モデルプレスのインタビューに応じた新垣結衣(C)モデルプレス

新垣結衣「支えてくれる人が必ずいた」強い孤独に向き合った過去「夢を叶える秘訣」から感じた謙虚な人柄に迫る<「正欲」インタビュー>

2023.10.30 06:00

映画『正欲』(11月10日公開)にて、とある性的指向を持つ女性・桐生夏月という難しい役柄を演じきった女優の新垣結衣(あらがき・ゆい/35)。全てに絶望したような強い孤独、それを表現する繊細かつ緻密な表情の変化…圧巻の演技を深掘りしていった先に見えた彼女自身の人生とは――。

新垣結衣「正欲」という作品に感じた魅力

稲垣吾郎(C)2021 朝井リョウ/新潮社(C)2023「正欲」製作委員会
稲垣吾郎(C)2021 朝井リョウ/新潮社(C)2023「正欲」製作委員会
原作小説は、2009年『桐島、部活やめるってよ』で第22回小説すばる新人賞を受賞、2013年『何者』では直木賞を受賞した朝井リョウが、作家生活10周年で書き上げた渾身の一作。家庭環境、性的指向、容姿。様々に異なった“選べない”背景を持つ人たちを同じ地平で描写しながら、人が生きていくための推進力になるのは何なのかというテーマを炙り出していく衝撃的なストーリーだ。横浜検察庁に務める検察官であり妻と子を養う寺井啓喜役を稲垣吾郎、広島のショッピングモールで契約社員として働く桐生夏月役を新垣、両親の事故死をきっかけに広島に戻り、夏月と再会する同級生・佐々木佳道役を磯村勇斗が演じている。

新垣結衣、磯村勇斗(C)2021 朝井リョウ/新潮社(C)2023「正欲」製作委員会
新垣結衣、磯村勇斗(C)2021 朝井リョウ/新潮社(C)2023「正欲」製作委員会
新垣に本作への出演オファーが来た段階ではまだ脚本はなく、企画書とプロット(ストーリー上の重要な出来事をまとめたもの)しかなかった。最終的には、脚本を読んでオファーを受けることに決めた彼女だが、最初のオファーから本作に吸い寄せられるような魅力があったと話す。

新垣結衣(C)モデルプレス
新垣結衣(C)モデルプレス
「最初にお話をいただいた時、私はまだ原作を読んでいない状態でしたが、その時点で何かこの作品にとても惹かれるものがあって。それが何なのか言葉にするのが難しいのですが『あ、やりたいな』と思ったんです。脚本を待っている間に原作を読ませていただいて、映画化するにはとても大変な作品だと改めて認識しました。原作があるものはいつもそうですが、その長い物語を2時間ちょっとにまとめ上げるのが大変じゃないですか。今回もどこをピックアップするかが重要な作品だと思いましたので、監督含め制作スタッフの皆さんとどういうふうに描きたいのかという意思疎通ができ、認識を深めた上で『是非よろしくお願いします』とオファーを受けました。この脚本を読んだ時は、とても誠実に感じましたし、この作品で第一にしたい点が伝わり、同じ方向を向いていけるような気がしました。こういった作品に関わらせていただいている、そういう機会をいただけているということに感謝しています」

新垣結衣、磯村勇斗との出会いに覚えた安心感

新垣結衣(C)モデルプレス
新垣結衣(C)モデルプレス
本作での撮影を「『ただただ楽しかった』という感想では終わらないような、とても大変な現場」と振り返った新垣。自身が演じた夏月のキャラクター像においても「1つの正解もないし、参考にできるものもない中で、監督と常に話し合いながら見つけていくような作業だった」と、不確かな中で役づくりをしていった。しかし、全てを緻密に作り上げていったかと思えば、新垣は「考えているようで考えていない現場だった」とも表現する。

新垣結衣/スタイリング:浜田英枝/メイク:藤尾明日香/ニット・パンツ・シューズ:ハルノブムラタ(ザ・ウォール ショールーム)、ピアス・リング:ボーニー(エドストローム オフィス)(C)モデルプレス
新垣結衣/スタイリング:浜田英枝/メイク:藤尾明日香/ニット・パンツ・シューズ:ハルノブムラタ(ザ・ウォール ショールーム)、ピアス・リング:ボーニー(エドストローム オフィス)(C)モデルプレス
「夏月を演じていく上では、常に体が“重怠い”みたいな居心地の悪さは感じていて、原作の中でも、顔面の肉が重力に負けるという表現があるのですが、まさにそんな感じでした。『このとき夏月はどう感じるのだろう』『どんな顔をするんだろう』と台本を読みながらたくさん想像して考えました。だからこそ本番ではあまり考えず、感覚を大事にできたと思います。映像として『カメラの位置がここで、こういう風に体を動かしたらこういう風に見えるか』という見え方のこともあまり考えていなかったです」

磯村勇斗(C)2021 朝井リョウ/新潮社(C)2023「正欲」製作委員会
磯村勇斗(C)2021 朝井リョウ/新潮社(C)2023「正欲」製作委員会
さらに撮影を振り返ると、世の中に不干渉で何も感じないように振る舞う夏月の表情が、同じく「他人に知られたくないある秘密」を共有する、磯村演じる佳道と再会し、移り変わっていった場面と時を同じくして、新垣自身も磯村との出会いに変化を感じていた。

「私は先に撮影に入っていて、ほとんど1人で悶々としているようなシーンばかりでした。後から、佳道を演じる磯村さんがクランクインされてきましたが、その時はとても安心して『いるだけで心強い』『1人じゃなくなった』とホッとするような嬉しさがあり、仲間がいるという感じがすごくしました。あの作品の中で、きっと夏月と佳道の2人が感じているものを疑似体験できたのかなとも思っています」

新垣結衣、稲垣吾郎演じる啓喜に感じた孤独

新垣結衣(C)モデルプレス
新垣結衣(C)モデルプレス
彼女自身の表情にも変化があったように「それぞれのキャラクターの目からとても伝わってくるものがありました」と語った新垣は、印象深い人物に稲垣演じる啓喜を挙げた。本作では、夏月たちと対峙するいわば“マジョリティ”側の人間として描かれるが、新垣はそんな啓喜にも同じく“他人から理解されない強い孤独”を覚える。

稲垣吾郎(C)2021 朝井リョウ/新潮社(C)2023「正欲」製作委員会
稲垣吾郎(C)2021 朝井リョウ/新潮社(C)2023「正欲」製作委員会
「啓喜が、家族や夏月と対峙しているシーンで、啓喜がテーブルに座っていてぽつんと1人置いていかれる引きのカットがとても辛いと思ったのが印象に残っています。最初、啓喜はいわゆる大多数の意見を持った人間で、普通だと思って生きている人ですが、啓喜なりの正義は啓喜の周りの人たちに伝わらないし、家族にさえも伝わらない。啓喜が受け入れてないようで、受け入れられてない。どっちが正解なのか分からなくなるような感じがとても絶妙でしたし、そんな啓喜のことも悪者にしきれないと感じました」

新垣結衣、孤独を抱える悲しみを乗り越えた方法

徳永えり、新垣結衣(C)2021 朝井リョウ/新潮社(C)2023「正欲」製作委員会
徳永えり、新垣結衣(C)2021 朝井リョウ/新潮社(C)2023「正欲」製作委員会
“マジョリティ”側の人間として描かれる啓喜さえも他人から理解されない生きづらさを抱え、各キャラクターの声、表情、訴え全てから、その強い孤独が伝わってくる本作。新垣自身にも、強い孤独から悲しみや怒りを感じた経験はあったのだろうか。

「人それぞれ、環境によって、何に対して何をどう感じるのかというのは違うので『夏月たちと同じような』とはとても言えないですが、生きていく上で孤独を感じたり、生きづらさを感じたり、それをとても悲しく思う時は今までにあったと思いますし、きっと皆さんもどこかしらでそういう瞬間があると思います」

新垣結衣(C)モデルプレス
新垣結衣(C)モデルプレス
これまで感じてきた生きづらさや孤独、悲しみをどう乗り越えてきたかを聞くと、本作で描かれる夏月と佳道の生き方にも通ずる1つの答えが返ってきた。

「そうは思っていても朝は来るし、やらなくてはいけないこともあるし、それを投げ捨てる勇気もない。時間はただ過ぎていって止まらないから、ただただ向き合っていく中で振り返ってみると、私は支えてくれる人が必ずその節目、節目でいたと思うんです。この作品の中でも、夏月と佳道が繋がってともに生きていけることはすごく奇跡だと思いますが、やはり私にとっても、そういう時には手を取ってくれる誰かがいたと思いますし、私もまだそれをキャッチできる状態で良かったです。そういう人がいたとしても気づけなかったら駄目だったと思うので、すごくラッキーです」

新垣結衣の夢を叶える秘訣

新垣結衣(C)モデルプレス
新垣結衣(C)モデルプレス
女優デビューから約18年、数々のドラマや映画で活躍してきた新垣。そんな彼女が最後に語ってくれた「夢を叶える秘訣」には、関わった作品に1つひとつ向き合ってきた彼女の謙虚な姿勢と人柄が表れていた。

「自分なりの誠実さを持って、やるべきことに向き合うことだと思います。それを1つずつ積み重ねていくと、きっと何かのきっかけになって未来の自分が救われたり、振り返ってみて『よかった』と思えるような時間になったりするのだと思います。いつも子供の頃から、毎回自分なりにできることを頑張ってきたつもりですが、その時、その自分にできることは限られているので、やはりどんどん経験することでできることが増えていくと感じます。

この仕事をしていると一緒に作品を作っていく人や状況が毎回変わるので、常に新しい経験をさせてもらっているのですが、その時々で必要とされることも違いますし、この仕事に限らず、多分生きているうちはいつまで経っても初めてのことや学ぶことがあるのだろうと思います。なので、毎回完璧にできなくても、自分なりに力を尽くして一生懸命向き合えばいいのだと思います」

新垣結衣インタビューこぼれ話

新垣結衣(C)モデルプレス
新垣結衣(C)モデルプレス
インタビューの取材時間があっという間に終わってしまい「うぎゃ!」と可愛らしく驚いていた新垣さん。記者にも丁寧に接してくださる姿が印象的で、そこにも優しい人柄が表れていました。撮影ではきりっとした表情から、夏月を彷彿とさせる無感情さ、そして朗らかな笑顔まで、多彩な表情を見せてくださり、改めて新垣さんの表情の豊かさ、女優としての素晴らしさを感じる瞬間でもありました。(modelpress編集部)

稲垣吾郎・新垣結衣出演「正欲」

新垣結衣(C)2021 朝井リョウ/新潮社(C)2023「正欲」製作委員会
新垣結衣(C)2021 朝井リョウ/新潮社(C)2023「正欲」製作委員会
家庭環境、性的指向、容姿。様々に異なった“選べない”背景を持つ人たちを同じ地平で描写しながら、人が生きていくための推進力になるのは何なのかというテーマを炙り出していく衝撃的なストーリーを映画化するのは、『あゝ、荒野』(2017)、『前科者』(2022)などを担当した監督・岸善幸と、原作を大胆に再構築しながら監督の演出の可能性を拡げていく脚本家・港岳彦。この2人のタッグにより、様々な人たちの人生を大胆な演出表現をもって映像として浮かび上がらせる。

新垣結衣(あらがき・ゆい)プロフィール

新垣結衣(C)モデルプレス
新垣結衣(C)モデルプレス
新垣は1988年6月11日生まれ、沖縄県出身。2001年にファッション誌『ニコラ』モデルグランプリを獲得し、デビュー。2007年には『恋するマドリ』(大九明子監督)で映画初出演にして初主演を務めた。

その後も、ドラマ『ドラゴン桜』(TBS/2005)、『コード・ブルー』シリーズ(フジテレビ/2008~2018)、映画『恋空』(2007)など数々の作品で活躍を続け、主演したドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS/2016)は、社会現象となるヒットを記録した。ほかにも近年では、映画『ミックス。』(2017)『GHOSTBOOK おばけずかん』(2022)、ドラマ『風間公親-教場0-』(2023)に出演し、2024年には映画『違国日記』での主演が控えている。
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