御守りで、決して食べられません。

菊水鉾の粽。もちろん食べられるわけありません


◆見どころは鉾建てと曳き初め
 山鉾巡行はニュースでも必ず取り上げられ、みなさんもよくご存じのことと思います。でも、山鉾巡行以外でも見どころとなる行事はいろいろあります。
 その代表が、山や鉾を組み立る「鉾建て・山建て」、組み立てた鉾や山を女性を含む一般市民や観光客も参加して曳くことができる「曳き初め」です。
 鉾建て・山建ては前祭なら10日~14日、後祭なら18日~21日に行われます。保管されていた山や鉾の部材が町会所の収納庫から運び出されます。そして、専門の職人さんたちの手により、くぎなどを使わず木材同士の接合部を荒縄で巻いて固定する「縄がらみ」という伝統技法で組み上げていきます。

長刀鉾の鉾建て。きぎなどをいっさい使わず、荒縄を巻いて固定する「縄がらみ」は伝統技法です=11日、長刀鉾


鶏鉾の鉾建て=11日、鶏鉾


 組み上げられて、タペストリーなどの懸装品で飾られると、縄の部分はほとんど見えなくなってしまいます。ですから、鉾建ての時が伝統技法を間近にできるチャンスです。
 そして、約3日かけて組み立てられた鉾や山は、試運転である「曳き初め」を行ないます。懸装品で飾られ、山鉾の上では祇園囃子も奏でられて本番さながらです。曳き初めは老若男女誰でも参加することができます。そしてこの綱を曳くと、1年の厄除けになるといわれていますから、ぜひ参加したいですね。

長刀鉾の曳き初め。老若男女誰でも曳くことができるとあって、大勢の人が集まりました=12日、長刀鉾


12日には5基がいっぺんに曳き初めを行ないました


お囃子のない蟷螂山のかき初めでは、祇園太鼓が登場して、太鼓に合わせて行なわれました


 曳き初めは、前祭は12日と13日、後祭は20日と21日。各山鉾によって時間はさまざまで午後2時から順次行われます。

 梅雨明け間近の7月の京都は暑さがとても厳しく、足下から熱気が上がってくるようです。この時期に京都に旅行するならぜひ、山鉾町に足を運んで、祇園祭に触れてください。(写真はすべて田中幸美)

◆祇園祭山鉾連合会の公式ホームページは、http://www.gionmatsuri.or.jp/



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