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2024.04.03

三条 陸さん(漫画原作者、脚本家)インタビュー

卒業生インタビューエンタメ

単行本の発行部数が5000万部を突破する『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』をはじめ、漫画、特撮ドラマ、アニメの原作者として次々とヒット作品を生み出す三条陸さん。明治大学付属明治高校では美術部や映画研究会に、明治大学では漫画研究会に在籍していました。大学在学中から記事のライティングやアニメのシナリオを執筆。幼い頃に見た特撮ドラマの感動が、その作品に力強く反映されています。

聞き手・明治大学経営企画部広報課

PROFILE三条 陸(SANJO Riku)

1964年生まれ。1987年明治大学文学部卒業。明治大学付属明治高等学校出身。学生時代からホビー、特撮、アニメの雑誌・ムックや「週刊少年ジャンプ」でライターとして活動。1989年から「週刊少年ジャンプ」で連載した漫画『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』の原作を務める。漫画原作者、特撮ドラマ・アニメの脚本家として広く活躍。

創作の滋養となる知識を得るため

――三条さんは付属高校から明治に通われていたそうですね。

三条 「自分の子どもは大学に行かせたい」。父はそう考えていたのですが「大学受験は大変だから、付属校から上がった方が楽だろう」という理由で、僕に付属高校の受験を勧めてくれました。合格した高校の一つが明高(明治大学付属明治高校)でした。明高では最初は美術部に、後からは映画研究会に入りました。

勉強に関しては、理数科目は苦手でしたが国語は得意でした。定期試験の用紙が配られる前の数十分で試験範囲をパッと読み、出題されそうな漢字などを確認すれば、90点は取ることができました。その代わり、試験の前日は数学や化学などを徹夜で勉強したものです。行事にも積極的に取り組み、学校を一日も休まず、卒業式で皆勤賞を頂きました。

――そこから文学部に進まれましたね。

三条 僕は子どもの頃から漫画を描くことが好きで、漠然と漫画家に憧れていました。仮面ライダーやスーパー戦隊、ウルトラマンなどのテレビの特撮ドラマも大好きで、その作品に関する雑誌などを集めて作品について調べたりファンサークルに参加したりしました。そのため、僕は明高に通っていた頃から、将来は漫画やアニメなどに関わる仕事に就こうと決めていたのです。

そこで、ストーリーを創る上で滋養となる知識を得たいと思い、文学部を選びました。明高は付属校ですから、成績などの基準が満たされていれば、希望した学部に進むことができます。しかし、最初から他の学部には興味がなかったので、希望する学部を「文学部」と書類に書いて提出したのです。それを知った母はとても怒ったのですが、本来なら母よりも僕に厳しかった父が「好きなところに行かせてやれ」と母を説得してくれました。

――明治大学では、どのような学生生活を送りましたか?

三条 1年次から漫画研究会に入りました。当時、この部には明高のOBで、僕よりも2学年上の先輩である高田裕三さん(※)が在籍していました。高田さんは明高時代から有名人で、卒業文集のカットを一人で全部描くなど校内でも活躍していました。その文集に高田さんが「日本一の漫画家になる」と記していたことを覚えています。

講義にはきちんと出席しました。日本の古典文学を研究するゼミに入り、卒業論文は近松門左衛門をテーマにしました。高校とは違い、大学は自由度が高いので、友人たちと交流を深めながら、伸び伸びと好きな勉強や趣味に没頭できました。こうして学んだことは、今の創作活動の糧になっています。

※ 高田裕三:漫画家。代表作に1993年度第17回講談社漫画賞を受賞した『3╳3 EYES』など

――漫画の原作を書くようになったきっかけは?

三条 和泉校舎に通っていた頃から、アニメ誌などのライティングをアルバイトで始めていました。高校時代にアニメのファンサークルで知り合った仲間からの声かけがきっかけです。『月刊OUT』というサブカル誌から特撮ドラマに詳しい僕に執筆の依頼が舞い込みました。以後、ビデオアニメのシナリオも書くようになり、のちに「週刊少年ジャンプ(以下、ジャンプ)」からも仕事を頂けるようになりました。

明治大学を卒業した後にはジャンプの仕事がメインになっていました。そこで、ライター仲間と共にジャンプの発行元である集英社に近い神保町に会社を立ち上げました。『聖闘士星矢』や『ドラゴンボール』がジャンプで大ヒットを飛ばしていた頃です。この会社で、僕はアニメのシナリオを書いたり、玩具メーカーに企画を出したりしていました。

――『ダイの大冒険』の原作はどのような経緯でお受けになったのでしょうか?

三条 僕がアニメのシナリオを書いていると聞いたジャンプの編集者の鳥嶋和彦さんから「漫画の原作を書いてみないか」という依頼を頂いたことがきっかけです。これがご縁となって、漫画家の稲田浩司先生と組ませていただき、『ダイの大冒険』の原作を担当させていただくことになりました。

――当時すでに大人気ゲームだった『ドラゴンクエスト』の漫画化ということで苦労されたのではないでしょうか?

三条 ゲームのバトル法則ではなくジャンプのバトル漫画の法則にのっとって物語を展開させることを心がけました。それを基盤にプロットを作ってドラゴンクエストシリーズの呪文などを配置していきました。こういうシチュエーションなら最もふさわしい呪文は何か、このタイプの戦いなら敵はどんなモンスターが合うかなどを考えていったのです。

単なる宣伝漫画にしないことにも留意しました。ゲームメーカーさんからすると、漫画化によってさらに話題が広がれば成功なわけですが、ゲームの内容をすべて漫画に盛り込んでしまうわけにはいきません。ゲームのオチを書くわけにはいかないからです。こうした僕の意見に周囲の方たちが賛同してくれたので、ジャンプ漫画ならではの独自性を追求できました。

こだわりを、シナリオに反映

――漫画の原作者や脚本家という立場で、多くの方々と仕事をする際に重視していることは?

三条 チームを組んだ方の「こんなものをつくりたい」「こういうものが好き」という気持ちに寄り添い、心から楽しんで仕事をしていだたくことを大切にしています。「これは面白そうだ」と感じていただけない限り、相手の方が意欲を持って創作に取り組めないからです。中には「この漫画家の先生は、こういうのは好きではないだろう」と思えるケースもあります。そんな時は「僕はこれが好きで、こうしたいんです」とプレゼンテーションをして、相手の方に僕の希望を熱心に伝えるようにしています。

理解し合った上で仕事をすることの重要性に改めて気づいたのは2005年から放映されたロボットアニメ『ガイキングLEGEND OF DAIKU-MARYU』のシナリオを執筆していた頃でした。これまで僕はビデオアニメのシナリオを数本書いたことがありましたが、単発ばかりでした。一方ガイキングは1年間も放送が続きます。同じメンバーとそれだけ長い時間、仕事を共にするのですから、僕もチームの一員として、みんなのテンションを上げるように努めました。例えば、僕は声優さんと会話を重ね、その方の個性やこだわりを理解し、シナリオに反映させるようにしました。

その後、テレビで放映された特撮ドラマ『仮面ライダーW』や『獣電戦隊キョウリュウジャー』のシナリオを手がけた時も、この姿勢を大切にしていました。

――数多くの作品を手がけられています。大変ではありませんでしたか?

三条 課題を最初に決めてから仕事に取りかかることを大切にしています。「これは今やらなければならない仕事だな」「ここでこの作品の依頼が来たということは、これにトライしろということだな」という課題です。これを自分に言い聞かせます。

かつて『ダイの大冒険』の原作の依頼を頂いた時も「大人気のドラゴンクエストシリーズを漫画化するからには、成果を収めないと、このシリーズの制作者の一人であり作品を監修いただいた堀井雄二さんに顔向けができない」と自分に言い聞かせつつ書き上げました。

悪役にも強烈な個性と魅力を

――三条さんの作品はストーリーを論理的に構築している印象があります。こうした点はいかがでしょうか?

三条 僕が文学部に進んだのは、明高時代、理数科目の成績が振るわなかったことも理由にあります。でも後年、僕が自分の子に算数を教えていた時、問題の解き方が分かったり、計算を面白く感じたりしたのです。この力はシナリオを書くことで身に付いたのかもしれません。シナリオを修正することは、数学に通じるからです。

例えば「ここのブロックがモタついてているから、テンポを上げて、その分ク ライマックスを長くしてください」という修正の提案が作品担当の編集者などから入ったとします。そんな時、僕は「ここのブロックからこれを引いたら、テンポは上がる。しかし、魅力の総量が減ってしまうので、この減った分をクライマックスに持っていこう」と考えます。イコールの関係になるように調整するわけです。これは方程式に似ています。

――作品に登場する悪役はどれも魅力的です。そこには、どのようなこだわりがあるのでしょうか? 

三条 子どもの頃に見てきたテレビの特撮ドラマの影響が強いのだと思います。こういったドラマでは約1年間のシリーズに悪役の幹部がレギュラーとして登場します。ヒーローだけでなく、悪役に強烈な個性がないと、ストーリーが面白くなりません。

1年間を通じて悪役の性格や役割も少しずつ変化していき、視聴者が「この敵役、実はこういうヤツだったのか?」と、その意外性に驚くようなキャラクターであることが作品の魅力を高めるのです。

『ダイの大冒険』でも悪役の幹部が何人も登場して、手柄を奪い合った挙げ句、順番に倒されていきます。そして、生き残った悪役がダイの仲間になったりします。

――一方、三条さんにとって、ヒーローとはどのような存在なのでしょうか?

三条 爽快で、痛快で、かっこよくて、読んでいる人、見ている人をいい気分にさせるのがヒーローだと思っています。カタルシスを与え、溜飲(りゅういん)を思いきり下げてくれる存在です。

強いスポーツ選手も、試合を観戦していて、日常の憂さを忘れるくらいスカッと活躍してくれると、みんなが気持ちよくなり、夢中になれますよね。

漫画やアニメの中でも、ヒーローが作中に漂うモヤモヤしたものを吹き飛ばしてくるシーンが重要になると考えています。そこに至るまでにヒーローが苦戦を強いられたり、つらい目にあったりしても、ゴールがスカッとするようにつくり上げられていると高揚感が味わえる作品になるのだと思います。

――これからのお仕事の目標は?

三条 現在、連載中の3作品を見ても『風都探偵』は『仮面ライダーW』の続編で、『ドラゴンクエストダイの大冒険勇者アバンと獄炎の魔王』は『ダイの大冒険』の前日譚です。『冒険王ビィト』も稲田先生と僕のオリジナル作品です。つまり、僕でないと書けない作品といえます。そこで、この3作品をきちんと仕上げて、ファンの方に届けなければならないという責任が僕の手元にあります。

これらをこなすので精一杯で、先のことは考えられないのですが、僕は未体験のことに惹かれてしまう性分です。もし、経験したことのない仕事の依頼を頂ければ、両手に抱えている荷物が重くても、食いついてしまうのではないかと思っています。

――最後に明治大学に通う後輩に向けてアドバイスを頂きたいと思います。

三条 僕は明高時代から、自分の好きなことを仕事にしたいと決めていました。しかし、これを読んでいる多くの皆さんは、大学に入ってから「卒業後、何をしたいのか」を考え始めるのだと思います。

大学4年間を僕は疑似社会だと捉えています。大人の気分が味わえる期間です。中学や高校と違って、自分で授業を自由にカスタマイズできるわけですから。しかも、そこには責任が伴うので、自分の意志で何をするのか決まってくる4年間なのだと思います。将来、何をしたいのか、大学では時間も余裕もあると思うので、ゆっくり考えてほしいですね。僕のように何をしたいのか目標を決めている方なら、そのジャンルに近い分野のことに、片っ端からトライして狙いを定めてほしいと思います。

――貴重なお話をありがとうございました。

『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』 新装彩録版
原作/三条陸 漫画/ 稲田浩司  監修/堀井雄二
全25巻
国民的RPG「ドラゴンクエスト」の世界を 舞台にした超王道少年漫画。
©SQUARE ENIX CO.,LTD.

『ドラゴンクエスト ダイの大冒険 勇者アバンと獄炎の魔王』
原作/三条陸 漫画/ 芝田優作
1巻~9巻
魔王ハドラー率いる魔王軍が世界を襲う。立ちむかう、勇者アバンと仲間たち。『ダイの大冒険』の人気キャラクターたちの若き頃が描かれる。月刊Vジャンプにて大好評連載中。
©SQUARE ENIX CO.,LTD.

『三条陸HERO WORKS』
三条 陸著
2023年5月19日発売 税込2,200円
マンガ、特撮ドラマ、アニメ…メディアを越えてヒーローを生み出し続ける三条陸氏自らの作品群―40作以上を語り尽くす集大成本です。
©三条陸、稲田浩司/ 集英社
©三条陸、芝田優作/ 集英社
©SQUARE ENIX CO., LTD. ©石森プロ・東映

こちらの記事は広報誌『明治』第100号(2024年1月発行)からの転載です
ページの内容や掲載者のプロフィールなどは、記事公開当時のものです

※ページの内容や掲載者のプロフィールなどは、記事公開当時のものです

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