フェアレディZとは?
《写真提供:response》《写真提供 日産自動車》 米国で発表された7代目の日産 フェアレディZ(Nissan Z)
「フェアレディZ」は世界中にファンを持つ、日産自動車が製造・販売するスポーツカーです。「スカイライン」やその後継車種「GT-R」と並び、日産自動車を代表するスポーツフラッグシップモデルに位置づけられてきました。
その誕生は1969年に遡り、2000年代に一時的な空白期間はあったものの復活し、現在まで半世紀以上の歴史を積み重ねています。先進性などが重視されがちなスポーツカーの世界では、単一車名で50年以上の歴史を持つ車種は少なく、こうした面からも日本を代表するスポーツカーといえるでしょう。
ちなみに「フェアレディZ」という名称は日本国内だけのものです。海外では240Z、300XZ、350Z、370Zなどの名称が使用されており、「Z-Car(ズィーカー)」という名称でも親しまれてきました。現行モデルである7代目フェアレディZ(Z34型)は、北米市場を中心に「NISSAN Z」という名前で販売されています。
いつの時代のフェアレディZを見ても、スポーツカーらしいスペックと、スタイリッシュで洗練されたフォルムで、多くの人々を虜にしてきました。
■フェアレディZの名前の由来とは?
《写真提供:response》《写真撮影 安藤貴史》 1969年式 日産 ダットサン フェアレディ(オートモビルカウンシル2023)
日産自動車のホームページによると、フェアレディZの名前の由来は、「美しいお嬢さん」を意味する「フェアレディ」と、未知への可能性と夢という意味合いがある「Z」を組み合わせた言葉とのこと。
とはいえ、パワフルさとスピードを求めるスポーツカーに「美しいお嬢さん」という名称は似つかわしくない感じがあります。また、優雅さが漂う「フェアレディ」という言葉と、究極といった強い意味を持つ「Z」を組み合わせるのも、不思議な感じがするかもしれません。
この謎をひも解くヒントは、「フェアレディZ」よりも前に発売されていた「フェアレディ」という車にあります。「フェアレディ」は、「フェアレディZ」の誕生の約9年前に発表され、当初の表記は「フェアレデー」でした。北米の日産ブランド名称だったダットサンのいちモデルとして誕生したこの車は、荒々しいスポーツカーではなく、名前どおりの華やかさを特徴としたオープンカーだったのです。これは当時上演されていたミュージカル「マイ・フェア・レディ」から命名されたものです。
しかし1960年代はスポーツカーがブームになった時代。日本でも、1962年に鈴鹿サーキットが完成し、翌年には日本グランプリが開催されるなど、スポーツカーへの注目が高まります。そうしたなかで、フェアレディも変化が求められていきました。1962年には「フェアレディ1500」、1965年には「フェアレディ1600」が発売されるなかで徐々にスポーツ色が強まっていき、ついに1969年にスポーツカーの金字塔となる初代フェアレディZが発売されたのです。
優雅で華やかなオープンカーとして産声を上げたフェアレディZですが、時代の波に翻弄されて、その形を変えてきた歴史があります。それでも「フェアレディ」の名称はそのまま残されて、「美しいお嬢さん」という意味を冠するスポーツカーとなったのです。
フェアレディZの特徴や魅力
《写真提供:response》《写真撮影 雪岡直樹》 日産フェアレディZ Z32(白)
フェアレディZは半世紀以上の歴史を持ち、その間モデルチェンジを繰り返しているので、搭載されている技術やエンジンスペックには違いがあります。それでも共通しているのは、美しいデザイン性とスポーツカーとしての高い運動性能です。
デザインは、外観の流線ボディはいつの時代も大胆で美しく、個性的なフロントグリルも相まって、走る喜びを心から予感させてくれます。
そして、スポーツカーらしい高い運動性能も魅力です。例えば4代目フェアレディZ Z32型のツインターボエンジンは、300馬力のポテンシャルを備えていましたが、日本では交通事故の増加が社会問題となっていた時代とも重なり、旧運輸省の行政指導により、280馬力に抑えることにもなりました。これは裏を返せば、フェアレディZはそれだけ高出力のエンジンを載せていたということでしょう。
さらに、フェアレディZが爆発的ヒットになった背景は「価格」にあります。初代フェアレディZ S30型は発売時、スポーツカーとして安価な部類に入る「3万ドル以下」に設定されました。これは当時のポルシェと比べると半額以下です。
たしかに値段が高くて魅力的なスポーツカーは今も昔もたくさんありますが、それらは憧れの車といった立ち位置です。ところが価格が3万ドル以下のフェアレディZは、少しがんばれば手が届くスポーツカーでした。このコンセプトが、フェアレディZの大きな魅力だったのです。
日産はこの「3万ドル以下」のコンセプトを長らく意識しており、2019年に北米日産が発表した「370Z」(日本名はフェアレディZ)もベース価格を2万9,990ドルと、3万ドルを切る価格にしました。
ただ、致し方ないこととはいえ「3万ドルで買えるスポーツカー」というコンセプトは、部品や人件費が高騰している現在、難しくなっています。現行モデルは、ベースモデルでも日本円で500万円オーバーとなり、なかなか手の届きにくい車になりつつあるといえるかもしれません。
フェアレディZの歴代モデルの紹介!
《写真提供:response》《写真提供 日産自動車》 日産 フェアレディZの3代目(手前)と2代目(中央)
ここからは、世界的な人気を誇るフェアレディZの歴代モデルを紹介します。
ちなみに、初代S30型はロングノーズ・ショートデッキのプロポーションで、2代目S130型、3代目Z31型も継承しています。しかし4代目Z32型では、これまでのデザインを昇華させたワイド&ロープロポーションスタイルへと変化。
そして現行モデルとなるZ34型は、初代S30型と4代目Z32型の両方の影響を強く受けたデザイン構成になっています。
こうしたデザインの流れにも注目してみると、点が線で結ばれ、いっそう興味深いものになるのではないでしょうか。
■初代 フェアレディZ:S30型(1969~1978年)
《写真提供:response》《写真撮影 雪岡直樹》 フェアレディZ S30
初代フェアレディZ S30型は先代の「ダットサン フェアレディ」に代わって1969年に発売された初の「フェアレディZ」です。伝説の始まりであり、漫画「湾岸ミッドナイト」でもよく知られています。
それまでの優雅なオープンカーから一変し、ロングノーズ・ショートデッキのプロポーションになったS30。低く、長くなったスタイリングは優美さを失うことなく、むしろ精悍さをプラスして、多くのファンを獲得しました。
エンジンの排気量は2.0L〜2.8Lまでの4タイプをそろえ、すべて直列6気筒を採用しています。2.0L 直6 OHC SUツイン(L20型)エンジンは最高出力96kW(130ps)/6,000rpm、最大トルク172N・m(17.5kgf・m)/4,400rpmで第一級の実力です。
世界的には「Z-Car(ズィーカー)」の名で親しまれ、1978年までに世界販売52万台以上を記録しました。世界の自動車史上、もっとも売れたスポーツカーのひとつとして認知されています。
■2代目 フェアレディZ:S130型(1978~1983年)
《写真提供:response》フェアレディZ S130(1978年~)
初代の大ヒットを受け、大きな期待とともに発売された2代目フェアレディZ S130型は、ロングノーズ・ショートデッキを継承しつつ、ボディをやや拡大させて室内スペースを確保しました。すべてのグレードに4輪ディスクブレーキを採用するなど、スポーツカーとして正当な進化を遂げています。
エンジンの排気量は2.0L 直列6気筒OHCの「Z」と、2.8L 直列6気筒OHCの「280Z」をラインアップ。2.8L 直6 OHC(L28E型)エンジンは最高出力114kW(155ps)/5,200rpm、最大トルク230N・m(23.5kgf・m)/4,000rpmで、初代よりパワフルさが増しています。
280Zは、当時の人気刑事ドラマ「西部警察」に登場する特殊車両「SUPER Z」のベース車で、派手なアクションや渡哲也さんのカッコよさとともに記憶されている方も多いでしょう。
■3代目 フェアレディZ:Z31型(1983~1989年)
《写真提供:response》《撮影 嶽宮三郎》 フェアレディ300ZX
1983年に登場した3代目フェアレディZ Z31型は、これまでのロングノーズ・ショートデッキスタイルを継承しつつ、それとわかる大胆なイメージチェンジを実行。
まずこれまでの丸型ヘッドランプから消灯時でもレンズの一部が見える角型のパラレルライジングヘッドランプになりました。より尖鋭的なシルエットになり、空気抵抗係数(Cd 値)は先代の0.39から0.31へと向上しています。
さらにエンジンはこれまでの直列6気筒 L型から、新世代のV型6気筒 VG型に移行して、さらなる運動性能を獲得。2.0L V6 OHC ターボ(VG20E・T型)エンジンで最高出力125kW(170ps)/6,000rpm、最大トルク216N・m(22.0kgf・m)/4,000rpmを記録しました。
当時のキャッチコピーは「較べることの無意味さを教えてあげよう」というもので、ライバルのトヨタ セリカXX(アメリカ名はスープラ)が自然吸気エンジンを搭載する一方、Z31は全グレードにV6ターボエンジンを搭載し、差別化を図りました。
■4代目 フェアレディZ:Z32型(1989~2000年)
《写真提供:response》《撮影:大野雅人(Gazin Airlines)》 日産『フェアレディZ』2by2 300ZXツインターボ GCZ32型
1989年というバブル景気真っ只中に登場したのが、4代目フェアレディZ Z32型です。過去3代にわたって継承してきたロングノーズ・ショートデッキスタイルから、ワイド&ロープロポーションスタイルに変化。ボディタイプには、2シータータイプに加えて、4人乗りの2by2(ツーバイツー)タイプが用意されました。
ボディサイズは、2シータータイプが全長4,310mm×全幅1,790mm×全高1,250mm、2by2タイプが全長4,530mm×全幅1,800mm×全高1,260mmで、いずれも3ナンバー専用車となったのは大きな変化といえるでしょう。
エンジンは3.0L V型6気筒DOHC(VG30型)で、ツインターボと自然吸気の2機種を用意。3.0L V型6気筒DOHCツインターボ「VG30DETT」型エンジンは300馬力のポテンシャルを備えていましたが、前述のとおり、旧運輸省の行政指導により280馬力に抑えられたという経緯があります。
3.0L V6 4バルブ DOHC(VG30DE型)エンジンでは、最高出力169kW(230ps)/6,400rpm、最大トルク272N・m(27.8kgf・m)/4,800rpmでした。
なお、Z32は惜しまれつつ2000年に生産終了となり、フェアレディZは一時的に絶版車種となりました。この時期、バブルの崩壊や景気の低迷、さらに日産自動車の経営不振などが重なり、モデルチェンジ計画が進まなかったことが要因とされています。
■5代目 フェアレディZ:Z33型(2002~2008年)
《写真提供:response》reproducible トミーカイラ『Z』…新型『フェアレディZ』を“すべてにおいてベストチューン”
5代目フェアレディZ Z33型は、先代のZ32型から2年の空白期間を経て、華麗な復活を果たしました。
この時期、日産自動車はルノー社との提携を始めたばかりで、世界的に名の知れた「Z」は貴重な資産であり、日産復活の旗印として再登場を望む声が国内外で高まったことが背景にあります。
5代目フェアレディZ Z33型のシャシーには、同じく日産の11代目スカイライン(V35型)と同じフロントミッドシップパッケージ「FMパッケージ」が採用されました。電装部品の熱対策のほか、遮音性の向上や振動の減衰に効果があり、ドライブの快適性がいっそう進化しました。またZ33型から、国内では2by2による4人乗り仕様が廃止されています。
当初、搭載エンジンは3.5L V6 4バルブ DOHC(VQ35DE型)で、最高出力は206kW(280ps)/6,200rpm、最大トルクは363N・m(37.0kgf・m)/4,800rpmでした。後に「280馬力」に関する自主規制枠が撤廃され、エンジンはVQ35HR型へと変更されたため、最高出力は313馬力まで向上しました。
■6代目 フェアレディZ:Z34型(2008年~2021年)
《写真提供:response》フェアレディZ バージョン NISMO。先代Z33型から始まったNISMO仕様
フェアレディZは2008年12月に、復活して初となるフルモデルチェンジを行い、6代目 Z34型を発売しました。Z33型からホイールベースを100mm短縮し、フェアレディZのアイデンティティである伝統のロングノーズを表現しています。ワイド感を強調する前後のフェンダー、フロントミッドシップレイアウトを採用した迫力のあるボディデザインが特徴です。
先代のZ33型をさらに進化させ、エンジンはすべてのモデルに共通で、3.7L V6 4バルブDOHC(VQ37VHR型)を搭載。最高出力は247kW(336ps)/7,000rpm、最大トルクは365N・m(37.2kgf・m)/5,200rpmです。この3.7Lの排気量から、アメリカでは「370Z」の名前で販売されています。
先代のZ33型に引き続き、「バージョンニスモ」も用意されていましたが、後にニスモロードカーのラインアップに組み込まれ、名称も「ニスモ」に改められました。ニスモならではの専用チューニングが施されており、さらなるダイナミックな走りを楽しめます。
■7代目 フェアレディZ:RZ34型(2022年~)
《写真提供:response》《写真提供 日産自動車》 米国で発表された7代目の日産 フェアレディZ(Nissan Z)
7代目フェアレディZ RZ34型は2020年9月に「フェアレディZ プロトタイプ」として発表され、2022年1月の「東京オートサロン2022」で日本向けモデルが初公開されました。
歴代の「Z」へのオマージュ、とくに初代S30と4代目Z32の影響を強く感じさせるデザインが目を引きます。
型番はこれまでフルモデルチェンジのたびにZ31、Z32、Z33、Z34と番号部分が更新されてきましたが、7代目フェアレディZの数字は「34」のままで変わっていません。このため、7代目は「6代目後期型」や「ビッグマイナーチェンジ」と呼ばれたりしています。ただし、先代が「Z34」だったのに対し、7代目は「RZ34」とアルファベットが増えており、区別されています。
エンジンは新開発の3.0L V6 4バルブDOHC(XR30DDTT型)で、最高出力は298kW(405ps)/6,400rpm、最大トルクは475N・m(48.4kgf・m)/5,600rpmと圧倒的。「他のやらぬことを、やる」という日産が培ってきたDNAを象徴するモデルになっています。
車両本体価格(消費税抜)は2023年10月現在、490万8,000円~836万4,000円となっています。
ボディサイズ(全長×全幅×全高) | 4,380mm×1,845mm×1,315mm | |
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ホイールベース | 2,550mm | |
最大乗車定員 | 2名 | |
車両重量 | 1,580kg | |
燃費 | WLTCモード:9.5km/L | |
エンジン種類 | DOHC・筒内直接燃料噴射V型6気筒 2,997cc | |
エンジン最高出力 | 298kW(405ps)/6,400rpm | |
エンジン最大トルク | 475N・m(48.4kgf・m)/1,600-5,600rpm | |
駆動方式 | 2WD(後輪駆動) | |
トランスミッション | 6速マニュアル | |
新車価格 | 5,678,000円(消費税抜) |
一番人気のある歴代のフェアレディZはこれだ!
《写真提供:response》《写真撮影 雪岡直樹》 日産 フェアレディZ S30 / Volk Racing TE37V SL 1920 LIMITED
歴代フェアレディZのなかで、一番人気はどの世代なのでしょうか?総合自動車ニュースサイト レスポンスが2020年に実施したアンケートの結果を紹介します。ちなみに、2020年時点では6代目までが発売されていたので、7代目 RZ34型は、このアンケート結果に含まれていません。
一番人気は、「初代フェアレディZ S30型」で、全体の34.5%の支持を集めました。2位は僅差ながら「4代目 フェアレディZ Z32型」の31.3%、3位は大きく離れて「5代目 フェアレディZ Z33型」の9.3%でした。
「初代フェアレディZ S30型」が一番人気なのは、やはりヨーロッパのライバルたちに負けない性能を魅力的な価格で提供し、爆発的なヒットになったことが要因でしょう。やはり伝説の始まりは、だれもが敬意を払うところです。
また、2000年代前半に大きな盛り上がりを見せた「旧車ブーム」も人気に一役買っているように思われます。当時、「ハコスカ」と呼ばれる3代目 スカイラインや、「ケンメリ」という愛称を持つ4代目 スカイラインとともに、S30 フェアレディZもブームの火付け役でした。
さらに、クルマ好きなら1度は読んだり観たりしたことのある漫画や映画などに、S30がカッコよく登場しているというのも理由として考えられます。例えば、「湾岸ミッドナイト」では、主人公が800馬力までチューニングしたミッドナイトブルーのS30型フェアレディZを操りますし、「ワイルド・スピード」でもダットサン240Z、つまりS30型フェアレディZが印象的に登場します。
まとめ
《写真提供:response》《写真撮影 嶽宮三郎》 日産フェアレディZの系譜(オートモビルカウンシル2022)
今回は、1969年の初代S30誕生以来、日本を代表するスポーツカーとして進化を続けてきたフェアレディZについて、歴代モデルの特徴や人気だったモデルとその理由をまとめました。
新型7代目フェアレディZ(RZ34)をはじめ、各モデルはその時代その時代に圧倒的な車両スペックを誇りますが、それだけでなく「歴史を語れる」稀有な車であるとわかるでしょう。
よくある質問
■フェアレディZはなぜ人気があるのか?
フェアレディZは、スタイリッシュなデザイン、高性能なエンジン、手の届きやすい価格設定で人気となりました。
また、アクション刑事ドラマ「西部警察」や漫画「湾岸ミッドナイト」など、数多くの作品に登場し、多くの人の心をつかんだ車です。
■フェアレディZの騒音規制は?
現在販売されているフェアレディZは、当然いま施行されている日本の騒音規制(フェーズ2)をクリアしています。ただし騒音規制は今後、さらに厳しい「フェーズ3」に移行予定で、フェアレディZを含む多くのスポーツカーはもとより、一部のファミリーカーでもクリアできない可能性があると懸念されています。
その時までにフェアレディZをはじめ、多くのスポーツカーが騒音基準をクリアできるのか、注目が集まっています。