このページの本文へ

がんナビ

がんナビについて

がん患者さんとその家族のために、がんの治療や患者さんの日々の生活をナビゲートします。

がん種から情報を探す

  • 乳がん
  • 肝がん
  • 大腸がん
  • 腎がん
  • 胃がん
  • 肺がん
  • 食道がん
  • 前立腺がん
  • 子宮頸がん
  • 膵がん
  • 卵巣がん
  • その他のがん

Report レポート

レポート一覧へ

新着一覧へ

レポート

2022/06/28

日本食道学会・第1回市民公開講座より(4)

食道がんの最新の抗がん剤治療とは

福島安紀=医療ライター

 日本食道学会と患者支援団体の食道がんサバイバーズシェアリングスは、4月9日、第1回市民公開講座「知って備えて学んで予防 正しく知ろう食道がんの事」をオンライン開催した。食道がんの治療には、主に、内視鏡治療、手術、放射線治療、薬物療法があり、単独、あるいは複数を組み合わせた治療が行われる。同講座では、京都大学医学部附属病院腫瘍内科特定助教の野村基雄氏が、「最新の抗がん剤治療~それは、薬ですか、毒ですか」と題して、食道がんの薬物療法について講演した。

使える薬はFU製剤、白金製剤、タキサン製剤、免疫療法の4種類

 食道がんの治療には、主に、内視鏡治療、外科手術、放射線治療、薬物療法があり、抗がん剤治療は、早期がんのステージ(Stage)Ⅰから最も進行したステージⅣまで、すべての病期(ステージ)の治療に用いられている。

(野村氏講演資料より)

 野村氏がまず紹介したのは、食道がんに対して保険適用のある薬剤は、FU製剤、白金製剤、タキサン製剤、免疫療法(免疫チェックポイント阻害薬)の大きく4種類に分けられるという点だ。「ほとんどは点滴のお薬で、これらを組み合わせて治療していくというのが、食道がんでの抗がん剤治療になります」と説明した。

(野村氏講演資料より)

出やすい副作用と対処法、主治医や薬剤師などに確認を

 出やすい副作用は、薬によって異なるが、薬の種類によってある程度のパターンがある。「白金製剤は、食道がんの薬物療法のキーになりますが、副作用が多い薬です。がんの治療薬の開発と共に、副作用を抑える支持療法も進んできて、吐き気(悪心)などの副作用は僕が医師になった頃に比べると、だいぶ抑えられるようになってきました。ただ、まだ、しゃっくり、食欲不振などの副作用を抑えるのは難しいです。患者さんたちの多くは、だしの匂いやご飯の炊きあがったときの香りが気持ち悪いといわれます。冷えたご飯、酢飯、そうめん、意外と米とかお粥よりパンが食べやすいなど、いろんなパターンがあります。各患者さんでトライしていただくしかないところです」と野村氏。タキサン製剤では、脱毛の副作用があるが、抗がん剤治療が終われば、また生えてくるという。

(野村氏講演資料より)

 副作用の出方には個人差があり、すべての副作用が全員に出るわけではない。実際に抗がん剤治療を受けるときには、主治医や薬剤師、看護師に、出やすい副作用と時期、その対処法について、説明を受けることが大切になる。

免疫療法は、免疫細胞を活性化させてがんを攻撃

 免疫チェックポイント阻害薬について、野村氏は、イラストを用いて次のように説明した。「免疫細胞は、僕の家の自警団のようなものです。例えば、コロナウイルスのようなものが不法に侵入してきた場合には、この免疫細胞がしっかりチェックして、攻撃します。ところが、がん細胞は、野村家の中で不良になったうちの息子みたいな状態になっています。なので、『誰ですか』と聞くと、『野村です』と返事をしてしまいます。この返事を抑えて免疫細胞が働くようにするのが、ニボルマブやペムブロリズマブなど免疫療法の薬です。免疫療法の薬はがんを攻撃しているかというと実は全然していません。攻撃するのは免疫の細胞です」。

(野村氏講演資料より)

 なお、免疫チェックポイント阻害薬にも、甲状腺機能障害、間質性肺炎、1型糖尿病など、FU製剤、白金製剤やタキサン製剤などとは異なる副作用がある。副作用が出るのは免疫細胞が活性化している証拠であり、効果と表裏一体の部分の面があるのが特徴だ。

 では、抗がん剤は薬、それとも毒なのだろうか。「薬とは本来、病気とか傷などの治療をし、長生きするためにというところが目標になり、それを実現できるものです。一方、毒は、体にとって不都合な悪いことが起きる、健康を害するもの。健康を保持することが薬であれば、それを害することが毒になります。抗がん剤は、この両方が併存している状況にあります」と野村氏は話した。

術前薬物療法はドセタキセルを加えた3剤併用療法が新たな標準治療に

 食道がんの治療の目的には2種類ある。ステージI~IIIは、根治・治癒が可能なステージであり、完治を目指した治療が行われる。一方、肺や肝臓など他の臓器に転移があるステージIVの治療は、緩和的な延命治療が中心となる。

 ステージI~IIIで手術が受ける場合には、手術の前に、FU製剤とシスプラチンなどの白金製剤を組み合わせた抗がん剤治療をするのが日本の標準治療だった。欧米では、抗がん剤治療に加えて放射線照射をするのが標準的になっている。

 「従来の標準治療(シスプラチンと5-FUの抗がん剤)をしてから手術、さらに、シスプラチンと5-FUにドセタキセルを加えた抗がん剤治療をしてから手術、従来の標準治療(シスプランと5-FU)と放射線治療をしてから手術をした場合を比較した試験の結果が今年の1月に報告されました。シスプラチンと5-FU、ドセタキセル、この3つの薬による抗がん剤治療をしてから手術をした結果が、最も治療成績が良かったということで、今後はこれが日本の標準治療になると考えています」と野村氏。

(野村氏講演資料より)

 それ以外の方法はないかということで、日本を含む29カ国で行われた臨床試験では、シスプラチン、5-FUと放射線治療を組み合わせた化学放射線療法の後、手術を実施し、その後、ニボルマブか偽薬(プラセボ)を投与して比較した。その結果、抗がん剤治療と放射線治療を事前に行った場合には、手術のあとにニボルマブを足したほうが長生きできることが分かった。

 「では、3つの抗がん剤治療をしてから手術をした場合と、抗がん剤と放射線をしたあとに手術をして、そのあとにニボルマブを足した場合のどちらがいいのかはまだ答えのない問題です。3つの抗がん剤治療をしてから手術をして、その後、ニボルマブを足すことも含め、どのような治療をすれば一番長生きできるのか、5~10年かけて検討されるだろうと思っています」と野村氏は説明した。

再発・転移がんなら自分の目標を決め治療を受けるかも含めて選択を

 一方、ステージIVに対する緩和的な治療については、以前は、シスプラチンと5-FUの併用療法が標準治療だった。しかし、シスプラチンと5-FUに免疫チェックポイント阻害薬のペムブロリズマブを加えたほうが有効という臨床試験の結果が出たため、3剤併用療法が標準治療になっている。

(野村氏講演資料より)

 「さらに、まだ保険適用になっていませんが、シスプラチン+5-FUにニボルマブを加えた場合、あるいは、ニボルマブとイピリムマブという2つの免疫チェックポイント阻害薬のみで治療する方法も、シスプラチン+5-FUよりも良好な結果が出ました。今後これらの薬も再発・転移食道がんの治療に使えるようになると思いますので、どういうふうに使い分けていくか、我々も検討しなければならないところです」(野村氏)

 ただ、緩和的な治療が中心になる再発・転移食道がんの場合には、「抗がん剤治療を受けない」という選択肢があってもいいのではないかと野村氏は指摘し、次のように続けた。

 「基本的には緩和的な治療は、生活の質をキープすること、いわゆる普段通り散歩ができてご飯が食べられて、普段通り生活できることを大事にし、それ以上、体調が悪化しないことを目標にします。一方で、患者さんの目標は個々人それぞれです。手術、内視鏡治療、化学放射線療法で治せるレベルであれば、最も効果の高い治療をすべきですが、緩和的な治療では、がんが悪くなって生活の質が悪くなること、抗がん剤の副作用で生活の質が悪くなること、どちらも避けなければならないと思っています」。

(野村氏講演資料より)

 野村氏は、1. 効果があること、2. 副作用が耐えられること、3. 意欲があること――、この3つがなければ、緩和的な薬物療法はできないという。「抗がん剤治療は、必ずしも効果があるわけではなく、2~3割しか効果がないことが多いです。副作用に耐えられないこともあります。耐えられなければ減量したり、薬の内容を変えたりする必要があります。治療の意欲については、ご本人はもう治療しなくていいと思っているのに、家族に言い出せないということもあります。今後、限られた時間をどのように生きて行くか、生き方、何を目標にするかが一番大事です。その目標を、主治医に伝えてください。目標に合わせて、治療をしないこと、手を抜いて治療をするという選択肢もあると思います。一番大事なことを守りつつ、治療ができればと考えています」と強調した。

 市民公開講座の司会を務めた、慶應義塾大学医学部腫瘍センター准教授の浜本康夫氏からは、完治が期待できる病期への術前薬物療法として、シスプラチン+5-FU+ドセタキセルの3剤を併用するようになって、がんが縮小する人が増えたのではないかとの質問が出た。

 野村氏は、「頭頸部がんに対して、3つの抗がん剤を使うという治療が出てきたときには、何てひどいことをするのだと思っていましたが、支持療法で副作用をかなり抑えられるようになって、2つの薬を使っていたときと同じような感覚で治療ができるようになってきています。やはり、3つの薬を使ったほうがすごくがんが縮んでくれ、外科医の先生方も驚いていますし、患者さんからも食べ物の通りがよくなったと言っていただけるようになっています」と回答した。


日本食道学会・第1回市民公開講座より

早期食道がん、局所再発の治療選択肢として進化する内視鏡治療

食道がんと診断され、手術を受けるということ

臓器を温存しつつ食道がんの完治を目指す放射線治療

この記事を友達に伝える印刷用ページ
  • 大腸がんを生きるガイド
  • がん文献情報ナビ
  • 「がん情報文献ナビ」は、がんと治療薬に関する最新の英語論文を、ビジュアル検索できるサービスです(株式会社ワールドフージョンが運営しています)。 ご意見・お問い合わせはこちら