インタビュー

埼玉医科大学国際医療センターによる新時代の医療開拓―患者さん中心の医療を目指した21世紀型の大学病院

埼玉医科大学国際医療センターによる新時代の医療開拓―患者さん中心の医療を目指した21世紀型の大学病院
小山 勇 先生

埼玉医科大学国際医療センター 名誉病院長、特任教授

小山 勇 先生

この記事の最終更新は2016年08月21日です。

埼玉医科大学国際医療センターは、21世紀型医療の構築を目指して作られた医療機関です。「患者中心の医療」を目標に掲げ、医局の撤廃や完全個室型の外来など、既存の大学病院の概念や枠組みとは全く異なる診療体制を構築し、一人一人の患者さんが満足できる医療を提供しています。2015年には日本の大学病院で初めてJCI(国際病院評価機構)の認定を取得し、世界的にも評価が高いといえます。病院長の小山勇先生に、埼玉医科大学国際医療センターの特色についてお伺いしました。

(埼玉医科大学国際医療センターの外観)

(埼玉医科大学国際医療センターの外観)

埼玉医科大学国際医療センターは、「高度先進医療を提供し、世界をリードする病院」を目指して2007年に設立されました。現在は日本国内屈指の医療水準を誇るハイボリュームセンターに成長しつつあり、がん登録数は全国トップ5、子宮・卵巣がんの手術件数はトップ3、がん放射線治療数、大腸癌手術件数でもトップ5を誇り、がん以外にも心臓手術でトップ4、脳動脈瘤治療数では首位になっています。

現在ではボリュームから質の向上へ、つまり「ハイクオリティ」の病院を目標に掲げ、職員一同「一人一人の患者さんが満足していただくために何をすればよいのか」を考えて診療にあたっています。

ハイクオリティの病院へシフトするためには、単純に「高度な医療技術」を提供するだけでは不十分です。技術を磨くことよりも、チーム医療やホスピタリティ(一般的に「おもてなし」と呼ばれる人と人とのかかわり)といった、医療技術面以外の部分をシステム化・プロセス化し、院内で実践するということが必要になります。

これより、埼玉医科大学国際医療センター独自ともいえる体制をご説明していきます。

包括的がんセンターのコンシェルジュ

(すべてのがん診療科の受付をする包括的がんセンターのコンシェルジュ)

埼玉医科大学国際医療センターの入外費(入院患者と外来患者の割合)は1:1.16であり、一日あたりの外来患者数は約800人程度です。もともとがん、救命救急、心臓病・脳卒中といった高度急性期医療を専門的に扱う病院ということもあり、入院患者を中心に受け入れていますが、先に述べた通り、外来と入院の比率に大きな差がありません。あえて外来患者数を増加し過ぎないようにしているのです。これは、国際医療センターが得意とする高度な治療に専念し、その後の経過観察は地域のかかりつけ医の先生と協力して行う地域連携を実践している結果です。

外来が混雑し過ぎてしまった状態では患者さん一人あたりにかけられる時間が減少し、医師が診療を流れ作業にしてしまう可能性があります。それでは、一人一人の患者さんに丁寧な医療を提供できません。

埼玉医科大学国際医療センターの外来診察室

(埼玉医科大学国際医療センターの外来診察室。外来は完全個室になっている)

2017年より、病院全体で初診は30分以上の時間をかけ、再診の場合も一人に対して最低15分の診察時間をかけるように方針を固める予定です。

外来での診察に多くの時間を設けることにより、患者さんのお話をじっくり伺えるのはもちろん、診察が終わった後、次の患者さんにうつる前に診療録をしっかりと記載する時間が生まれます。つまり、現在の日本の外来で多くみられる「会話しながらパソコンに情報を入力する」という不完全な対話方式がなくなるのです。

埼玉医科大学国際医療センターの外来には包括的がんセンター、心臓病センター、通院治療センターの3つしか存在しません。たとえば、がんの患者さんであれば、がんの種類や罹患している臓器に関わらず包括的がんセンターにて診察を受けます。

包括的がんセンター外来待合と診察室

(包括的がんセンター外来待合と診察室。患者さんはPHSによる呼び出し器を渡され、呼ばれるまで院内の喫茶室などで待つことができる)

包括的がんセンター受付の周囲には個室ブースがあり、診療科によるブースの固定化はされていません。

外来には完全個室型の診察室が並び、医師は各々の部屋に各自の表札を差し込んで診療にあたります。通常、日本の病院では患者さんが診療科を回り、医師が待機している部屋に入りますが、その逆の形を取り、医師や医療従事者が患者さんを中心にして回っていく仕組みを構築したのです。

外来のナースブース(左側は完全個室の診察室)

(外来のナースブース 左側は完全個室の診察室)

これにより、診療科の区切りを設けないチーム医療が実現します。

消化器科、呼吸器科など様々な診療科が並んで診察しているため、例えばがんが多臓器に転移している患者さんが複数の診療科にかかる場合など、隣に行けば別の科の医師がすぐに診察できます。このように、患者さんがまた別の日に予約を取ることなく診察を受けられる仕組みになっているのです。

通常の大学病院の場合、組織は教授を頂点にして縦割り構成がされており、横断的な診療が難しい状況です。これでは、患者さんを中心にした医療の提供も困難になります。

埼玉医科大学国際医療センターでは医局制を廃止しており、医師間で他の診療科との隔たりがありません。

助教の先生や研修医といった約250名の医師は皆、パーテーションで区切っただけの「大部屋」に集います。また、他科との交流機会を増やすため、隣同士には他の診療科の医師が並ぶようにしています。

これはチームとしての結束をより強めるため、他科や教授・助教・研修医といった肩書にとらわれずいつでも医師同士が相談できるような環境を整えるためです。

診療体制だけではなく、建物の内観・外観や構造などの面においても「患者中心主義」を意識しています。中でも、正面玄関から入ってきてすぐのエントランスホールはその象徴といえます。

多くの大学病院では、正面玄関に会計のブースが設置されており、そこに多くの患者さんが並んで順番待ちをしているのがみえます。これに対して埼玉医科大学国際医療センターの場合、玄関からみえるのは「総合コンシェルジュ」という窓口のみで、病院独特の雰囲気をできる限り無くしたつくりになっています。

(病院玄関から入ってすぐに見える壁画。看護の母・ナイチンゲールと医学の父・ヒポクラテス)

日本の病院における課題は非常に多く残っており、残念ながら、現段階で日本の病院は世界的に遅れを取っているのが現状です。

現在の日本の病院は、卓越した技術を持つ「エースプレーヤー」に頼っている部分があまりにも多く、医療自体が医師や看護師、薬剤師などそれぞれの専門家の能力に依存しています。裏を返せば、このエースプレーヤーが欠けるとどうにもならない状況ということであり、病院全体のシステムとして成熟していないのです。

本当の意味での「良い病院」とは、たとえ人が交代しても、組織全体としては一定のレベルを保てる病院ではないでしょうか。

これからの病院(特に大学病院)には、いかにして円滑な医療システムやプロセスを作っていくかという点が求められてくるでしょう。それぞれの専門家がどのように助け合い、協力して医療に取り組み、チームとして一人の患者さんに満足していただける医療を与えられるかということが今後の課題です。

埼玉医科大学国際医療センターは急性期医療を担う病院であり、治療を終えた患者さんは地域に戻っていきます。つまり、多くの患者さんは地域のなかで引き続き治療を受けることになります。ですから、患者さんが継続的に充実した医療を受けるためには、大病院が地域包括ケアシステムの領域に積極的に入って地域と連携し、一緒になって医療を行っていく必要があります。

本来であれば地域医療は地域に一任しているのですが、大病院が急性期以降の医療を地域に丸投げするような状況は、患者さんにとってよい医療とはいえません。双方が連携して患者さんをみていく必要があります。高度急性期医療を担う大病院の都合で作り上げたシステムではうまく機能しませんから、我々大病院側が積極的に地域に出ていくべきでしょう。

地域医療連携体制をより確固たるものにすべく、埼玉医科大学国際医療センターでは総合診療・地域医療科という診療科を設置しており、担当医が在宅医療や訪問診療など様々な観点から地域とのコミュニケーションを図っています。

今後はさらに在宅支援ベッドや訪問看護ステーションの設置を進めていく予定です。

(緑の山々に囲まれた埼玉医科大学国際医療センターには、様々な地域から患者が訪れる。大病院から地域に患者さんを帰す際にも積極的に歩み寄り、安全・安心な地域医療につなげられるように取り組む)

大学病院は高度急性期医療以降の医療を地域と協同して行っていく必要があります。協同のためには、ある一定の時期において大病院と地域の両者が重なり合うようなシステムの構築が急務です。

この課題の解決は、大学病院そのものの古い体制が変わっていかない限り困難でしょう。

埼玉医科大学国際医療センターは、設立当時から通常の大学病院とはコンセプトが異なるといっても過言ではない病院であり、患者中心の医療を大事にしてきました。今後も機能や設備、人材の充実を促進し、先導役として新時代の医療を開拓していきます。

 

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