「遺留捜査」で主演を務める上川隆也

上川隆也「エンターテイメントは“心の遊び場”」声優での評価も高い“アニメファン”の素顔

2022.07.14 08:30
「遺留捜査」で主演を務める上川隆也

テレビ朝日が誇る「木曜ミステリー」が今夏、23年の歴史に終幕。そのフィナーレを飾るのが上川隆也主演ドラマ『遺留捜査』の第7シリーズだ。同作は上川にとっても最も長く演じたシリーズでもあり、「まるで春夏秋冬問わず、袖を通したくなる、通せば心地よい、そんな感じの現場」と作品への愛着も深い。上川はどのような思いで最新作を演じるのか。また、声優としても活躍し、アニメ・ゲームに造詣の深い彼は、コロナ禍の自粛期間にも様々な作品に触れて過ごしていたという。「エンターテイメントは“心の遊び場”」と語る上川に、アニメやゲームの魅力を聞いた。

“神経質な無神経さ”が糸村刑事を彼たらしめている

事件現場に残された“遺留品”が持つ意味を徹底的に探り、声なき遺体が訴えたかったメッセージを代弁。事件そのものを解決するだけでなく、遺族の心情をも救う優しさと、超マイペースで空気を読まない不思議キャラで、視聴者を虜にしてきた刑事・ 糸村聡(上川隆也)の活躍を描く『遺留捜査』。第1シーズンからのレギュラーである科学捜査研究所係官・村木繁(甲本雅裕)も健在。糸村×村木の絶妙なやり取りも見どころだ。

――10年以上、糸村刑事という役柄を演じてこられましたが、糸村という役柄の面白さをどうお考えですか?

独自のアイデンティティと言いますか、彼自身が持ち携えているどこか不思議な雰囲気や、掴みどころのない挙動などは唯一無二だと思っています。また僕のキャリアで最も長く演じている役でもありますので、その愛着をふくめて、他にはない愛おしさがあります。神経質な無神経さというのでしょうか。遺留品から得られる情報には全集中しますし、一方で登場人物への言動にはどこか無神経をいとわない部分があり、その相反する要素が糸村の中には明確に同居している。それが糸村を糸村たらしめているようにも思っています。

――そんな役柄で「木曜ミステリー」のラストを飾ります。

そうした大きな誉を担うには『遺留捜査』という作品はちょっと埒外にいると思うんです(笑)。刑事ドラマとしてもミステリー作品としても、ある意味スタンダードを逸脱した作品ですから。つい先日も台本の最後のオチとも言えるシーンのセリフが変更され、あとはアドリブという時間になってしまった。台本が無いまま1分近くカメラを回しっぱなしだったんですが、全員が心得たもので誰一人芝居が止まることなく、むしろ監督もどこでカットをかけていいのか悩んでいらっしゃるかのような(笑)。そういった作品で幕を閉じることを誇らしく思いながらも、一方で申し訳なくすら思うというか……。ですが最後を飾るために今できる限りを注ぎ込み、お歴々の作品や歴史に恥じない作品にしたいと思っています。

変人・糸村刑事が織りなす、“逮捕”の先にある人とその心の姿

――どうしてこれほど愛される作品になったと思われますか?

犯人捜査、逮捕。その先にある、事件にまつわる方々の心情や、被害に遭われた方の想いに、遺留品を通して更に一歩踏み込んでいく作品は他に類を見ないというところに、その理由の一端を見つけていただけるのではないかと思います。演者が言うのも変ですが。

――第4シーズンから舞台が京都へ変わり、その景色の美しさも魅力となりました。

僕たちも京都の四季を楽しませていただいていると同時に、その心和むような環境を『遺留捜査』を通して楽しんでいただけたらと願っています。ちなみに僕は東京都の八王子市出身なのですが、京都とは盆地という点が共通しているんです。そこでめぐりまわる季節感というものも、京都と八王子でどこか似通ったものがあるように思えてり、それゆえ、京都には勝手ながら愛着を抱いています。

――上川さんにとって、俳優として最も大事にしていることは何ですか?

煎じ詰めると「楽しむ」ということになるのではないでしょうか。役どころも環境も、ご一緒させていただく共演者の皆様もふくめて、その時その時に巡り会うそれぞれの事象を楽しんでいきたいと思っていますし、それが演技にもおそらく、色濃く影を落とすのだと考えます。

アニメやゲームはそこに描かれるすべてに意味を込められる

――俳優と同時に、声優としても活躍されています。『天元突破グレンラガン』のアンチ=スパイラル役ではアニメファンからも絶賛の声が上がりました。ご自身、アニメやゲームがお好きとのことですが、その魅力とは?

誤解を恐れずに申し上げるならば、ドラマや実写映画が持たない自由度かと思います。最近でもハリウッドで日本のロボット作品を実写化するという話がありました。CGは発達しましたが、生身の人間が演じる以上、どうしても制約が生じると感じます。一方アニメーションやゲームは制限のタガを大きく外せるのが武器ですし、そこに描かれるすべての事象に意図を込められるからこそ、よりメッセージ性も強くできる。そこに声優として携われることは冥利に尽きると思っています。

――上川さんがアニメ好きになったきっかけは『宇宙戦艦ヤマト』だと伺っています。『無敵超人ザンボット3』もお好きとか。

『ザンボット3』はこんなに凄い作品が1970年代からある事を紹介しただけです(笑)。このコロナ禍でのおこもり中には劇場版『イデオン 接触編/発動篇』や『未来少年コナン』も観ました。少年時代は卓越した能力を持っているコナンが仲間を得て成長していく姿にいくことに魅力を感じていましたが、この歳になって観ると改めてダイスという役柄が魅力的なんです。亡き永井一郎さんの名演技が創り出した泥臭いけど人間らしい立ち振舞い。そこに惹かれます。

――アニメファン界隈では、「上川さんは我々が好きな深夜アニメなども観ているのだろうか?」という議論が出ていたりもします。

(笑)。面白そうな作品なら、勿論深夜作品でも観ます。例えば『魔法少女まどか☆マギカ』とか『SSSS.GRIDMAN』、『アルドノア・ゼロ』も好きでした。古いですか?(笑) 最近はサブスクリプションも充実していて便利です。ジブリ作品も好きです。エンタメ作品は全般的に好きです。

自粛していても“心”で遊べる──エンターテイメントが持つ強度

――自粛期間にゲームも遊ばれたとか。どんなタイトルをプレイされましたか?

購入してもお仕事が忙しくてプレイできず、積んであったゲームにようやく手をつけました。例えば『ファイナルファンタジー7』リメイクもその1本。一昨年出た作品を、ようやく開封できました。素晴らしかったです。単に画面が綺麗になり、キャラが流麗に動くというような形だけのリメイクではなく、ストーリーの根幹にも“今”という視点のアレンジが施され、続く作品のストーリーもオリジナルとは変わっていくのではないかという期待感がありました。オリジナルが90年代の作品で、そこから20年以上を経て、ちゃんと今の『ファイナルファンタジー7』が物語として紡がれていると感じられました。ほか『ホライゾン ゼロ ドーン』も遊びました。実によく練られたオープンワールド作品だと感じました。続編が今年の2月に出て、それは今まさに積んである状態です(笑)。

――改めてエンタメが持つ力とは?

やはりエンターテイメントは心の遊び場だと思うんです。自分自身の行動範囲が限られたとしても、時間も空間も超越して遊べる空間。そのポテンシャルが、コロナ禍のおこもり期間で十全に発揮されたのだと思います。『遺留捜査』も糸村の変人ぶり、科捜研における珍奇な会話や、主軸となる遺留品に遺された想い、これらに自由に想いを馳せていただいて、楽しんでいただければ幸いです。

――『遺留捜査』はもちろん、今後も上川さんの声をアニメ作品でも聞けることを楽しみにしています。

叶うことなら、僕もそう願いたいと思っています。まずは『遺留捜査』、間違いなくエンタメ作品ですので是非皆さん、楽しみにしていてください。

■取材・文/衣輪晋一(メディア研究家)

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